211 男を守る女、守られる男
◇ヤマモトタロウ◇
俺は、俺に興味なさげなメイに少し腹を立ててた。
・・4人目の彼女にしてもいいと思ったのに。
そんなとき、俺の彼女がメイと坂元勇太が付き合ってないって話を聞いてきた。
俺は何を焦ってたんだろう。あまり考えずに、メイに坂元勇太の話を振った。
10月の放課後、教室には何人か残ってた。
メイと冬木は2人だけで喋ってた。
「メイちゃん、坂元さんってさ・・」
「冬木君、勇太さんのこと?」
一瞬、冬木の沈んだ顔。
クラスの女子が親しみを込めてゲンジ君って呼ぶようになった。
けどメイだけは『冬木君』から変えない。
逆に、坂元勇太のことは本人に『勇太お兄さん』って呼ぶそうだ。
へへん、距離感あるよな。
あ・・、俺も最近はタロウ君って呼ぶクラスメイトが増えたのに・・
まあいい。
椅子に座ってた2人の前に、俺は彼女3人と立った。
「どうしたのヤマモト君」
「最近、パラレル市のカフェには行ってるのか?」
「うん・・」
冬木と話すときとは逆に、俺の質問には最低限しか返事しねえ。
そのくせに言葉が丁寧。そして笑顔も絶やさない。
あまりにも期待した反応と違いすぎる。俺に関心がねえ。
「・・余裕だな~」
「そんなことない。ヤマモト君が話しかけてくれたし嬉しい」
「ちっ、坂元勇太と仲間に可愛がられて鼻高々かよ」
「・・それはない」
「どうせ坂元に相手にされてないんだろ。いい気になるな」
そう言った。
メイの肩が一瞬、震えた気がした。
メイは座ったまま手を膝に置いて、俺の方を見上げた。
「そうだね。いい気になってた」
腹立ちは感じない。メイの瞳から目が離せない。
そしてメイは区切るように、自分に言い聞かせるように、言葉が出てきた。
「勇太さんの彼女になれることはないよ、絶対・・絶対に・・ない」
真っ直ぐ、メイは俺を見てる。
潤んだ左目から、つぅーと、涙が頬を伝った。
こいつ坂元に嫌われてない。嫌われてないのに、なんか事情があるんだ。
初めて女に言ったことで後悔した・・
「あ・・すま・・」
「ヤ、ヤマモト君!」
「んだよ、冬木・・」
「・・いや、その・・」
俺の声に被せて、中腰の冬木が大きな声を出した。けど、睨んだらびびってる。陰キャが何様だ。
女の前だし冬木の胸ぐらでも掴んでやろうかと思った。
けど、俺のターンにならなかった。
メイが立ち上がった。冬木を背に庇い、俺ら4人の前に立った。
「ごめんなさい。ヤマモト君」
頭を下げた。
いや、冬木を守るために、自分は悪くないのに俺に謝った。
離れたとこでダベってたクラスメイト4人が気付いた。こっちに来た。
メイは、自分が失言したと言った。
その場は、それで収まった。
また2人になって、冬木はメイに謝った。少し離れて俺は見てた。
そんで、俺の前に立ち塞がったとき少し震えてたメイを思い出した。
ヘタレ冬木のヤロウが情けない顔だ。
「ごめん、メイちゃん」
「謝る必要ないよ。男子の冬木君を守るのは女子の義務。それに私は冬木君の護衛係だし」
「お、俺・・」
「冬木君は男子なのに、頑張ってヤマモト君に大声出してくれたね」
「けと俺、ヤマモト君に・・」
「格好良かった。嬉しかった」
「・・メイちゃん」
「冬木君、ありがとう」
・・あんな笑顔。なんで冬木のヤロウに。
冬木も希少な男子だけど、坂元勇太の影が見えるからメイに何も言えない。けど、彼女になれない発言で希望は持ったみたいだ。
同じ高校に追いかけて行く。
他の女を選べば、今のアイツなら最低でも3人は付いてくる。他のクラスからアピールしに来た女子にも、可愛い子はいる。
モブ顔女子にこだわる馬鹿なやつ。
◇◇
今日は12月23日。
メイと坂元勇太の会瀬に今、出くわしたばかり。
イルミネーションの中、あいつらのとこだけキラキラしてるように感じた。
俺の女3人も、結局は2人の世界に見とれていた。
あれから話しかけてもメイは怒ってる風でもない。笑ってもくれる。
だけど、あんな自然な笑顔は俺には向けない。
なんか悔しい。




