104 婚約者の妹の妻の母親、え~と、とにかく身内だ
9月3日、火曜日。放課後になって勉強とカフェの手伝い。
ルナも付いてきて、梓も店にいた。
午後7時になって、ルナと梓が帰ろうとしたころ、意外な来客があった。
パンのウスヤの臼鳥麗子だ。
「あれ、どうしたの麗子。純子は?」
「純子は近くのスタジオに呼ばれて、講師とボイストレーニング」
「今日だったか。そんで麗子は?」
「勇太君、話しがあるの・・」
おかしいと勇太は思った。
勇太は早朝からウスヤに行って、麗子のユリエ軍曹ママと仕事をした。
そのあとに、純子や自宅療養中のハル母さんも交えて、麗子が作った朝ご飯もごちそうになった。
麗子から話しがあるなら、時間はたっぷりあった。LIMEも交換している。
とにかく勇太、ルナ、梓、麗子でカフェの控え室を借りた。
深刻な顔をした麗子を見て嫌な予感がした。病気療養中のお母さんに何かあったかと思った。
不治の病の経験者である勇太は、鼓動が早く鳴っている。
誰かにピンチが訪れたら、伊集院君にお願いして曲作りをする。パクり歌を放出してもいい。
手早くお金に変える手を使おうと考えていたが、その時がきたかと思った。
「麗子、ハル母さんは元気そうだったけど、本当はまだ病気が芳しくないとか」
「あの、お母さん絡みでもあるけど・・」
「ふむ?」
「純子のことなの」
ぶっちゃけ、麗子の家はお金がいる。
ハル母さんの、病気の再発ではなかった。勇太は、汗が引いた。
ハル母さんが退院したけど、骨の病気だった。今回、治療で骨を削ったため、腕の骨の形成手術で再入院が必要になってきた。
この世界はチタン合金、クロム合金の人工骨がある。パン屋復帰は可能だけど、お金もかかる。
入院からリハビリまで半年。その間はユリエママがパンのウスヤを1人で経営せねばならない。
ハル母さんは、もちろん勇太も仲良しになった。それにパン作りの師匠・ユリエ軍曹ママの伴侶でもある。
助けられるなら、無視できるはずがない。
「勇太君が普段から助けてくれるから、すごく感謝してる」
「俺もパン修行させてもらってるし、ウスヤがきっかけで歌でもお金が稼げる。気にしないで。それより立ち入ったこと聞くけど、お金の面は?」
「そこなんだよね。かなり必要。ユリエママとどうしようって話してたら、純子が冬にはお金が入るから使えって言ってくれたの」
「じゃあ、使わせてもらえば?」
「そんな・・悪いよ。彼女だけど、厳密には他人だから」
勇太は、この場合はどうなるんだろうと考えている。
「純子は、歌は勇太君にタダで譲って貰ったもので、ぱ~っと使う気だった。なんで気にすんなって笑ってくれたけど・・」
ぶっきらぼうに言ったんだろうけど、勇太は純子も優しいと思った。
やっぱり根は期待した通りの純子だった。
「だったら甘えなよ。俺にも他人じゃないんだから。歌の収益をハル母さんに使うのは歓迎だね」
「え?勇太」
「ユウ兄ちゃん、身内?」
これにはルナと梓が大きく反応した。
「3月3日には、俺、梓、ルナ、カオルで正式に家族になる。なあルナ」
「ま、まあね」
「そしたらさ、純子はルナの双子の妹だから、俺の義理の妹にもなる」
ルナと梓は、勇太が何を言うか分かってきて、目を細めて見ている。
「義理の妹の純子。その伴侶・麗子の母さんが大変なんだ。男子の有利な部分を卑怯に使って、助けたいと思った」
「え、勇太君、義理の妹は分かるけど・・」
「だって麗子が純子と結婚すれば、そういう繋がりになるだろ」
重婚法では、婚姻から繋がる親戚関係を拒否できる。逆に断ち切らなければ、堂々と親戚を名乗れる。
ルナも梓も、男子がこんな形で重婚法を利用したケースは聞いたことがない。
勇太はルナと梓の方を向き直った。
「すまん2人とも。俺の稼ぎは嫁を養うためって言ったけど、もしかしたら、ここで一気に使わせてもらうかもしれん」
「あ、そんなの勇太のお金だからいいんだよ」
「私たちに許可なんかいらないよ。ふふふ」
笑いあう3人だけど、麗子は唖然としている。
「純子とは、ずっと一緒にいたいけど、まだ結婚の約束はしてないの。それに私のことで負担かけたくない」
そのときだ。
「馬鹿だね、麗子」
「ん?」「ん?」
純子がカフェの控え室に入ってきた。