281 戦いを終えたカオルは
カオルの内股を勇太が受けに行った。
タイミングは勇太有利に見えた。カオルは回避する技を多く持っている。だけど、あえて正面から行った。
カオルの反射神経なら、踏ん張って足が止まった勇太の足を内か外で掛ければいい。
だけど、ふたりは婚約者。
真っ向勝負で気持ちをぶつけ合った。
カオルの内股を勇太が体で受け、一瞬は止まった。
「よし」勇太は思ったが、カオルはセンスの塊。
勇太がカオルを止める。次に持ち上げる。ルナ、マルミ、タマミ、キヨミのパラ高有段者4人にも、この動作が隙なく感じる。
だけどカオルの反射はゾーンに入っている。勇太が持ち上げるため、重心を入れるための刹那の時間に、もう一段階ギアを上げた。
勇太はカオルの左足に手が届いた。けれどカオルはもう一度、力を入れ直して勇太を腰に乗せて右足を跳ね上げた。
加速した。勇太の手がカオルから離れて身体が浮いた。
「カオルちゃーーーん!」
梓よ、大好きなカオルが投げた瞬間に声が出るのはいいが、投げられてるのはお前のダンナだそ。
勇太の天地が逆転。
ぱーんと、畳にたたきつけられた音がした。
ルナも、伊集院君も声が出ない。みんな、声が出ない。
カオルが勇太の上になって、押さえ込み体勢。
勇太とカオルは審判を見た。審判の左手が上がった。
「1本!」
わあああ!きゃああ!と武道館が割れんばかりの歓声が上がった。
同時進行で行われた3つの試合場では戦いが終り、みんなが注目していた。
カオルは勇太の上になったまま放心していた。試合というか、勝負に勝てた気分だ。
試合として見ると30点だろう。
だけど真正面から、練習してきた技を出せた。今まで使ってきた技の、その先が見えた気がした。
体勢そのままで、ぼ~っとしている。
だけどここは、観客満タンの試合会場。
称賛の声が終り、きゃ~、きゃ~、と黄色い歓声が聞こえてきた。
「カオル、どうした。動けないのか?」
勇太の声が、右のおっぱいの下から響いてくる。
放心して体勢そのままだったが、投げたあと勇太の上にのしかかった。
長年の条件反射で押さえ込み体勢。右半身で勇太の上になり、右手は勇太の首に巻かれている。
「もがもが、まさか、怪我したのか!」
心配してくれる勇太の口は右の乳首の真下。
勇太の響く声が乳首にダイレクトに響いた。特に興奮しきった今。
勇太のフェロモン3割増し、響く声は歌の練習効果で5割増し。乳首が痛いほど硬い。
そして仲間からの刺すような視線。顔が爆発しそうなほど熱を持った。
「う~~、あぐっ」
カオルは意識を手放した。
「カオルー!」
勇太は力が抜けたカオルの下から抜け出して、カオルをお姫様抱っこした。
そしてパラ高陣営に連れて行ってしまった。
「勇太、カオルは茶薔薇の人だよ。さらってきちゃダメ」
「あ・・」
ルナはなんとなく、カオルの気絶の理由が分かる。だから冷静。
再びターン。
試合場の上を勇太がカオルをお姫様抱っこして、右往左往している。
ギャラリーのきゃー、きゃーという声がなおさら大きくなってカオルは意識が戻った。けれどカオルは、ここで目を開ける勇気はなかった。
そしてカオルは茶薔薇陣営に運ばれた。
「なんともないよ、コイツ」
「試合の緊張解けて、エロモードに入って気絶しただけだよ」
「多分、もう起きてるよ、勇太君」
「その辺に放り投げなよ」
投げ捨てられるのは勘弁と、カオルは目を開けた。
「いい試合だったのに、最後がぐだぐただよ」
ツバキ部長にあきれられた。
ふたりで開始線に戻って審判さんに礼をした。
最後は締まらなかった。
パラ高は黒星スタート。残り4戦。
次鋒はタマミ、中堅がキヨミ、副将がマルミで、いずれも体重55キロ。
大将ルナ、53キロ。
対して茶薔薇は先鋒をカオルにしたことで、布陣を変えてきた。
次鋒に69キロ級のエース・ハラダヨシノ、中堅が1年生の有望株でウメカワアヤカ。
副将は山田ツバキ部長。60キロ級のインターハイ出場の有力候補筆頭。
そして大将は、秋の新人戦決勝でルナに負けたイズミヤエコ53キロ。
今回はリベンジ宣言を出された。
「すまんみんな。ポイントを守り切れなかった」
「ううん勇太、すごい試合だったよ」
「ありがとうルナ」
ルナが背中をぽんぽんしてくれた。
ルナは、カオルが勇太に自分も引き出せなかった本気を出させた。だから、ちょっとだけ嫉妬した。




