188 穏やかな退院の日を迎えたはずなのに・・
勇太は不思議な夢を見た気がした。パラレル勇太と会ったような変な夢のような気もしたが、内容が思い出せない。
それはともかく、入院生活となった梓も10日間で退院できた。
しかし、梓がある程度回復した4日目から、病室は混雑しまくった。
もちろん見舞い客もいるけど、勇太を見に来た人がたくさんいる。
8日目、ちょうど勇太が病室にいた。ルナも来ていて、リンゴを剥いてくれた。
カオルは本業に戻って柔道漬けだ。病院には日が暮れてから来る。
リンゴをルナが小さく切って、ルナと勇太が梓にあ~んしている。
「ん、おいしー、ユウ兄ちゃん、ルナさん」
「ほらルナも、あ~ん」
「え、勇太、私も? あ、あ~ん」
「いいなあ、2人とも・・」
「わ、あの勇太君って、手術室に運ばれていく女の子に向かって、梓死ぬなーーーって叫んだのよね」
「ほえー」
「私も言われたい~~。そしたら死んでもいい」
「いやいや、それ本末転倒やん」
「病状はともかく、愛されてるな~」
病院でも注目されている。
勇太は心底安心している。
勇太が前世で梓の身代わりになった。この世界でもパラレル勇太がパラレル梓の代わりになったと考えている。
すまんパラレル勇太、と心の中で呟きながら、そこまでの罪悪感はない。
◆
見舞いには純子、麗子、風花も来てくれた。
伊集院君もパラ高婚約者と来てくれたけど、そのときはまずまずの騒ぎになった。
さて、ひとまず落ち着いたあと、6人グループ。
吉田真子、間門嘉菜のカップルに間門家の娘4人だ。
「心配しましたよ、梓ちゃん」
「ビックリしたよ、大丈夫だった?」
「はは、心配おかけしました嘉菜さん、真子さん」
「大事にならず良かった。お母さん達と私達からお見舞いだよ~」
嘉菜と同じ年の間門由乃18歳が、梓に封筒と綺麗にラッピングされた包みを渡した。
「包みは私達、姉妹から。封筒はお父さんとお母さん達からだよ」
「あ、すみません、由乃さん」
「気にしないの。一緒に暮らしてなくても私達姉妹でしょ」
正確に言えば間門陽介を介した異母姉妹。
由乃は間門陽介、彩奈と一緒に『マカド』を立ち上げた間門香里奈の一人娘。
会社は彩奈が社長、陽介が副社長、香里奈が専務。だけど3人は対等で、自分達の向き不向きで役職を決めた。
なので嘉菜と由乃には、親の役職が影響した序列もない。
由乃も間門の会社に入る気でいる。
嘉菜&吉田真子が勇太と同居、別居を選ぶのかは未定だけど、由乃はそれに合わせて家を守れる形で住居を決める気でいる。
嘉菜とフォローし合う、いい関係なのだ。
もちろん、この世界の肉食女子。澄ました顔をしていても勇太とのワンチャンも狙っている。
顔も勇太が大切にしている梓似。仁義として嘉菜が勇太とセック●するのを待って、アプローチするつもりだ。
その由乃が疲れた顔をしている。もう4回ほど会っていて初めて見せる感じ。勇太は気になった。
「由乃さん、少し顔色悪くありません?」
「ああっと、受験生だしちょっと無理したかな・・。心配してくれてありがと」
「無理しちゃダメですよ」
「そんな優しい目で見られたら、私も惚れちゃいそ~~」
自分らとは違うダイレクトなアプローチに、嘉菜と真子が焦っている。
由乃は家でもムードメーカーらしい。母親で間門専務・香里奈も会社で堅い社長・彩奈を上手にフォローしているそうだ。
◆◆
それから2日後の退院の日。
カオル、葉子、ルナ、勇太で梓を迎えに来て退院手続きを取った。
「梓、病院食は飽きたろ。アタイがなんか作ってやんよ」
「え、カオルちゃんが?」
「カオル、病み上がりの人間に焦げた玉子焼きと、しょっぱい味噌汁は拷問だぞ」
「無理しないでカオル」
「ひでえ、梓、なんとか言ってくれ」
「・・カオルちゃんの手料理は、もっと体力が戻ってからでないと・・」
「ひでえ、みんな、ひでえよ!」
笑いながら病院を出ようとすると、エントランスに救急車が到着した。
急患だ。そして、ストレッチャーに乗せられた患者の顔を見て、みんなの声が出た。
「ええ!」
2日前に梓のお見舞いに来てくれたばかりの間門由乃。
由乃は意識があり、勇太達に気付いた。
「おっす・・はは、風邪かな」
そして目を閉じた。
遅れて駆けつけてきた、実母の香里奈と一緒に勇太は病院内に戻った。
梓が病み上がりなので、勇太以外は家に帰ってもらった。
血液検査などを行い、おおまかな診断結果が夕方には出た。
こちらの世界では、勇太の前世よりもすごく研究が進んでいる病気。
由乃は、急性で悪性の血液の病気だった。




