199 控えめにサポートしよう
12月17日。ライブハウスに純子&風花で出演するはずだった日。
風花の代わりに勇太とルナでサポートする。
風花の代役ギタリストさんも参加してくれる。なんと無償。
この中戸明日香さん23歳、年が明けてでいいからご飯を食べにつ連れていってくれと言われた。
間門由乃の病気の方であるが、快方に向かっている。
骨髄移植の効果あり、の第一歩である各種の悪い数値が下がってきた。無菌室の中で1日の大半は寝ていても、最悪の状態だけは脱出している。
ドナーの風花は、もう少し入院。9日に手術して10日から2日間も高熱が出た。
CD発売日の12日も微熱が続いて、CD発売記念のイベント中は眠っていた。
「くっそー、録画はネット上にあるけど、リアルタイムで見たかった~」
「ほら、大声出さないの。やっと点滴外せたんだから、安静にして」
「葉子さん、筑前煮食べた~い」
「退院したら何でも作ってあげるから。ふふふ。CDもいきなり売れてるってね」
「そうだ葉子さん」
「ん?」
「CDのギャラ入ったらさ・・」
「なに、食事でも奢ってくれるの?」
「ペアリング、買いにいこ」
「無駄使いしないの・・ふふふ」
こちらも順調である。
◆◆
ライブハウスの勇太は、立ち位置が難しかった。
目立たない、をテーマにしたが、なんせ出番が来たらステージ上。隠れる場所がない。
だから余計なことを喋らず、ギターを鳴らす曲も2曲に絞った。あとは手拍子やカスタネットだ。
ルナはキーボードで3曲だけサポート。
メインは純子と、臨時のギタリスト中戸明日香だ。
ところで会場は人が満員で暖房も効かせてある。だから暑い。
お客さんがざわついている。
「いくら暖房入れてても、ここ暑くない?」
「そうだねえー」
「ちょっと脱ぎたい」
「!!!」
「いや、暑くていいよ」
「・・あ、もっと暑くして~~」
みんなの視線の先にあるのは勇太だ。
勇太も暑い。ただでさえ暑がりだ。だからテンションも上がっていることもあって、柄シャツを脱いでタンクトップ1枚。
そしてタンクトップの裾も出ている。さらに演奏に合わせて頭上で手拍子を打っている。
「ステージの上の勇太君、手を上げるたびにタンクトップがはだけている」
「わお、乳首が見えた!」
「また見えた。うほー」
「うははははは!」
純子の歌でお客さんが盛り上がっている。しかし、それ以上に勇太の乳首で盛り上がっている。
ルナは気付いたが、苦笑いするしかない。
この過剰な暖房はもちろん、ライブハウス店長の策略だ。
◆◆
出番が終わった勇太は、店長に挨拶してライブハウスをあとにした。
出演した4人でお茶をして、純子がギタリストさんを引っ張って帰った。
姉のルナが、最近は勇太と2人きりの時間が減っていたから、気を効かせてくれた。
「じゃね~、ごゆっくり~」
「・・ありがとね、純子」
勇太とルナは、勇太の家の方に歩きだした。
まだ街中。例によって、男子誘拐等を警戒した防犯目的、という名目で2人にスマホが向けられている。
2人は気にせず、手を繋いで歩き出した。
最近は、調停、公開録画、梓の盲腸炎、由乃の病気、風花の助っ人活動と勇太が多忙すぎた。
その間に部活、リーフカフェ、パンのウスヤにも行っていた。
ルナも勇太を手伝ったりして、合間に学問と、かなりハードな時間を過ごしてきた。
ほぼ毎日、勇太とルナは会ってはいる。
だけど1ヶ月くらい、勇太が転生して初めて、ルナと愛を語らう日がなかった。
「なんか、こうして2人でのんびりできたの久しぶりだね」
「ごめんなルナ、本当はルナを優先したいのに・・」
「いいよ。人のために頑張る勇太は、カッコよかった」
「・・ありがと」
ただ、普通に出会ったカップルなら、女子は納得できない。
勇太は、男女比1対12の世界で男子が首を突っ込まない案件で走り続けた。
「けどね、私が勇太に最初に助けられた。頭から血を流しながら、冤罪から救ってくれて・・」
言葉を続けようとしたルナだけど、やめた。
大好きな勇太がこの1ヶ月、多忙な中でも自分との時間を作り続けたことも知っている。
胸が熱い。
「ねえ、勇太・・」
「ん?ルナ」
「私、今から勇太とシたい」




