146 小さな村とパラレル昭和
勇太は、パラレル勇太のダメ人格ができるとき、参考にしてしまった人に会った。
原山良作さん72歳。
ハンサムで8人の女性と海辺のカフェのテラスにいる。
彼が育った時代背景、特に男子を巡る世の中が、本当の意味で変わっていくときに青春時代を過ごした原山さん。
魅力的な人だ。
端的に言えば、原山さんは最終的に公的機関で保護対象となった。しかし、その経緯では自分で行動して自由を勝ち取った人。
自由のために戦った、最後の日本男子のひとりだ。
温室育ちのパラレル勇太は、原山さんの生き方を想像できなかった。
口調、態度、表面的な格好良さだけを真似した。アドバイスも今の時代の世界観に合わないものばかりを自分にインストールした。
パラレル勇太の記憶でも、今の勇太で見ても悪い人ではなさそうだ。
その証拠に、一緒にいる同世代の女性8人がみんないい笑顔だ。女性同士も仲がいいのが分かる。
ただ、これから聞きたい話を探りにいくと、深く暗い目になる。
だけど意識しているのか、目の色が明るく切り替わる。
「勇太とは4年以上も会ってなかったな。いい男になったぜ」
「はは、お陰様で」
「ふふふ、良かったね勇太」
「いやあ、嫁達には俺の口調とかに感化されて、今の時代に合わない男子になったんじゃねえかって、心配されてたんだよ」
「ホントに」
「良ちゃんって、子供に影響力あるから」
「息子のひとりも、変なキャラ作って手を焼いたでしょ」
「良かった。勇太君がまともそうで、ね」
こう言われると、パラレル勇太は見事なほど、時代に合わない男になってましたとも言えない。
「で、前に見た従妹ちゃんと籍入れてて、このルナちゃんとも結婚すんだな」
「まあ、来年3月に、もう1人のカオルって子も一緒に籍を入れます」
原山老人が、じーと勇太とルナを見ている。2人は真っ直ぐ原山さんを見ている。
「うん、4年以上空いたけど、勇太はいい具合に雰囲気が変わったな」
「そうですかね・・」
「だよ。3人の彼女が頑張って変えてくれたんかな。ルナちゃんもおっぱいでけえしな! あははは」
真っ赤になるルナ。嫁の中の2人から頭を軽くぺん、される原山さん。
「いやっはっはっは」
「もう、良作さんたら」
「孫に嫌われるわよ~」
「孫が騒ぎ出すと、ダース単位で攻めてくるわよ~」
「ぐっ、みんなきびしー」
一気に喋って笑った原山老人が息をついた瞬間、奥さんの1人が飲み物を差し出した。
「おっと依子、ありがとよ。ちょうど喉渇いたとこだ」
「これが、伝説の『あ、うんの呼吸』ってやつですね」。ルナが感慨深げだ。
言われてみれば、前世の熟年カップルにはよくあった光景。だけど、男女比狂いの世界ではレアものなんだ。勇太は、そう思った。
◆◆
勇太は、当然ながらパラレル勇太ではない。だけど原山老人に興味が沸いている。
勇太が前世で学んだ『昭和』と違う、男女比1対12の世界の激動期を歩いてきた人だ。
この世界の男子にしては腹が据わっている。そして、とても明るい。
やっぱり生い立ちが起因していた。
最初に感化された当時、まだ子供で表面しか見ていなかったパラレル勇太は、原山さんの子供時代の話を知らなかった。
原山さんはためらったけど、奥さん達が頷いた。
静かに、当時を思い出しながら原山さんは語り始めた。
◇以下、原山良作。
俺は昭和27年生まれだよ。
終戦から7年、戦勝国の意向を取り入れた憲法が制定されて5~6年だったかな。
男子に関してはアメリカ、イギリス、フランス、3か国の『国際男子保護憲章』ってのが叩き台になったそうだ。
その3つの国じゃなくて、社会主義の国が日本国憲法作ってたら、男子保護は20年遅れてたな。
男子を子作りマシーンとすることが許されねえ時代に入っていた。けどよ、日本全体に浸透していた訳ではないな。
俺も、正確に中身を知ったのは13歳だもんな。
新しい常識が都市部から次第に地方へと伝わっている時代だったんだろう。
俺はな、その新しい時代が来てなかった場所に生まれちまった。日本海側の山あいの農村だ。
都市部の生まれなら、扱い自体が違った子供時代になってたと思うぞ。
小作の家に男子が生まれたら種馬として使い潰してもいいって、古い風習が残ってた。
俺んちは、その村でも地位が低かった。
普通なら男児を村長の家に差し出す。
だけどな、お袋は拒否した。
時代が変わりつつあることだけ知ってた。俺の将来が悲惨な種馬生活にならないように戦おうとしてた。
だから俺を手放さず、畑を耕しながら育ててくれた。
お袋なりの戦いを続けてくれた。
そんな人が俺を育ててくれた。




