102 カオルとお出かけ
「カオル、午後からカオルの服を買いに行くぞ」
「・・ああ」
勇太はカオルとの初デートに行く前に言った。
「ん、乗り気じゃないのかな。それとも練習で疲れた?」
「い、いや、そんなんじゃなくて・・」
「カオルらしくないな」
「違う、楽しみにしてたさ!」
「じゃあ、どうした。無理すんなよ」
「いや、デ、デートとか初めてなんだよ。いきなり昨日言われて、動揺してんだ、これでも」
勇太が大笑いした。
まだ茶薔薇学園の中。この甘ったるくないけど、カップルっぽい会話を聞いて柔道部員からカオルへの殺意が向けられている。
学校から2人して、ほぼ手ぶらで出た。
勇太は、梓やルナにも服のプレゼントをした。カオルにはパンツスタイルのコーデで見繕ってみようと思った。
勇太自身、そんなに女性の扱いがうまいとは思っていない。
基本的には、昼ご飯、買い物、お茶。あとはカオルの気分次第で街歩きと思っている。
◆
昼ご飯を終えて、服を買いに出た。
カオルは165センチの背丈。スタイルもいい。柔道着のとき、いつも踏ん張ってるから脚が短く見えるだけ。
普通に立つと、まずまず脚が長い。
なので勇太はひらめいた、ということはなく、素直にショップの店員さんに聞いた。
「すみませーん」
「あ、はいはい。あ、勇太君と柔道の強い彼女さんだ」
幸いにリーフカフェにも訪れてくれる女性。すぐに、ジャージ下とTシャツのカオルを見て察してくれた。
「あ、あの、あのさ」
「まあまあまあ、まあまあ」
カオルが店員さんに引っ張られ、試着室の方に連れて行かれた。
少し待っていると、店の前を通りかかった女性から声をかけられた。
「あれ、勇太君だー」
「ひとりー?」
「いえいえ、今日はカオルと一緒で服をプレゼントするの。今は試着中なんです」
「うわあ、いいなあー、どんな仕上がりが見たいー」
「ちょっと見せてもらおうよー」
店員さんに呼ばれて、試着室の方に行った。
シャッと、カーテンが開けられたら、変身したカオルがいた。
上はキャミソールにカーディガン、下は黒いスパッツの上からミニスカート。
勇太に細かいことは分からないが、シュッとして良い感じになっている。
「ど、どうだ勇太」
「似合ってるよ。すげえ可愛くなってる」
もじもじしているカオル。頭をぽりぽりかいているのは減点だが、そこそこ女の子っぽい。
「いいねえ、次はこれに合わせて靴買おうよ。すみませーん、この一式を下さーい」
「あっと待てよ。今日はそんなに金もってねえぞ」
「プレゼントだよ。言ったでしょ。今日は、カオルは黙ってお嬢様しててよ」
すでに周りに集まっている女子から、ほおおーと声が上がった。
注目される中、会計を済ませた勇太が店のロゴが入った袋に、カオルのジャージを入れて持ってきた。
カオルは買ってもらった服を着ている。
カオルはルナに聞いていた。勇太は12月には歌の印税でまとまったお金も入る、稼ぐ目途もある。
だけど金額だけの問題じゃないとカオルは思っている。
自分の丁寧すぎる扱いは何なのだと驚愕している。
カオルは思い出す。同じクラスの彼氏持ちに聞いた。すごく可愛い子だ。
彼氏と1対1のデートをしたとき、すごく散財したって言ってた。
ご飯代、彼氏にプレゼントした服、エトセトラ。普段は他の彼女4人と一緒に出すお金を一人で負担したそうだ。
それでもハンサム君を独占して、お礼にキーホルダーをもらったから嬉しかったと笑っていた。その子は細身の美人系だ。
カオルは、勇太のボディーガードで貢献している訳でもない。女子力も低い。
なのに今日の勇太は、カオルに昼ご飯のお金さえ出させてくれない。
服はなんとかってブランドで、上下の4点セットを買ってくれた。
そして今、スポーツ用品店。前から欲しかった靴だけど、手が出なかったやつを勇太が選んでくれた。
機能、デザイン性を兼ね備えてるから、お高いやつだ。一緒にリストバンドまで買ってくれた。
カオルは、自分を甘やかしてどうすると言いたい。
ルナは言っていた。勇太に尽くされると、ちょっと怖くなるときがある、と。
スポーツ用品店のあと、しゃれたケーキ店でお茶をしている。
テーブルには、勇太が花屋で買ってくれた一輪の花が置いてある。
同性から羨望のまなざしで見られている。
カオルもルナに同感だと思った。