229 伊集院君の嫉妬で葉子が笑う
12月30日。
メイちゃんとゲンジの不器用な邂逅から1日が過ぎた。
お兄ちゃんモードの勇太は不可解なふたりの目撃映像を見つけた。
通りを歩いているメイちゃんとゲンジが映っていた。
たまにメイちゃんが目元をぬぐって何か言っていた。
『・・もう・・てよ』
『嫌いになんかならない』
ゲンジか答えた。
どうとらえていいか分からないけど、しっかり手は繋いでいた。メイちゃんも離さなかった。
ゲンジをぶん殴ることは無いと思った。
現在、午後5時半。
きょうのリーフカフェは定時よりも早じまいだ。店の商品が切れた。
売れすぎた。
午後1時、純子&風花が店の中でBGM代わりに歌っていた。
そこに、なぜか伊集院君が飛び込んできた。黒服の女性護衛3人を伴っているが、婚約者はゼロだ。
「勇太君、友達と弟子は、どっちの格が上なんだい」
いきなり聞かれた。
勇太からしたら意味不明だけど、伊集院君からしたら重大なのだ。
勇太大好きな伊集院君だけど、今まで嫉妬という感情とは無縁だった。
しかし昨日、同性の冬木ゲンジの出現が琴線に触れた。
勇太の上から目線なのだが、ゲンジへの遠慮ない物言いが気になった。
そして楽しそうに、一緒に歌っていた。
「ゲンジのこと言っているの? あいつ、できが悪い弟みたいなもんだよ。同性の友達は伊集院君しかいないよ」
伊集院君は、やっと100点満点な答えを勇太にもらえた。
東京での雑用を大急ぎで終わらせて帰ってきた甲斐があった。
「だよね! そうだ、僕らの友情パワーをゲンジ君やお客さんに知ってもらおう!」
「?」
伊集院君は、いきなり風花にラップ風なバトルを仕掛けた。
「♪♩♩♩ヘヘイ、そこのふたり組」
「♪♪♩♩アンタ誰だよ、ここってアタイのテリトリー」
「固いこと言うな♩♪♩」
「♩♩おめえ誰だ」
これ、純子&風花を交えたレコード会社との打ち合わせの時、伊集院君とやったことがある。
大学3年生でステージ経験値が高い風花は、伊集院君に合わせた。
きゃ~、きゃ~、とお客さんからの歓声だ。
「♩♩♪だったらバトルでケリつけよう」
「♩♩望むところだ、やったろう」
・・ゲンジにバリバリ対抗意識を燃やしている伊集院君は、隠し技を披露した。
ゲンジが絶対に真似できないレベル。なんて大人げない・・
そこからは、バトルセッションだ。
純子&風花VS伊集院&勇太。
超人・伊集院君はギターも普通に弾けた。
伊集院君と風花の早弾きバトル。そこに合図されて、純子と勇太が歌で入った。
すでにカフェの雰囲気ではない。
カフェオーナー葉子に誘導されて、店の入り口近くで演奏しまくった。
店の中も外も、人、人、人。
♪♪♪♪♪♪♪♪♩♩♩₩₩
きゃ~、わあ~~、きゃあ~と、黄色い歓声だらけ。
「ふう~~。喉枯れそう。風花さん」
「私も手がしびれそうだよ」
「あはは、楽しいね、伊集院君」
「だね。こんなにテンションが上がったのは久しぶりだよ」
勇太と伊集院君でかっちり握手した。
野外ライブ会場のようになってしまった。
カフェはもちろん大盛況。
ライブのチケット代の代わりなのか、こういうときは必ず見物客が何か買っていく。
ちなみに、噴水広場近くの周囲の店舗も売り上げが上がるから歓迎されている。
2時半になった。
「さあ次だよ勇太君」
しかし、ストップがかかった。
「光輝様、お時間でございます」
本当は多忙だった伊集院君。
勇太が生まれた海辺の街で開かれるパーティーに連れて行かれた。
「みんな、聞いてくれてありがとう~~」
歯がキラリと光った。
護衛に連行されるときも爽やかな伊集院君である。
そこからカフェはお客さんが、ひっきりなしに来た。
勇太は、純子&風花に前世の『韻を刻む感じ』の歌を思い出して教えた。
それが即興の作詞作曲だと思われて、女の子に再び受けた。ライブ第2弾のごとくなった。
オーナー葉子が今日も笑った。
そして材料切れ。前の日もゲンジの出現で予定より飲食物が売れていた。
年末の分まで完全に終わった。
葉子は店の早じまいを指示して、自分は年末年始用の仕入れに出向いている。
そこに梓、ルナ、カオルが来た。
「あれ? もう店じまいだ」
「伊集院効果だろうな」
「これから、どうしよう」
さらに吉田真子と間門嘉菜も現れた。
「あら、閉店だ」
「どうも、勇太さん」
「みんな、お疲れ様!」
柔道、勉強とみんな大変だけど、勇太の声が響くと元気が出る。
勇太が事情を説明した。
もちろん、噴水広場前で往来もある。いつものように注目されている。
カオルのお腹が鳴った。
「そっか~、腹へったあ~」
マイペースなカオル。とりあえず、集まったファミリーでご飯にしようと決まった。
カオルには、周囲の女性から『エロカワ君の前で腹鳴らすな』の声が上がった。




