250 ゲンジのライバルはハイスペック男子
リーフカフェとメイちゃんのクラスメイトで、カフェでの新年会に移行した。
カフェには勇太と純子の置きギターがある。歌でも歌って盛り上げようかと思った。
勇太が言い出したのは、第一は梓のため。そして異母兄妹メイちゃんのため。
今日のメイちゃんの表情を見て安心したからだ。
彼女が自分に失恋したのは分かった。そこから笑顔を取り戻してくれるように接してきた。
今日、ゲンジと来たメイちゃんの表情は、異母兄妹とメイちゃんに教える前、すなわち恋する乙女の表情を取り戻していた。
「サンキューな、ゲンジ」
「なんのことですか?」
勇太はゲンジに歌わせればメイちゃんが喜ぶと思った。ところが待ったがかかった。
「坂元さん、まず俺に歌わせて下さい」
ヤマモトタロウが名乗り出た。
「へえ~積極的だね。いいよ」
カフェに来ていきなりヤマモトタロウにふたりで話がしたいと言われた。
初対面のヤマモトを警戒した勇太だったが、謝られた。何度かメイちゃんを傷付けたことに関して、ごまかさず。
そして勇太がメイちゃんを彼女や妻にする気があるか聞かれた。
『ない』ではなく『できない』と答えると、納得した顔になった。
なんとなく、名乗れない血縁関係が勇太とメイちゃんの間にあると察知しているようだ。
ネット上でも話題にならないが、かなりの勇太ファンがそう思っている。
戸籍に入っていない人工受精の血縁を認めると、女性同士の婚姻などに亀裂が入る。
だから取り締まりは厳しい。
ネットで憶測を書き込むだけで、最低でも警察に連れていかれて取り調べを受ける。
勇太はタロウに頭を下げられた。少し話したら勇太の中のタロウの印象が好転した。
素直にメイちゃんに好意を持っているとも言われた。そこには驚いた。
メイちゃんってモテるんだと感心した。
ツンデレを理解しない勇太は、大切なメイちゃんに今後は余計なことを言うなと言った。
タロウは素直にうなずいた。
そして、良かったらタロウと呼んでくれと頼まれた。
「タロウ君、でいいんだな。じゃあ俺も勇太でいいよ」
「勇太さん、俺は呼び捨てでお願いします」
「いきなり名乗り出たってことは、なんかリクエストあるの?」
「そこにいらっしゃる奥さんの梓さんのテーマソングを歌わせて下さい」
「あ~、俺が梓のために歌おうかと思ったのに~」
勇太はにやけてしまった。
「俺の彼女達も梓さんに憧れてるんです。なんで歌ってあげたいんです。・・じゃあ、一緒にお願いします!」
梓がびっくりしたあと、にんまり笑顔になった。
勇太は根が単純だから、梓をほめられて即OKした。
ゲンジは焦る。タロウは最近、人のハートをつかむのがうまくなっている。
♩♪♪♪♩♩♪♪
「♩♪♪♪あのこ~ろ♩♩♪♪」
そして声もしっかり出ている。
自分の彼女3人を招き寄せ、一緒に楽しんでいる。
横を見ると、メイちゃんが惜しみない拍手を送っている。
彼女以外のクラスメイトがうっとりしている。
勇太で男子の歌に耐性があるカフェのメンバーも喜んでいる。
早くもネットに上がった。反応は上々。
タロウより先にカフェに来て歌ったアドバンテージがなくなった気がした。
ゲンジは、メイちゃんに気持ちは伝えたが、付き合ってとは言っていない。
高校受験が終るまでは、絶対に何も言う気はない。
ただ焦る。
次は勇太が単独で歌った。梓が前から好きだった、こっちの世界のポップソング。
風花が伴奏してくれた。
「うわ、勇太さんの生歌ってすごい」
「響く~」
「タロウ君の歌も聞けたし、新年から得したよね」
次はゲンジが期待されている。
年末は尻込みした。
けれどゲンジは 時間はあまり経っていないけど、精神的に成長している。
歌がうまいふたりのあとで、一瞬は気後れした。
だけど一瞬だ。
「メイちゃん、俺も歌う。なんの曲がいい?」
「私は・・ゲンジ君にルナさんのテーマを歌って欲しいな」
「うん。俺は風花さんにギターをお願いしてみる」
「ふふっ、期待してるよ」
ゲンジは風花に伴奏をお願いした。
聞いて欲しい人がいる。




