309 遊び心が生まれた嘉菜
1月28日。
勇太は午後1時まででリーフカフェの仕事を切り上げた。
これから間門嘉菜とデートである。
嘉菜が2年間のアメリカ留学に向かう日まで2か月を切った。
他の嫁ズの意向で、勇太と嘉菜の時間を増やそうということになった。
嘉菜は恐縮しつつも、リクエストを出した。
『梓&真子ミックスルート』である。
「なにそれ?」 嫁ズのみんな、嘉菜のパートナーである吉田真子もピンとこなかった。
嘉菜だけは他の嫁ズと違い、最初が普通の勇太ファンだったことが大きい。
9月3日のゲリラライブを偶然に見たことから、勇太を知った。
梓、ルナ、カオルと勇太との1対1デートに何よりもあこがれ、ネットで何度も見返していた。
だから初デートではB級グルメ巡りで自分のオリジナルを満喫したあと、勇太&ルナが行った『聖地』パラレル山に登った。
どうせ図々しくなっていいと言われれば、今度は勇太&梓で最初に辿った『梓ルート』を自分もやってみたい。
プラスして、嫁ズの中の最愛パートナー真子のルートもミックスして辿りたい。
勇太はタクシーに乗って、嘉菜の高校に行った。
真子が勇太にパラ高の校門に迎えに来てもらった時を再現してもらった。
少し遊び心が出てきた。
高3で3学期の放課後、教室には人があまりいない。窓から嘉菜は校門の方を見ていた。
すると下校中の1、2年生が校門近くでざわつき始めたのが見えた。勇太が来たのだ。
ここは勇太に慣れているパラ高ではない。女子高である。作詞作曲家でも有名な勇太が来たから騒ぎになっている。
嘉菜は真子の時のように、下駄箱で靴に履き替えて校門の方に歩いた。
マカドの跡継ぎ候補筆頭として、公の場に何度も出た。勇太ファミリーの中では人前で喋る機会は誰よりも多い。
けれど、今回は予想通りというか緊張感が違う。
真子が言う通り、同性からの圧がすごい。
その中には、自分の異母姉妹までいる。
「ん?」
勇太の存在は確認した。その勇太が予想外のものを持っている。
花束だ。
♪♩♩♪♩♩
「♩♩♪俺の愛を込めた花束を♪♪」
勇太が嘉菜を見つけると、この世界の歌を歌い始めた。
嘉菜は真冬なのに顔がカッカしてる。
「嘉菜さ~ん」
「ゆ、勇太さん、お待たせしました」
「どうぞ~~」
ばさっと、花束を受け取った嘉菜は固まってしまった。
嘉菜の姉妹達は、普段の凛々しい姉と違うバグり方に笑顔だ。
そして嘉菜の手から花束と鞄を受け取って、帰ってしまった。
「さ、嘉菜さん行きましょうか」
手を差し出され、どよめいた。
勇気を出して手を乗せたらどよめいた。
頬にチュッとされたら、もっとどよめいた。
ぼそっ。「確かに、真子ちゃんが言ってた通り。メンタル削られる・・」
けれど、楽しくて仕方ない。
勇太と歩き出した嘉菜。
少し歩くと、真冬なのに背中に熱くなるほどの視線を感じた。
「はっ」
下級生が付いてきている。
「そうだ。ここはパラレル市内だけどパラ高周辺じゃない・・」
嘉菜が勇太ファミリーの一員だということは、校内でも知られている。
初のお迎えデート。ここは男女比1対12世界。
色々と規律もうるさい校門前で男子ひとりが女子を待つ光景など、これまでなかった。
パラ高付近なら暗黙の了解でふたりきりだけど、みんな興味津々。1、2年の生徒が50人ほど付いてきている。
けれど勇太は、気にしなくなった。
「嘉菜さん、あそこの喫茶店にお願いして席取ってあるよ~」
「あ、はい、はい」
勇太が落ち着いているから、ほんの少しだけど嘉菜も心拍数が下がってきた。
喫茶店のドアを開けると、可愛い系の服を着たオーナーさんと、3人の店員さんがいた。
「いらっしゃいませ~。予約されてた坂元さんですね~」
詰めれば30人近く入れる店内。
勇太と嘉菜だけは4人掛けの席に2人で座っているけど、周囲は4人席に6人とかで座っている。
ここまでになると、嘉菜は逆に落ち着いてきた。
自分達に向けられているスマホに手を振ったりした。自校の生徒もいて、校内でもそれなりの地位。
やっかみなんかなくて、羨望のまなざしを浴びている。
「勇太さん」
「はい」
「真子ちゃんの誕生日のときのように歌って下さい」
これは『真子ルート』の再現だ。勇太は、やっぱりきたかという感じ。
♩♪♪♩₤₨♩♪₨
勇太は返事の代わりに、嘉菜の手を握った。そして自分が提供した嘉菜のテーマソングを歌い出した。
「いいな~」
「私も歌詞にあるように、『ずっと君を誇りに思う』とか言われたい~」
「嘉菜先輩、顔が真っ赤」
「ふふふ勇太さん、嬉しいです」
「はい、あ~ん」
勇太が自分のケーキを切って嘉菜に差しだした。
「え、え、は、はい、あ~ん」
ぱくっと食べたら、周囲がどよめいた。
このあとパラレル市まで行って、梓と勇太の初デートルートも辿った。
そして締めは、ファミリーみんなにLIMEをして勇太と真子の初デートで行ったメキシカンレストランを訪れた。
一夫多妻が当たり前のこの世界、やっぱり喜びは妻同士で共有するのが当たり前なのである。




