323 冬の選手権決勝戦◇ハラダヨシノの新たなる人格
もうあとがない茶薔薇学園柔道部。
副将のハラダヨシノが、普段以上にぶるっている。
二重人格の彼女。畳の上では気弱な乙女モードから修羅モードに変わるが、様子がおかしい。
ハラダヨシノは本来はビビリ。自分に暗示をかけ続けて、柔道をやるときだけ修羅モードを発現できるようになった。
けれどそれは、乙女モードの時点で「変わらなきゃ」と思ってメタモルフォーゼする。
本当に気後れしていると、変身できない。
「ヨシノ頑張れ。ユウキ君もお前を応援してるっていってくれただろう」
「そうだよ。彼のためにも、勇気を持って」
普段は本当に優しい。怪我をした高1の時田ユウキ君という男子を助け、すごく仲良くなっている。
「…私、初めて柔道の試合が怖い」
呟いてしまった。
その時だ。
「ヨ、ヨシノさん、がんば、がんばって」
「え?」
なぜが、試合会場近くの観客の中から、聞き覚えがある声がした。
コートとロングヘアの人が声の主。
「え、え、ユウキ君?」
「ヨシノさん。君の戦う姿を目の前で見たいから、ぼ、僕も、坂元勇太さんのように勇気を出した」
なんと、カツラを被って女子に変装した男子がヨシノを応援しに来ていた。
「連絡しなくてごめん、ヨシノさん。驚かせたくて…」
1人ではない。ヨシノに恋して人当たりが柔らかくなった彼には、仲良くなったクラスメイト4人が付いている。
彼女らも学校を休んで、男子護衛役としてユウキを囲んでいる。ちなみに4人とも大柄で、どことなくヨシノと似ている。
ヨシノの胸が熱くなった。
本当はユウキとの恋はあきらめていた。不知火マイコと花京院夏樹の、瞬間的に夏樹が燃え上がった偽物の恋を見た。
夏樹は最初はピンチを救ってくれたマイコにアタックしたが、何度か断られて簡単に心が折れた。結局は柔道漬けのマイコと疎遠になった。
熊本に来る前の日から、ユウキはLIMEもくれなくなった。
マイコと同じように柔道漬けで、今日2月15日のユウキの誕生日さえ時間を割けないと言った自分は愛想を尽かされたと思った。
ユウキが姿を現さなかったのは、このサプライズのためだったのだ。
気弱だけどモテ始めた希少男子なのに、自分を励ますために雌オオカミの群れの中に飛び込んできてくれた。
すごく嬉しい。けれど厳しい戦いの前の緊張と、同姓からの刺すような目。
乙女なヨシノのキャパがオーバーした。だけどユウキ君の前で修羅にもなりたくない。
「ぐっ」両膝を付いて下を向いて目を閉じた。
「ヨシノさん!」
「………はい」
「ヨシノさん?」
「……はい。お呼びでしょうか、ユウキ君」
目を開けたヨシノは、乙女モードとも、修羅モードとも雰囲気が違っていた。
うっすらと目を開けてアルカイックスマイル。そして静かに語り出した。
「ユウキ君の勇気と愛、しかと受け取りました。我が全身全霊の戦いをもってして、あなたの誕生日に花を添えましょうぞ」
男子出現、ヨシノの変貌。ざわっとする女子達。
『柔らかな笑顔…』
『菩薩様?』
『二重人格どころか、第三の人格だ…』
『菩薩モード?』
いきなり男子が現れて困惑していた審判が気を取り直した。
「両者、前へ」
「ヨシノ頑張れ」
「先輩、ファイト!」
「はい。ありがとう、みなさん」
「始め!」
す~っと、ヨシノが手を伸ばし、どっしりと構えている。
新しいヨシノの人格、菩薩モードに相手が戸惑っている。
修羅モードのヨシノは強いがパワー頼りだった。だから、体重が9キロ重くて同タイプのサンジョウアキコには、カウンターが取りやすい相手だった。
開始2分。
挑発に乗ってこないヨシノにイラついたサンジョウアキコが、担ごうとしてきた。
「今までの私は、自分より力がある相手に強引に力勝負を挑んでいました。銅が鉄にぶつかっても勝てるわけがありませぬ」
ヨシノは横にずれながら相手の技を交わし、上体を使って相手を転ばせた。
「有効」
「樫の木の堅さはなくとも、柳のごとくしなることで大切な役割を果たせるのです。カオル、ツバキの有難き説法を思い出すことにより、ようやく体現できました」
僧侶のようなことを言い出した。
そこからは両者ともに決め手がなく試合終了。
1勝1敗、2引き分けで、大将カオルに繋いだ。
ヨシノは普通に戻った。
「カ、カオル、何とかなったかな…。あとはお願いね」
「任しとけ、アタイがやったる!」
今大会のルールでは、現時点ではエチゴニシキに有利。
茶薔薇の1勝は優勢勝ち。エチゴニシキの1勝は1本勝ち。
大将戦が引き分けなら、ポイント有利としてエチゴニシキの優勝となる。
最後の1戦が始まる。
ハラダヨシノがユウキ君に小さく手を振ると、振り返してくれた。それからカオルに声援を送っている。
余談だが、ヨシノとユウキの恋は今日から急速に進展する。
しかし、勇太の異母妹メイちゃんと冬木ゲンジのようにアブノーマルな1対1恋愛はしない。常識に沿ってハーレムを作る。
行き着く先が違う。
ユウキ君は、ヨシノの勧めで今回の護衛として来てくれた女子4人も受け入れる。高校在学中にヨシノを筆頭に嫁ふたりと婚約者4人を作る。
嫁の1人目はもちろんヨシノ。高3で今日の護衛の女子に子供ができるから、その子が2人目。
その女性が家を取り仕切り、ヨシノは外で稼ぐ役割を果たす。
この辺りの感覚と手順は、至ってノーマルだ。
え、ノーマルですよ。
パラレル世界の男女比は1対12。ハーレム感覚は女子にも備わっている。
ヨシノはユウキの最初の彼女になるから、性の嗜好などを確かめる。
夜の生活は複数プレイもアリなので、急いで彼女仲間を増やした。
ユウキに常識もあったし、多忙なヨシノに代わって最近の日常護衛をしてくれる女子達の意図も分かっていた。
女の子達は、ユウキが大事にするヨシノに第2、第3の彼女になりたいと挨拶に行って仁義も欠かさなかった。
これから、ユウキハーレムが築かれる様子を見ていく勇太。
ハーレムのユウキがノーマルで、純愛の冬木ゲンジが変人扱いされるパラレル世界に変な気分になる。
そして気付く。「そもそも11人の嫁ズがいる俺が、何言ってるんだろ」




