132 大道具係の勇太君
体育記録会の1500メートル走でタイムを出しすぎた勇太。陸上部の所属は断った。
あと1週間で文化祭だ。勇太は前世の高1で辛うじてクラスの喫茶室に参加した。そのときは、神経が不安定になっていた勇太のために、クラスメイトが色々と気遣ってくれた。
懐かしくもある。
勇太は自分の2年3組の劇シンデレラには参加しないが、委員長の吉田真子と話して道具作りを手伝うことにした。
この1ヶ月間はクラスメイトと挨拶を交わすようになった。
伊集院君の登校日には、みんなで話したりするようになったけど、交流は少ない。
避けてるのではなく、勇太が忙しすぎる。お昼ご飯はルナ、梓、純子、麗子、2年4組のメンバーの誰かと常に約束している。
休み時間も部活もルナと一緒。別々の放課後のときはリーフカフェ、ウスヤ、レコード会社の人と純子&風花を伴って仕事モードになる。
たまに、非公式な異母妹のメイちゃんに会いに行ったりもする。真夜中の看護師軍団とのファミレス会もある。
休みの前の日にはルナにも会いに行く。そして気分が乗ったらアレもある。けれど、静かに尽きない話をして帰ることもある。
中学生軍団に、早朝ランニングの再開も望まれている。
女神印の回復力で1日22時間も活動している日もあるのに、時間が足りない。
勉学が少しおろそかになっているけど、男子枠でパラレル市立大学に入れる。学力を上げて大学入りなんて野望は、すでに捨てている。
「本当に勇太君が背景作りを手伝ってくれるんだ。嬉しい~」
「うんしょ、あ、ありがとう」
「力仕事しかできないけど、何でも言って」
今日の放課後は色めき立っている。
パラレル市近郊で人気男子のツートップ、伊集院君と勇太が揃っている。
婚約者の家の新リゾート計画に関わる伊集院君は、登校日の水、金曜日の休み時間、放課後しか時間が取れない。
その限られた時間の中で脇役8役を完璧にこなしている。今日は通し練習。
シンデレラは交代制で7人。
現在は、抽選で舞踏会シーンのシンデレラ役を勝ち取った女子とダンスシーンの練習をしている。
♩♪♪♪♪♩♪♩
海外のパーティーで踊っている伊集院君は、普通に社交ダンスができる。そして女子をリードしている。
素で貴族なパラレル伊集院君なのだ。
「すげ、高校生の劇ってレベルじゃないよ、伊集院君」
「勇太君に褒めてもらえて嬉しいよ」
みんな、ここぞとばかりにスマホで撮影しているけれど、文化祭が終るまでは放出禁止で取り決めしているそうだ。
勇太はカボチャの馬車をベニヤ板で作っている。
裏方なのに勇太もスマホを向けられている。
「どうしたの、俺なんか撮って」
「え、え~と、メイキングビデオ風に映像作るのもいいかなって」
「あ、いいね~。じゃあ、みんなで色んなシーン撮ろうよ」
「いいの、勇太君?」
「オッケー、みんなで映ろうよ」
そろそろ秋の装いに変わってくる季節だけど、相変わらず勇太は暑がりだ。
ワイシャツが汚れないように、勇太はノースリーブの胸が空いたシャツ1枚になっている。
女の子を刺激してしまう格好だと分かっているけど、脱がないと暑すぎて作業に集中できない。
女子の中では伊集院君が観賞用、勇太が何かのオカズだ。
「あ、差し入れ持ってきたんだ。手作りクッキー食べる?」
「いいの?」
「ありがとう」
「必ずお礼を持ってくるね」
「いいよ、一年以上もみんなに迷惑かけたから。気にしないで~」
クラスメイトは、みんな反省している。今年の5月までは勇太を侮ってシカトしていた。
1年生のとき、パラレル勇太に挨拶しても返してくれなかったのがきっかけでも、悪いことをしたと思っている。
5月10日の階段落ちを機に勇太は外見が変わった。
それだけでないことも痛感したのだ。
外で人気が出た勇太のクラスメイトとの不和を知る人も増えた。
伊集院親衛隊を気取ったメンバーが非難されたりもした。ネット上でも炎上した。
だけど、それを鎮火させたのが他ならぬ勇太。
勇太ファンになった人から2年3組のメンバーにヘイドが集まったけれど、勇太は言ってくれた。
『自分が1年生の頃から態度が悪かったのは事実。クラスメイトは不愉快な人間と、それなりの接し方をしただけ。誰も悪くない』
反論してくれたと聞いた。
今、勇太から手作りクッキーを手渡された出席番号3番・宇根キリコも、しっかり反省している。




