268 隙があればイチャイチャしてしまうふたり
原隣商業高校の柔道部、空手部で色々と学んだ勇太。
ただ、空手の大山マスコにヘイトが集まってしまった。
フェイスガード越しとはいえ、勇太が頼んだとはいえ、希少な男子の顔面にパンチを浴びせまくったマスコ。
早くもネットで炎上した。マスコのスマホを使って動画を撮り、勇太が望んだことだと発信したが、ここまで面倒だと思わなかった。
『マスコさんに責任はないですよ~』とアピールした。
その後はなごやか。
「また来て下さい、勇太君」
「今日は色々とありがとうございました」
「お土産までありがとうございます」
手作りゴブリンクッキーを渡して、大いに喜ばれた。
お互いにお礼を行って原隣駅に向かった。
勇太の異母妹・メイちゃんとの待ち合わせ場所に来た。駅から100メートル離れた軽食も出すコーヒーショップ。
もう7時。メイちゃんはゲンジと一緒に、受験に向けた塾の講座を受けている。その終わりが7時。
塾からお店まで歩いて5分。帰り支度する時間を入れても10ー15分程度か。
外は真っ暗。一気に冷えてきた。気温は4度となっている。
ガラス張りの店内は外から見える。中から店に向かう人もよく見える。そういう光加減だ。
勇太は、外でメイちゃんを待とうかと思った。
勇太は寒さを感じないし、みんなに先に店に入ってもらった。
ルナは勇太の横にいる。
何となく、ふたりの空気が出来上がるタイミングがある。こういうことがたまにあり、そのときばかりは部員達は遠慮する。
部員は店内からふたりを見ている。女同士としてルナを尊敬する無敵時間だ。
部員らはルナは、モテ男にこだわっていないところがすごいと思っている。
『勇太』が好きで、その勇太がたまたまモテているというスタンスだ。
5月10日にふたりは転機を迎えた。きっと、勇太が春先までと同じで太ったままでもルナは勇太を好きになっていた。それを感じる。
自分も、こういう相手を見つけたいと最近は思っている。
暗闇の中の勇太とルナ。
「ルナ、寒くない?」
「さむーい勇太」
上目遣いのルナの肩を抱いた。ここは駅前ではないから、ざわっとすることはない。
「勇太、メイちゃんとゲンジ君は、うまくいくのかな」
「そうだね。メイちゃんの高校受験が終わるまでは、ゲンジも自重って言ってたから・・」
「期間を置きすぎて、こじれなきゃいいけどね」
「俺とルナは、ルナに階段から落ちそうなとこ助けてもらってから、進展が早かったもんね」
「だね・・」
ルナは思い出すたびに赤面してしまう。
5月10日に冤罪を晴らしてもらい、11日にはリーフカフェの前で会話して抱き締められた。
16日はプロポーズされて、27日の自分の誕生日に保健室で初エッチをした。
それがみんな、ネットで晒されている。
考えてみれば、未だにじれじれのメイ&ゲンジとは真逆。それどころか、あまり例がないほどオープンだ。
思い出して頬が火照っていると、勇太が気付いた。
「ルナ、なににやけてんだよ」
「私達って、メイちゃん達と違って、とんとん拍子にここまで来たなって思ってね」
「そうだね。俺らとは違うね。年明けに会ったときも、まだ手を繋ぐので精いっぱいって感じだったもんね、あのふたり」
「うん・・・ん」
勇太がルナにちゅっとした。ルナは目を閉じて受け入れた。
勇太はルナの冷たくなっていた唇が暖まるまで、唇を重ねていた。
ほんのり熱を感じてから、ゆっくりと唇を離した。
「まだ、こんなことも、してないんじゃないの?」
「・・どうだろ・・へへへ」
見つめ合ってしまったふたり。なぜ、ここに立っているのか忘れている。
そのとき。
ごくっ、と喉を鳴らす音が聞こえた。勇太もルナも。
そして、勇太とルナは、はっとして、暗がりの方を見た。
待ち人が、すでに至近距離に立っていた。
メイちゃんとゲンジが手を繋いで、ふたりの前に立っている。
「うひゃああ!」。さすがのルナも声が出た。
「はははははは」。勇太は乾いた笑い。血が繋がった異母妹メイちゃんに濃厚キスを見られてしまった。
「あ、あの、こ、こんにちは。勇太お兄さん、ルナさん。お盛んなことで、何よりです」
「勇太さん、ルナさん、こんばんは。な、何も見てません」
勇太とルナは、受験生でデリケートな関係のメイちゃんとゲンジを刺激しないよう、気を使おうと話していた。
なのに、いきなり刺激物になってしまった。
また、コーヒーショップの店内から、部員もばっちり見ていた。




