301 グラウンドの中心で愛は叫ばない
1日22日の放課後。
勇太は嫁ズナンバー7の吉田真子をおんぶ、ルナの手を引いて放課後の校門に向かって歩いている。
もちろん大注目だ。
今日の勇太は、体育の時間に周囲をざわつかせた。
今日は勇太、真子の3組とルナの4組で合同体育の授業があった。校庭でマラソンの日だったけど、真子が足をひねった。
◆
体育の時間までさかのぼる。
みんな、長袖のジャージ上下だ。
勇太は上着のファスナーを7割空けているので、冬でもエロカワ健在。
「ルナ、委員長、今日は一緒に走ろうよ」
「ええ? 私はすごく遅いよ。ふたりに悪いよ」
「大丈夫。自主トレのときルナと本気の駆けっこしてるし、せっかく3人だから楽しもうよ」
「だね」
「悪いよ・・けどありがとう。甘えちゃおうかな」
「よし」
「おっけ~」
勇太が右手でルナ、左手で真子の手を取って走り出した。
勇太ファミリーは女性同士も籍を入れる関係だから、ルナと真子も仲がいい。
3人のやり取りに、『炎上してしまえ、リア充どもが』の怨念が渦巻いている。
それでスタートしたのだが・・
やはり真子は頑張りすぎる。
手は繋いでないけど、勇太が退屈しないようにと、オーバーペースで走ってしまった。そして800メートル地点で転んだ。
「きゃっ」
「真子!」
「委員長!」
勇太とルナで抱き起こしたけど真子が左足首を引きずっていた。だから勇太が触診した。
勇太は意外に分かる。
勇太は前世を難病で去った。その過程で筋肉がなくなっていった。
当然のごとく抵抗した。歩けなくなるのが怖かった。筋肉や靭帯の位置を確認しながらセルフマッサージした時期もあった。
こっちの世界では女神印の健康体があるから忘れていたが、勇太には応急措置の基礎知識が入っている。
「委員長、寒いけど我慢してね」
「ええ?勇太君」
真子を心配して集まってきた、2つのクラスの女子達がざわついた。
そして心配の感情が、真子へのヘイトに変わった。
勇太が真子のジャージをまくって、靴と靴下を脱がせた。そして右手でふくらはぎを持って、左手で踝の辺りを触り始めた。
「ゆ、勇太君、足が蒸れてて・・」
「そんなことより、この辺は痛くない?」
「軽くひねった程度の痛みだよ・・・はっ」
真子は周囲の視線と、校舎の窓際から身を乗り出して見ている女の子に気付いた。
公衆の面前で、希少な男子に自分の汚れた足を持たせている。
「ゆ、ゆ、勇太君」
「大怪我ではないと思うけど、保健室に行こうよ委員長」
「は、はい、・・えええ!」
真子は自分で立とうとしたけど、その前に勇太に抱えられた。
校庭のど真ん中。
愛は叫ばないけど、パラ校創立以来初となる、男子による女子の運動場お姫様抱っこだ。
「ルナ」
「分かってる。真子の靴と靴下だね」
「うん、よろしく」
授業中なのに、進行方向の校舎から身を乗り出して見ている生徒かたくさんいる。先生も混じっている。
後ろからは、3組と4組のクラスメイトの刺すような視線を感じる。
『前門のメス虎、後門のメス狼』
真子は、男子に尽くされた女子が同性に嫉妬されるときに使われる、有名な格言を思い出した。
最近の真子は、勇太の攻撃に慣れてきたつもりだった。
いきなりの頬ふにふにも耐えたけど、今回は桁が違う。
柔道の試合会場、満員の観客の前でルナやカオルは、勇太にお姫様抱っこされている。
ふたりに夢見心地だったかと聞いたら「状況を楽しむ余裕なんてなかった!」とハモられた。
「あぐっ」
真子は意識を手放しながら、ルナとカオルと同感だと思った。
◆
そして放課後、真子の一番のパートナーである嫁ズナンバー6の間門嘉菜が車で真子を迎えに来た。
真子は遠慮したのだけれど、勇太が真子を背負い、ルナが荷物を持ってくれた。
熱視線を浴びる真子は緊張のあまり、何度も意識を手放しかけた。
体育中の男子によるお姫様抱っこ、放課後の男子による女子のおんぶ。共に勇太の例しかない。
真子は家で、感想を姉妹に聞かれて語った。
「刺激がありすぎる勇太君の過剰サービスは、時に楽しむ余裕がなくなるときがあるんだよね~」
妹達は声を揃えて『知らんがな』と言ったとか。




