208 勇太が幸せを願う異母妹
12月23日の夕方、勇太は電車に乗ってメイちゃんこと、中3の山咲芽依に会いに来た。
勇太とメイちゃん。
戸籍のあり方を壊さないため、公的に名乗ることは法律で禁止されている、遺伝子的な異母兄妹。
恋人になれないけれど、勇太が愛着を持つ理由が十分にある。
5月にパラレル世界に転生して会った人間の中で、本当の血縁者として一番近い位置にいるのだ。
メイちゃんは、勇太の祖母と同じ2親等。従妹・パラレル梓の4親等、叔母・パラレル葉子の3親等よりも近い。
メイちゃんは、お母さんが3人で姉妹が異母を入れて4人。メイちゃんには1親等である産みの親がいる。
だけど、勇太の産みの親は事故で亡くなっている。
どこかに1親等である父親、すなわち精子提供者が生きている可能性があるが、勇太が探すことは許されていない。
だからメイちゃんは勇太に子供が生まれるまでは、1番近い血縁者なのだ。
前世妹と同じ顔をした梓と、メイちゃんは似ていない。
だけど勇太と似ている。何かを感じていた勇太は、5月なかばの初対面からメイちゃんを可愛がっていた。
メイちゃんは勇太を好きになり、嫁を目指そうと思っていた。
そして8月に結婚できないと知り、失恋を経験した。
そこから彼女の周囲に変化がある。
クラスメイトの男子2人から話しかけられるようになった。
片方は小学校から、たまに話しかけてきていたヤマモトタロウ。
もう片方は、今年初めて同じクラスになり2学期になって初めて話した冬木源司。みんなはゲンジ君と呼ぶ。
問題はヤマモトタロウ。ずっと週3登校。すでに中3で身長175センチ。顔は中の上で、いつも可愛い子が誰かしら横にいる。
中学生になっても、挨拶すれば普通に返してくれていた。
周囲の女子と同じく好感は持っていた。
小中9年間のうち5年間が同じクラス。だけど、最近のヤマモトが好きになれない。
夏休み明けから、色々と言ってくる。勇太のことでいい気になるなとディスられもした。
失恋した心をグサッと刺激してくる。
最近は勇太より自分の方が格好いいとかアピールする。
どうでもよくて心に響かなくなった。
8月、勇太に異母兄妹だと明かされた。
それから、心の中に波が立っていた。
やっと落ち着きを取り戻した頃に、勇太の嫁に間門嘉菜と吉田真子が加わって再びショックを受けた。
定期的に勇太に会いにリーフカフェに行っている。少し間が空くと、あちらから会いに来てくれる。
お小遣いの心配をしてくれて、リーフカフェの無料券とか山のようにくれる。
プリペイドカードまでもらい、電車賃の負担までない。
妹と知った以上、勇太が大事にしてくれる。
その優しさで気持ちが満たされる日もある。その優しさが辛いときもある。
メイちゃんの精神は、急速に成長している。
余談だが、ディスってくるヤマモトタロウは雰囲気が変わったメイちゃんに興味が沸いてきた。
過去の流れからして性格は悪くない。彼女も大事にしている。だけど所詮は、甘やかされた男女比1対12世界の男子。
自分が声をかければ女子は喜ぶと思っていた。
彼女3人と一緒に遊びに行くかと誘った。
偶然、メイちゃんのところに勇太が来てくれる日だった。
『ごめんなさい。誘ってくれて嬉しいけれど、先約があります』頭を下げた。
微笑とともに真っ直ぐ目を見られ、ヤマモトはモブ顔女子を意識するようになった。
その後は希少な男子のメンツを潰したと取り巻き女子にあおられ、余計なことばかり言っている。
未熟である。
スタンダードな肉食女子・メイちゃんのダイレクトな恋心、渦巻く性欲。
それが最高潮に高まったときに勇太に失恋した。
行き場をなくした2つの感情がメイちゃんの中で絡み合って、中3にしては憂いを帯びた目になっている。
自分でも気付かないうちに、モノをハッキリ言えるようになった。
勇太の優しさに感化されて気遣いもある。
勇太と同じパラ高に進学するために勉強も忙しい。柔道部にも入れるように夏前から体力作りもしている。
メイちゃんは多くの人が理解できない立ち位置になって、自分の評価を気にしなくなった。
だけど周りの見る目が違う。
2人が異母姉妹だと知っているのは、メイちゃんに許可を取って教えた勇太ファミリーと伊集院君だけ。
だからメイちゃんに静かに注目が集まっている。
女がダース単位で寄ってくる勇太がわざわざ会いに来る。勇太ファミリーのルナ、梓、カオルも一緒に会いに来ている唯一の中学生。
それがメイちゃん。
ついでに言えば、勇太大好きな伊集院君とメイちゃんはリーフカフェで2回遭遇している。
本物のメイちゃんを見て、伊集院君はテンションが上がった。自分からメイちゃんと握手してLIMEを聞いた。
それもネットで話題になった。
今もパラレル駅より小さい駅前だけど、勇太と一緒だからメイちゃんも注目を浴びている。
偶然に通りかかったヤマモトタロウが見ている。勇太が来る前、ひとりで立っていたメイちゃんに彼女3人が近付こうとした。
それを制して、勇太と合流するところを見ている。
周囲の女子が見ていたり、スマホを構えていたりするのにリボンを付けた包みを持って堂々と立っている。
自分がちょっと近づいて話しかけるだけで、しどろもどろだった頃のメイちゃんと違いすぎる。
・・・・
メイちゃんは勇太を困らせないため、あの日以降は妹として接している。
「勇太お兄さん、少し早いけどメリークリスマス」
「メイちゃん、クリスマスプレゼント持ってきたよ」
「嬉しい。私も用意しました」
往来の中、公表できない兄妹が向かい合っている。




