317 ルナとふたりきり
高校柔道、冬の選手権初日の夜。勇太とルナはふたりきりになった。
現在、2月14日の午後7時。
武道館近くにある観光地、水前寺公園の前。
宿泊は梓、純子の嫁ズ、風花を入れて5人で同じ和室の部屋。だけど今現在は梓はカオルのところに行っていて、純子は純子&風花として、地元テレビの放送局に行っている。
勇太も選手インタビューの仕事を終えて、たくさんの女子に囲まれた。
だけど、ルナも3桁近い女の子に囲まれている。
「ごめんね、みんな」
勇太がルナのところに割って入った。女の子に囲まれたルナの手を取った。
そのまま引っ張って会場から連れ出した。
女の子達はあっけに取られたあと、きゃーきゃーと騒ぎ出した。その頃には勇太とルナは外に出ていた。
「どうしたの、勇太」
「最近、ルナとふたりで歩く日が少なかったから、強引だけど連れ出した」
謝られたけど、ルナとしては嬉しい。久々に勇太を独占できる。
あと2時間くらいしかないけど、何しようかと勇太が聞いた。
「だったら、3キロくらいあるけどホテルまで歩かない?」
「あ、いいね」
男子の時間を独占して目的もなく歩く。男女比1対12の世界では贅沢である。
ちょうど熊本市が男子の安全居住空間を広げており、水前寺から熊本城エリアまで、明るめの街灯と監視カメラ付きの『清正ロード』が2022年に開通している。
勇太とルナは、そこを歩き始めた。
聞いていた通りに男子ハーレムも一定間隔でいる。通りに入った直後から2組見かけた。
ただ、すでに日が暮れていることもあり、男子ひとりに護衛も兼ねた女子は最低8人。警戒が激しい。
勇太は自分とルナの攻撃力があり、一応は防犯目的にスマホまで向けられているから余裕だろと思っている。
手をつないで歩いている。
「勇太、お腹減ってない?」
「うん、減った」
「なんか食べていこうよ」
「じゃあさ、ここから2キロくらい進むと、ガッツリ食えて美味しい洋食屋があるって聞いたから、そこにしない?」
「おっけ~」
ルナは、こんな忙しい中でも自分を気遣ってくれる勇太が大好きだ。
熊本の旅で色んな思い出が作れるだろう。その中で、1番に心に残るシーンは今のこの単なる散歩なのかもしれないと思った。
「勇太」
「ん?」
「勇太と初めて話して、もう9カ月もたつんだね」
「まじ? 早いな~」
「勇太は有名になってモテてるのに、ぜんぜん変わらないね」
「ルナもだよ」
「私は変わったよ」
「どこが?」
ルナは立ち止まった。そして勇太の方を向いて自分の唇を指さした。
勇太は、それに応えてキスをした。
「ん…」
真っ赤になりながらルナは言った。
「この9カ月間で、普通の肉食女子らしく、少し大胆に…なれた」
「はは、ホントだ」
とっても自然なふたり。この世界では自然なのです。
この光景を見ていた近くのハーレムグループでは、女の子が『街角ちゅ~、いいなあ。あれやりたいな…』と呟いた。
そのグループのハーレム男子は、性格はいい21歳。呟いた女の子の誕生日だから今日は暗くなったのに、みんなで街歩きを敢行した。
恥ずかしいながらも、思い切って誕生日女子にキスした。そしたら、涙を流して喜ばれた。
誕生日の街角ちゅ~は、そのハーレムの定番となる。それが別ハーレムにも波及する。
パラレル熊本の『清正ロード』は、『キス正ロード』の異名を取ることになる。
超が付くほど硬派な戦国武将のパラレル加藤清正なのに、このパラレル日本では愛の伝道師みたく覚えられていく。
その原因を作った勇太とルナは、自分達のペースで歩いている。
ふと、勇太は前世の中3の夏祭りの日を思い出した。
6人でお祭りに行った後、ルナを家まで送って行った。
話が尽きなくて、次の日も会おうと思えば会えるのに、ルナの家の前で30分も話していた。
その、誰にも注目されなかった時とはルナ自体も状況も違うのに、同じような感覚が蘇った。
「そうだ、みんなにお土産買っていかないとね~」
「だな」
「なんにしよっかな~」
「ルナは何がいい?」
「うんっとね~」
口を半開きにして、目が上を向いている。
久々にルナが会話に夢中になりすぎて、唇を押さえたり、頭をぶんぶん振っている。
みんながアホの子状態だという。
だけど勇太だけはリズムを合わせられる。それだけは、勇太とルナだけの世界。
「うん、考えつかない! 一緒に何か探しに行こうよ」
「おっけ~ルナ」
ネットの目撃情報もある。他のハーレムグループも、男子の前で飾らないルナを見ている。
けれどルナは会話に夢中で、周囲を気にしていない。ルナが平常心なら、勇太もそれに応えるだけ。
勇太の前世なら誰の印象にも残らない光景。
だけど、男女比1対12の世界では大いに目立つ。パラレルルナは、パラレル熊本でも同性から尊敬の念を持って見られる存在になっている。




