311 勇太、キヨミ、にゃんこ
キヨミと勇太の1対1デートは、子猫の親探しに変更された。
早く見つかれば予定していた自然公園に行く。時間がかかったら、それから考える。
基本的にハーレム男子との1対1デートは貴重。そんな時間を愛を深める目的以外に使った例は少ない。
さらに防犯上の問題もある。男女警護の態勢が整った区域でなければ男女ふたりのデートなんて実行されない世界。
どうしても、珍しい現象に女の子の目が向いてしまう。
映像から、勇太出現地点の当たりを付けた女の子が出てきて、スマホ撮影している。
「あ、ほんとに勇太君がいた…」
早速、撮影だ。
珍しい男子の行動を撮るためだけど、防犯にも役立つから、これはアリ。
キヨミは分かっていたけど、勇太は本当に優しいと改めて思っている。
「みゃ~ん」
「はいはい、そっちだね。行こうキヨミ」
「ん」
とことこ歩く子猫をふたりで手を繋いで追っている。
「にゃ~ん」
「は~い、にゃんですか?」
「先輩、猫語にゃ」
「お前もだろ」
「にゃへへ」
今日は笑顔に次ぐ笑顔のキヨミである。
ネットの反応が変わってきた。
男子を巻き込んで予定変更をしたキヨミに最初はヘイトが集まっていたけれど、好意的な意見が増えだした。
『なんだか、これいい』
『ふたりとも楽しそう…』
『猫と男子が、どこかにおちてないかな』
ちょっと古い家が建ち並ぶ住宅街の十字路で子猫が立ち止まった。
勇太はせかさない。キヨミと一緒に子猫の後ろにしゃがんで、行く先を決めるまで待っている。
だからキヨミも、安心して子猫を見ていられる。
「お、そろそろ動くぞ」
「右?」
「みたいだな」
「否、反転、さらに反転にゃ」
「落ち着け。俺達が付いてるにゃん」
「みゃ~ん」
みゃん、にゃん、みゃんと蛇行しながら、とことこと3人で進んでいく。
なんとなく、ネット配信を見ている人は目が離せない。
やがて、子猫は生け垣で囲まれた日本家屋の前に立った。
「到着?」
「みたいだな。よかったな」
けれど、子猫はキヨミと勇太の方を見て何かを訴えるかのようだ。中にも入らない。
「みゃん、みゃ~~ん」
「ここの家の子なのか、聞いてみようか」
そのとき、キヨミの笑顔が普段とも違う真剣な表情に変わった。
勝手に家の敷地に入り、庭の方に向かった。
「あ、こら、キヨミ」と言った瞬間、勇太にも何か聞こえた。
そしてキヨミに続いた。子猫も同じ方向に付いてきた。
縁側から広がる庭の、植木の横にお婆さんが倒れていた。
「う、うう…」
キヨミも勇太も、この声が聞こえた。
「どうしました」
「う、う、胸が…」
緊急事態だ。なんと病人がいた。
撮影女子は地元の人で、お婆さんとも知人。勇太がこの場所を聞いて、救急車を呼んだ。
キヨミはというと、お婆さんの背中をさすり続けていた。
「だいじょぶ、お婆ちゃん、だいじょぶ」
震える声で、一生懸命にお婆さんを励ましていた。
たちまち救急車が来て、医療センターに搬送された。
………。
お婆さんは心臓発作で、放って置かれたら危うかったが、命には別状なし。そう病院から連絡があった。
「すごいですね勇太さん。嫁ズのピンチに敏感って聞いてたけど、人命救助もするなんて」
勇太は、撮影女子に笑って言った。
「いや、これは困ってる子猫を助けてあげようとしたキヨミのお手柄だよ」
「みゃ~」
いつの間にか、子猫を抱き上げていたキヨミが照れている。
猫のことを聞くと、まだ小さいのに野良らしい。
この家のお婆さんには、よく餌を貰っていたとか。
ふたりと会ったときの行動からして、子猫は単に腹が減ってこの家に来ただけだろう。だけど、結果としてお婆さんを助けた。
さて子猫のことである。
お婆さんを救って恩返しする結果となったが、餌をくれる人もいなくなった。
そしてキヨミが猫を放したそうじゃない。子猫も黙って抱かれている。
「キヨミ、連れて帰りたいのか」
「…ん」
「じゃあ、キヨミの家で飼えるように頼んでみよう。ダメなら俺の家で面倒見るよ」
「にゃへ」
「にゃ~ん」
それからデートは大幅に行き先変更となった。
おあつらえ向きに近所にあったペットショップに入った。
「どうも~」
「あ、カフェの勇太君だ。今日は何をお求めですか~」
「電車に乗せられる、猫バスケット、寝床を見せてくださ~い。あとは子猫用の猫缶、猫砂ですかね」
キヨミびっくり。梓には勇太がペットを飼ったことがないと聞いている。なのに、必要なものを知っている。
電車の乗せ方も解っている。
確かにパラレル勇太はない。だけど勇太は前世では、梓と猫を拾ってきて飼ったことがある。
懐かしい。
「先輩、お金」
「ニャンコ用品は、俺からのプレゼント、それでいい?」
「…ん。ありがとです」
「にゃ~ん」
キヨミは特に物欲がない。初デートだから何か記念になるものを買ってもらいたいけど、何も浮かばず困っていた。
ちょうど店内に子猫とそっくりなぬいぐるみが置いてあった。見ていたら勇太が買ってくれた。
普通のアクセサリーをもらうより、キヨミは嬉しく感じた。
帰りの電車では、ベンチシートに勇太とキヨミで並んで座り、ふたりの膝の上に猫バスケットを乗せていた。
スマホで撮影されている。
バスケットの中では、閉じ込められて不安な子猫が鳴いた。
「にゃ~ん」
「にゃにゃにゃだよ」
「猫次郎は、なんて言ってるんだ、キヨミ」
「猫次郎、早く出せって言ってるにゃ」
「まだだにゃ、って言ってくれ」
「だってにゃ、猫次郎」
「にゃご?」
「あはは。絶対に伝わってないだろ」
「えへへにゃ」
キヨミの命名、猫次郎。
ふたりと1匹で、にゃにゃにゃと笑っている。
男子警護の観点からキヨミの行動には賛否両論あるが、人命救助に繋がったので大っぴらに批判できる人もいない。
それより『勇太君と猫語で愛を語り合うキヨミちゃんがうらやまし~~』の意見が飛び交っている。
愛は語り合ってはないよな。




