310 長谷川三姉妹のキヨミとデート
1月31日の金曜日。
キヨミと1対1でデートになった。
勇太が三つ子も将来は嫁にすることに決めた。親御さんにも挨拶をした。だから個別デートをするかと言った。
すると、マルミとタマミから、最初にキヨミとデートしてくれと言われた。
マルミ、タマミには3月になってからでいいと言われた。2月が超多忙な勇太のスケジュールは把握している。
勇太が柔道部に入って、ルナの次にキヨミとの接触が多かった。ネットでたたかれても、男子へのセクハラと同級生に怒られても、色々と仕掛けた。
本当は三つ子の中で一番にメンタルが弱い。
だけど勇太を初めて見た日から行動に出ていた。人付き合いが苦手なのに、真っ先に梓に挨拶に行った。
マルミとタマミは、勇太ファミリーに認めてもらったのは、キヨミのお陰だと思っている。だからキヨミが口に出さなくても、望んでいる1対1デートを最初に叶えてほしかった。
とりあえず、勇太が嫁ズに用意した恋人リングだけリクエストした。
◆
午前9時55分のパラレル駅前の広場。
例によって勇太は花一輪を右手に持って立っている。
当然、女子達がスマホを向けて色々と話をしている。
「わ、勇太君の1対1デートスタイルだ」
「今日は嫁ズの誰だろ」
「4人の婚約者が追加確定だから、そのうち誰かじゃないの?」
「不知火マイコさんかな?」
「長谷川三姉妹じゃないの。不知火さんは、最低でも1年半は柔道漬けらしいから」
「そうだった。すごいよね不知火さん」
「勇太君が目の前にいるのに自重できるんだ」
「本物の求道者だよね。尊敬する」
マイコに好意的な意見が聞こえてきて、嬉しい勇太だ。
10時ぴったりになった。
「さて、まだキヨミは見当たらないが…。そこだ!」
勇太は、いきなり大声を出して振り向いた。
やっぱりというか、いたずらっ子のキヨミは真後ろから接近していた。
勇太の声で固まったキヨミの右手を捕まえた。
「キヨミ、つ~かま~えた。俺を驚かせようだなんて甘いよ」
「…失敗」
「おはよキヨミ。花はいかがですか」
「…ん。ありがとです」
「それから、これ」
掴んだキヨミの右手中指に、他の嫁ズと同じ恋人リングをはめた。
「……えへっ」
キヨミは顔を真っ赤にしながら、笑顔になった。
勇太がキヨミの笑顔を見るのは3度目だ。
ギャラリーは、やっぱりこれが長谷川三姉妹の三女、キヨミだと思った。
男子へのセクハラ女と一部でヘイトがあっても、肝心の勇太ファンには人気のキャラだ。
◇
勇太は、一応のデートプランは立てている。
けれどキヨミの希望があれば、そちらを優先する。
「キヨミ、どこに行きたい?」
「ここ」
スマホを出して地図を見せた。
8駅先の緑地公園。ウサギ、ワラビーの飼育がしてあって触れ合いコーナーもある。
冬は、春や秋に比べて人が少ない。
そんなこと勇太は気にしない。
「よし、ウサギを見に行こう」
電車の中でも手を繋いでいる勇太とキヨミの姿がネットで配信されている。
今日のキヨミは学校をサボった。単なる平日だ。けれど男女の過度な接触が推奨される男女比偏り世界。
キヨミの嫁入りは確定だし、人口増加に繋がることは善である。
ネットにもデートの光景が流れていても、暗黙の了解で風邪欠席として処理された。
目的地の駅に降り立った。目的地までは徒歩で200メートル。
「キヨミ、平日は施設内にキッチンカーとかいないってさ。腹ごしらえしていこうぜ」
「ん」
キヨミは、勇太に花をもらってから笑顔のままだ。
普段の無表情と違いすぎるから、素直に嬉しいんだなと分かる。
ファミレスでご飯を食べて、さあ出発となったときだ。
1匹の黒い子猫がふたりの前に現れた。
「みゃ~~」
「どした?」
キヨミが子猫に話しかけると、子猫はふたりのところに近付いてきた。子猫はキヨミの足にすりすりしてきた。
「可愛いけど、どうしたのかな、キヨミ」
「多分、迷子…」
今日は念願のデート。
それに、本当はカフェの仕事のあと、柔道連盟に顔を出すはずだった勇太が時間を空けてくれた。
さすがのキヨミも、これからどうしようと困った。
けれど勇太は、やっぱり勇太なのだ。
「キヨミ、先にこの子の親を探そうか」
キヨミが勇太を見上げると、何もとがめる感じがしない。希少男子の中でも多忙な勇太なのに、優しく言ってくれた。
「ん…ありがと、先輩」
「みゃ~」
ここは小さいながらも駅前。スマホを構えた女の子がリアルタイム映像を流している。
男女比1対12の日本。デートの行き先不透明なんて、男子の安全確保の問題から見ても、推奨されない。
早くも猫の親探しを止めるべきキヨミに批判の声がネット上に上がっている。
勇太もネットを開いてそれを見たが、今日はキヨミのやりたいことをやってもらう日。
デートの予定を変更して、子猫の親探しを始めた。




