299 この世界、普通の高1の教室
勇太はアメリカの歌手と遭遇したあと、ルナと学校に行った。
そして1年生の梓の教室に行った。まだ来ていない。
「あ、勇太さんだ!」
「おはよ、みんな。梓はまだかな?」
「まだで~す」
言うなり、梓のクラスメイトが群がってきた。勇太は学校の中で、ここだけは少し苦手だ。
しかし、梓がお弁当を忘れてきたから届けにきた。
梓は、大好きなカオルが前の日、冬の選手権・県大会で優勝した。来月2月14日に東京で全国大会に臨む。
変わらず柔道漬けのカオルに、今日もお弁当を作って行った。
そして自分のお弁当を忘れた。だから勇太が届けにきた。
「もしかして梓、またお弁当忘れたんでか~」
「どこかそそっかしいのよね」
「寝不足じゃない?」
「・・きっと夕べは勇太さんとセッ●スしたな」
「梓に聞いても、普通って言うけど、うらやまし~」
「いいな~、絶倫男子にイカされまくりか~」
15~16歳の女の子が、珍しいものを見ると騒ぎ出すのは、勇太の前世もパラレル世界も同じ。
けれどここは、男女比1対12世界の肉食女子の群れ。
内容が前世感覚が残る勇太からしたら、どす黒い。
なのに女の子達の表情は爽やかだ。
梓が登校した。
「あ、ユウ兄ちゃん。どうしたの?」
旦那様でしょ、と梓にクラスメイトから突っ込みが入る。
「梓、カオルのお弁当届けるのに夢中で、自分の弁当忘れただろ」
「え、あっ、いっけな~い」
「朝飯もろくに食わずに出ただろ、ほら」
勇太が朝から焼いたクッキーを口に放り込まれた。そして勇太が握ったお握りを手渡された。
「んぐっ、さんきゅ」
「喉に詰めるなよ」
勇太は梓の教室を見渡した。
「どうしたの、ユウ兄ちゃん」
「そういや、カリンがいないなって・・」
パラレル渋谷カリン、梓の親友で転生2日目には会っている。可愛い153センチ。
「ごめ~ん、言ってなかったね」
「?」
「カリン、今日から来年度一杯まで休学なんだ」
「ええっ!」
思わず声が出た。前世を病気で去った勇太は、こういうことを聞くと、どうしても最悪を考えてしまう。
「何があったの?」
「え、普通に産休だよ」
「サンキュー?」
変なニュアンスの勇太に、何人かの女の子が吹き出した。
「カリンは赤ちゃんを生むの、ユウ兄ちゃん」
カリンは秋に彼氏ができた。他校の3年生で、カリンで彼女は3人目。
3学期になってカリンの体調が悪くなり、医者に診てもらったら妊娠発覚。
相手男子は誠実なほうらしく、認知ではなくカリンと婚姻。妻として迎えた。
クラスメイトが勇太に話しかけてきた。
「このクラスの妊婦第一号は梓だと思ってたのに、カリンだったんですよ」
「カリンが2年生として復学するとき、私達は3年生。後輩か・・」
勇太が慣れない会話のひとつ。前世なら、高1の妊娠なんて即退学。パラレル世界では、復学も退学も本人の自由。
これだけはルナ、梓とさえ噛み合わない。
「けど梓もそのうち赤ちゃんできて休学したら、カリンと同級生じゃない?」
「あ、そうだね~」
そうなのである。梓はやる気満々だ。
きたる3月3日に、カオル、ルナとともに結婚式をする。
柔道家を続けるカオルの基礎体温を付けて、妊娠しやすい日は勇太と本番はさせないと勝手に決めている。
ちなみに初夜予定の3月3日はカオルの安全日。
けれど梓自身は早く子供が欲しいと願っている。
ひとつは本能。
もうひとつは責任感。
勇太には、すでに嫁ズ7人。マルミ、タマミ、キヨミの三姉妹を受け入れるのは時間の問題。
勇太の嫁と婚約者が高校在学中に最低でも10人となると、梓自身がファミリー村の村長をやらねばならない。
それが、ファミリー最初の妻の役目と疑わない。
だから、自分の子供は自由が利くうちに欲しい。
これは勇太とルナだけに明かしているが、明かしたときにふたりにキスされまくった。




