120 VS勇太のみを想定した技
9月末の土曜日、秋の柔道新人戦初日。1回戦は聖ジョバンヌ学園戦。
相手は高田選手2年、2段の178センチだ。75キロ級。
「お願いします!」気合を入れた勇太。
「よろしくお願いします。高田カオリ、彼女は過去に2人いました。男性経験ゼロです」
自己紹介を始めた高田選手。
「こら、試合前に余計なことを言わない」
高田選手は審判に怒られた。
勇太は一瞬、この世界のひとつの礼儀作法かと思ったが、単なる過剰な自己アピールだった。
「始め!」
相手校の部長で、まずまずの実力者というデータを頭に入れている。体重、身長ともに勇太より一回り大きい。
威圧感がある。
勇太が襟をつかみにこうとしたとき、相手が大きく構えた。両手を上に上げて、堂々とこいのアピールだ。
勇太は怯んだ。
獲物を見つけた熊のような、大きな構え。目力もすごい。
勇太はフットワークを使って隙を探すけれど、近付くと危険な気もする。
「うっ、威圧感すごっ。かなりの実力か。こっちが格下だし遠慮なくいかせてもらう」
勇太は、思い切って踏み込んだ。しかし、このタイミングが悪かった。
というか、相手の高田は狙っていた。
高田は、せっかく勇太と試合できる幸運を堪能したい。
高田個人は強いけど、段持ちは2人しかいない柔道部だ。初戦から段持ち4人のパラ高戦。
団体戦の敗戦濃厚なら、ジャンケンで勇太戦を勝ち取った幸運を生かそうと目論んでいる。
ぶっちゃけ、勇太が接近してきたら、抱き付こうといていた。抱き付いたあと足でも絡めれば、技として認めてもらえる。
ドントセクハラ、ベリータッチ。
可愛い男子に合法で触れるときの合言葉だ。
そのために両手を広げていた。そして前に出た。
柔道の神様ごめんなさい、こんな私を許してと、謝るくらいの罪悪感は持っている。
高田が抱き付きにくると読めない勇太は、敵のもくろみ通りに大きく前に出た。その瞬間に高田は、ガシッと勇太の肩に抱きついた。
あるギャラリー女子は、パラレル群馬県の山奥でヒグマがオバさんに襲い掛かったニュースを思い出した。
「うぐるああ!」
どんっ、と中腰に構えた勇太は体を浴びせられてしまった。
「うぷっ」
「ほえっ?」
高田の胸は大きい。少し飛び付き気味だったから、緩めに空けたDカップの右パイに勇太の頭が激突した。
「うひゃああ!」
高田は奇声を発しながら、そのまま倒れた。なんとなく小外刈りっぽくなった。
「技あり!」
そして寝技の攻防。高田が勇太に抱き付いたまま、下敷きにしている。そして渾身の力で抱き付いている。
立派な縦四方固めにも見える。
高田は初めての男子との抱擁だ。いや、柔道の試合中だ。抱擁でなく寝技の攻防である。
渾身の力を込めて、30秒を堪能しようとした。
「うへへへ・・」
20秒で試合終了のブザー。
「合わせ技で1本」
「・・あ、技ありが余計だった」
余計でない、試合中だぞ。
先に小外刈りで技ありを取っていたから、技ありと見なされる押さえ込みの20秒で止められてしまった。
がっちりホールドに勇太が怒っていないか、恐る恐る起き上がった高田だが、勇太から彼女に意外な言葉。
「いやあ~、今まで食らった固め技の中で、一番強烈でした」
自分の下心満載の技を褒めてくれた勇太にドッキ~ンである。
見ていた女子達はセクハラ紛いの高田に腹も立つが、離れがたい気持ちにも共感した。
試合中なら、女子に抱き付かれても怒らない男子がいるとわかった。それを教えてくれた高田選手にエールを贈った。
「みんなすまん、いきなり負けた。キヨミ、頼む」
「ん、ドンマイ」
次峰キヨミが両手を広げている。
「慰めてくれるのか」
勇太はキヨミにハグしてもらい、お返しに背中をパンパンして送り出した。
キヨミは、素直に勇太が応じてくれると思わず、内心では驚いていた。
そして会場では、きゃ~~と声が上がった。
キヨミから先は、4人連続でパラ高が勝利。2回戦進出となった。
試合終了時の整列のあと、この世界では先鋒は先鋒、次鋒は次鋒という感じで、対戦相手と握手をして別れる。
だけど相手校は全員が、最後に勇太に握手を求めてきた。




