191 誰も一致しなかった
間門由乃の血液の病気には、ドナーによる骨髄移植が有効。
そしてドナー候補の姉妹が25人もいた。なのに誰も血液の『型』が一致しなかった。
パラレル市の南側、間門家に近い大きな病院の会議室を借りている。
実母の香里奈をはじめ、父親の陽介も悲痛な面持ち。
姉妹で一番に仲がいい嘉菜は泣き出してしまった。姉妹達も何人か泣いている。
あと10日ほどでドナーを見つけた上で手術の同意まで得られなければ、厳しいことになる。
男子出生率を上げるため、人を減らさないために遺伝子の研究は尖って進歩している。
しかし抗●ン剤、放射線治療器具は、勇太の前世と比べて開発が遅れてリスクが高い。
由乃は辛くて生存率が低い治療を受けながら、ドナーを待つことになる。
吉田真子はもちろん、ルナやカオルも来ている。将来は嘉菜と一緒に勇太の嫁になる。だから無関係でないし、学校が終わって駆けつけてくれた。
彼女らも、わずかな可能性に賭けて血液検査を頼んだ。
真子、カオルと梓で嘉菜の肩を抱き、ルナは勇太と話をしている。
「こんなことってあるのかよ、ルナ。こんなに血縁者がいて、だれも適合しないなんて・・」
「きっと、まだ方法はあるよ」
「姉妹なら、25パーセントの確率で適合するんじゃなかったのかよ」
あきらめ切れない勇太に、ルナは申し訳なさそうに言った。
「それは、両親が一緒のときに『型』が一致する確率だよ。お母さんが違うと、確率は親族と変わらない・・」
「・・あ」
勇太は今、自分の見通しが甘かったことに気付いた。
そうだ、由乃に姉妹は25人もいるけれど、母の香里奈は由乃しか生んでいない。全員が異母姉妹なのだ。
前世の知識。勇太は生き残りたくて色んな難しい病気の治療法をネットで検索した。
だから骨髄移植の兄弟姉妹適合率は25パーセントと頭の中に刻み込まれていた。
しかしそれは、男女比1対1の世界の常識として。
ほとんどの兄弟姉妹が、同じ父母から生まれているのが普通という世界のことだ。
移植の決め手となる『型』の姉妹適合率は、同じ両親から生まれたときだけ25パーセントまで跳ね上がる。
勇太は、異母姉妹、異父姉妹の確率は前世で知らなかった。
この世界では、たとえ兄弟姉妹であっても、異母、異父の場合は、父母や親戚と同じく適合率は3パーセント。つまり30人にひとり程度なのだ。
これがハーレム社会のきょうだい適合率の常識。他人の数百から数万分の1の確率に比べれば多い。
だけど現実に直面すると、確率が低すぎる。
「ルナ・・、俺は香里奈さんに、姉妹がたくさんいるなら誰か適合するって言っちゃった」
勇太は悔いている。前世から引っ張ってきた中途半端な知識で、香里奈を励ました。
そして勇太は少しだけ期待していた。自分の女神印の体のことだ。
ドナーに適合しないかと。
異様な自己治癒力は他人に使えない。けれど、血液自体に何か汎用性がある因子がないかと思っていた。
けれど、調べたら関係なかった。
「勇太、大丈夫だよ。香里奈さんだって勇太が一生懸命に励まそうとして言ってくれたって分かってる」
「けれど・・」
「大丈夫だよ」
背中に手を当ててくれる。だけど、からかったりするときのパンパンではない。
優しく、優しく、背中をなでてくれる。
色々と子供達で話をし、大人達は医師と今後の治療法を話し合ったりしたようだ。
そして外も真っ暗になって、病院自体の稼働時間も終わってしまった。
今はやれることがない。それぞれ帰ろうかとなった。
そのときだ。
病院の警備の人を振り切って、3人の女性が院内に入ってきた。
「あれ・・風花さん達」
息を切らした風花が走ってきた。続いて純子と麗子も病院に入ってきた。
風花が叫ぶように言った。
「はあっ、はあっ。ごめん、可能なら私の血液検査もお願い」
「あ・・・」
勇太は、風花が梓と生物学的な異母姉妹だと思い出した。
すなわち風花と患者の由乃も生物学的には異母姉妹の関係にある。




