261 ぱパラレルで男子変換だと女っぽい?
1月7日、夕方のリーフカフェ。
勇太、ルナ、不知火マイコらでカフェ入ると、マイコに助けられた花京院夏樹が猛スピードで寄ってきた。
お客さんは25人いる。
「マイコさん、ここで会えてよかったです」
「何か用でもあったのかな」。声に抑揚がない。
「一緒にマイコさんのスマホを買いに行こうと思ってLIMEしたのに、既読にもならないから心配していたんです」
夏樹は自分を助けるときに壊れたマイコのスマホを弁償しようと思った。そして怪我をさせたから、状態を知りたくて何度もメッセージしていた。
マイコは何も要らないと言った。スマホは昨日のうちに買い替えたし、幸いにデータも移せた。
だけど着信音も消してある。
北海道から出ていくことを同じ高校の柔道部員、家族にしか言ってない。
ファンの女の子や、何度か抱いた彼女達から山のようにLIMEが届いている。
だから音を消して、昨日からアプリを開いてもいない。
ざわざわざわ!
美少年に心配され、LIMEさえ読んでいないマイコ。ヘイトが集まっている。
「花京院君、きのうのことは気にしないでくれたまえ」
タカラヅカ系の爽やか笑顔。一瞬はマイコにヘイトを浴びせた女の子が、今度は顔を赤くした。
「いえ、昨日は失礼なことも言ったし、これから・・できれば、会ってほしくて・・。は、初めて女の人を素敵だと思いました」
またも泣きそうな顔をしている夏樹。
マイコは苦笑い。
1年前に同じシチュエーションなら大喜びしている自分が予想できる。
飛びかかってキスしているだろう。
だけど自分はオリンピックを目指すため、多くの人を裏切ってパラレル市に来る。
救出劇の余熱で惚れた気になっている夏樹ごときに気持ちは揺るがない。
ちなみに勇太が『セッ●スしたい』と言ってくれたら応じる。
マイコは男子とは付き合ったことはないが、女子なら何度もある。
もったいないが・・非常にもったいないが、女の子と別れたときを思い出して話し出した。
「花京院君、私は柔道をやるためだけにパラレル市に来たんだ。次のオリンピックに出ることに人生を賭けている」
勇太は、おっ、格好いいと思った。
「18年生きてきて、キミの言葉に一番に濡れた。平常時なら私はキミとデートしたい。そしてキスして、夜はラブホで押し倒してセック●してると思う」
勇太はえええ! と声が漏れた。あからさまだ。
ルナはうなずきながら「まあ、普通はそうだよね。予想できる反応だよね」
勇太は、そういや性にあからさまな世界だと思い直した。
「花京院君、キミにも彼女はいるだろう」
「・・まだいません」
「そうなのか。キミは可愛いから、彼女ができたら、きっと尽くされる。キミの未来の彼女達はキミが最優先になるだろう」
マイコは髪をかきあげた。
「だけど私は柔道を優先する。キミの彼女になれたら光栄だけど、尽くせない女だ。そんな女が彼氏持ちになれない世界だ。わかるだろう」
しばしの沈黙。
ここは男女比1対12の世界。
みんな、マイコの決意に感銘を受けた。
けれど、美少年と付き合えるチャンスを手放そうとしているマイコの頬に、血の涙が流れているように見える。
「ゆ、勇太さんのところの今川カオルさんは・・」
「カオルは柔道とセットでファミリーに受け入れられているんだよ。男子の器が勇太君くらい大きくないと成り立たない」
マイコ自身も不思議である。
あれだけ男子にモテたくて自分を磨いた。
なぜか王子様キャラになった。そしたらまったくモテなかった。
邪念を捨てて柔道一直線と決意したとたん、美少年にアプローチされている。
「・・じゃあ、いいです」
夏樹が小さな声で言った。マイコは残念だが縁がないし、仕方ないと思った。
「ぼくの方から行きます。マイコさんの大学に訪ねて行ったり、お弁当を作ったりしますけど、それはいいですよね」
「へ?」
「ぼく、運動や芸術はダメだけど、料理や掃除はできます。自分なりにマイコさんの柔道を応援します。それなら近くにいても、いいですよね」
「・・え、あ、ああ、いいけど」
愛想尽かされるの一択しか頭になかったマイコは思考が止まった。
勢いに押された。
断腸の思いで、練習に集中したいから頻繁に来られては困るといった。すると週一程度なら、と承諾させられてしまった。
この光景、ネットにリアルタイムで流れている。波紋を呼んだ。
ボクっ子美少年と王子様女子に注目が集まる。
勇太は勝手に思った。前世女子・夏姫のパラレル体だから、夏樹は女子力高めだな、と。
2日後、期待していなかったマイコのところに夏樹が現れた。それ以降も目撃情報が増えていく。




