101 必殺ソフトタッチ固め
カオルのために勇太が茶薔薇学園に行った。代替わりしても歓迎してくれる。
早めに行くと言ってあったのに、部員が揃っていた。
「おはよう~勇太君」
「おっはよ~山田さん。部長になったんだね」
勇太の方から握手を求め、山田は喜んで応じた。
山田ツバキ。
勇太が茶薔薇学園を訪れたとき、初めて乱取りした相手である。166センチのショートヘアで面長の目元がきつい美形。
60キロ級の2段。柔道の強さではカオルとハラダシノの方が上だが、名門校の実力ナンバー3。
弱いわけがない。
人をまとめる力があって満場一致で部長に選ばれた。野獣系のカオルとハラダは誰も推さなかった。
ツバキは機転も利く。初めて勇太を押さえ込んだとき、長く密着したくて3分押さえ込んで1本だと嘘を教えた。
そして部員からの人望が倍増した。
今日は18人が練習に参加。準備運動から熱が入る。
「山田部長」
「勇太君、ツバキで頼む」
「じゃあツバキ部長、さっきのストレッチで聞きたいんだけど・・」
「ああ、あれはね・・」
山田はもくろんでいた。勇太とは少なくとも1年間は濃い交流ができる。
それなら山田部長と呼ばれるよりもツバキ部長と呼ばれたい。
『勇太君、ツバキで頼む』のセリフ。
簡単に出たようで、そうでもない。この1週間、毎日100回ずつ練習していた。
内心でガッツポーズしている。
彼女も格好よくて女子にモテるハンサム系。だから広い意味で、女子にしかモテない不知火マイコ系なのだ。
勇太はカオルの新しい技の練習に付き合っている。プラス左腕を使わせないための監視係。
カオルは右限定ながら、インターハイでは片腕の技が意外と使えそうな雰囲気だった。
隠し武器のような位置づけで作る。
30分後、カオルがばったりと倒れた。
「はあっ、はあっ。ちくしょうー、怪我明けとはいえ、これくらいの練習でへばるなんてな」
「ほらカオル、休めよ。まだ無理すんなって」
「いや、もっとやれる」
「まったく・・。その無茶をさせないために、俺が来たんだけどね。うりゃっ」
「な、なにすんだ」
勇太はカオルの後ろに座って、カオルの背中を股の間に乗せた。
そしてカオルの後頭部を胸に密着させ、首に手を回して優しく抱いた。
首の下から回した左手の手のひらで、頬を撫でている。
「はいは~い。梓やルナにも無理させんなって頼まれてるの。このまんま10分寝とこうな」
「う、うああ、うあ」
カオルがパニクっている。
勇太が転生後に濃く接してきたのは梓とルナ。
梓は別居の父と定期的に会うし、勇太と同居5年目。ルナも、この世界では珍しく父親と普通に暮らしている。プラス勇太と唯一、体の関係まである。
梓とルナは、この世界の女子では男子に慣れている方に入る。
勇太は、そのあたりがパラレルワールドの女子のスタンダードだと勘違いしている。
2人と同じ感じで、カオルと密着している。
カオルは家族は沢山いるが、男子と接したことがない。
ネットでは、今年の格闘技界イチのモテ女と言われているが、突然にモテただけだ。
ゼロから100になった。
いきなり勇太、伊集院君に距離を詰められたけれど、いまだに男子免疫が少ない。
嬉しいと思う前に、この状況にビビっている。
ツバキ新部長が、すごい目で見ている。今、戦ったら万全でも勝てる気がしない。
いや、部員も般若のような顔をしている。
プラス勇太の感触、響く声、漂うフェロモン・・
「・・・あぐっ」
キャパオーバーだ。
高校入学直後に絞め技を食らっても気絶しなかったカオル。なのに、勇太から首に手を回されただけでオチてしまった。
それもソフトタッチ。
「カオル、寝たのか?おしおし、少し休もうな」
部員はざわついている。
「あれって・・」
「カオル先輩、寝てるっていうか、オチてない?」
1年生が心配している。
「幸せ固めが極っただけだよ」
「勇太君にあの技かけて欲しいぜ」
「ちくしょ、幸せそうな顔で気絶しやがって」
「ほっとけ」
「ずっと寝てろ」
カオルと同じ2年生は辛辣である。
カオルは目覚めて再び特訓した。そして倒れて、またも勇太にソフトタッチ固めを食らった。