144 海辺の街の子供達
ルナと2人でパラレルな故郷の街に来た勇太。
懐かしい海岸の近くでルナに歌ってもらっている。
勇太からしたら一度はあきらめていたものだ。
端から見たら、モブ顔の男女、特徴のない海辺の街、観光地から外れた海岸。
だけど勇太にはパラレルルナ、パラレル故郷、パラレル思い出海岸と大事なものが3つそろっている。
キラキラしている。
双子の妹・純子ほどうまくなくても、ルナの歌だから心に響く旨み成分は10割増し。
♩♩♪♪♪♪♪♩₤♪♩♪
もう、前の世界と決別したつもりだったけど、色んなものを思い出して涙が出てきてしまった。
寂しいという気持ちはほんの少し。ルナと会わせてくれた女神様への感謝が大半。
「♩♪♪♩ あの、勇太・・」
歌いやめたルナを勇太は優しい気持ちで見つめた。そして手を握った。
「大丈夫、嬉し涙だから。ルナの歌、すごい良かった」
「・・ふふふ。そんなこと言ってくれるの勇太だけだよ」
「じゃあ、俺にはルナの歌がグッとくるんだな」
「マニアックだよね」
「けど、すごい良かった」
「・・照れる」
「あはは、ルナ可愛い」
普段以上にストレートな気持ちをルナにぶつける勇太。ルナも目を閉じて、ゆっくり2人の顔が近付いて・・
「チュ、チューするよ」
「男の人と女の人のやつだぞ、めずらしいぞ」
「ごえいもいなくて、2人だけだぞ、すげー」
はっとして2人で後ろを振り向いた。勇太とルナの後ろには10人の子供が立って、2人がチューするのを待っていた。
一瞬、鬼神出没、ムードクラッシャーの柔道アイドル・不知火マイコが来たかと思った。
7~8歳くらいの子供で男子2人、女子8人。
後ろには、スマホを構えた大人の女性1人がいる。
2人の世界に入り込みすぎて、こっそり近付いてきた子供達に気付かなかった。勇太は思わず微笑んだ。
男子は片方が少し優しげな顔で、片方はワンパク坊主といった感じ。どちらもフツメン。女子も美形タイプは1人で、あとは普通にいそうな子ばかりだ。
この世界に来てから中学生以上の、こういう取り合わせはハンサムか長身の男子と、美女ばかりだった。
8歳くらいだと『淘汰』は始まらず、男女比狂いの世界でも男女の垣根はそこまでないようだ。
スマホを構えた女性は男子2人のための防犯係だそうだ。常識らしい。たまにスマホが勇太の方を向くが、そこはダメだろと思う。
勇太の前世で勇太、純子の幼馴染みコンビに、よちよち歩きの梓、そして近所の子供で遊んでいたときのような光景。
なにげに、こちらの世界では初めて見る。
「なるほど、男女比が狂うと、こういう光景もレアになるんだな」
1人で感慨深い思いにひたる勇太が気付いた。女の子の中の1人が、ルナの顔をじっと見ている。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんがルナちゃんで、お兄ちゃんがユータ君だよね」
「そうだよ」「うん」
「パンの歌の人と同じ名前だ。顔も似てる」
ルナは、「?」だったが、考えてみれば8月末に発売されたパンの歌のCDには顔と名前が出ている。
メインボーカルの純子が大きく、その他のみんなは小さくだけどジャケットには素顔で写った。
相手も半信半疑だけど、2人を興味深げに見ている。一緒にいる女性は気付いているようで、ごめんさない、のポーズ。
そういえばデート中だったと、2人は思い出した。
ルナの方を見ると、子供に群がられても嫌そうではない。だからサービスすることにした。
「よし、お兄ちゃんとお姉ちゃんも、パンの歌は歌えるぞ」
「本当?」「歌って~」
♪♪♪♪♪₩₪₩₩♩♩♩♩
「うまーい」
「目の前で男の人が歌うの初めて見た」
「ケンヤ君も歌おうよ」
「うん、ゴブパンもあんパンも♩♩♪♪♪♪」
子供の前で歌いながら勇太を考える。
10人の子供達は、男女問わず喜んでくれる。性別の垣根も感じない。
パラレル勇太も9歳くらいまで、こんなだったはず。そう思いながらパラレル勇太の記憶を辿っていった。
9歳でパラレル勇太はパラレル梓を嫁にすると親に言うほど素直だった。
だったら何故・・勇太はあんなに勘違い男になったのか。
勇太は帰ったら、記憶を辿ろうと思った。
3曲ほど歌って子供プラスお姉さんと別れたあと、ルナと観光地になっている海岸の方に行ってみた。
ちょっとしゃれたカフェに行ってテラス席に出ると、年季が入ったハーレム軍団がいた。
ダンディーな72歳のお爺さんと、同世代の女性8人だ。
「あ、あの人だ」
パラレル勇太が勘違いした一因を作ったお爺さんが、目の前にいた。




