92.開戦
更新です。お盆休み中もできるだけ止まんないよう頑張るつもりなので暖かく見守って下さい。
「ふーーー・・・」
切った・・切ってしまった。そうせざるを得なかったとはいえ、目の前に転がる刃一郎の首から目が離せなくなり、吐き気が止まらない。
「うぶっ・・・」
喉元まで迫ってきた液状の吐瀉物を無理やり飲み込み、生首から目を背けて神父が消えていった転移の魔法陣の場所に移動する。
「・・・ん?」
魔法陣の上に立ち、魔力を流して転移しようとする直前、とある書類の束とその題名が目に入る。
「『異世界人召喚計画phase5』・・・」
内容は、ごく単純な異世界人を召喚する方法とどんな奴が召喚されたか、どんな能力だったか、どんな生い立ちだったのか、どんな研究をしたのかのような物だった。
「霧裂刃一郎・・・記憶喪失の少年。界渡りの際に自身の名前と戦闘に関する知識以外の記憶が消失したと推測される。従って戦闘奴隷として扱い、前線に送り続けることが決定。主人として任命されたのはレオノーラ・フェン・バランタイル・・・。」
ふと目に付いた刃一郎の項目を見ていると、奴隷扱いをされていたとかが書いてあり、主人のところには名前と共に神父の顔写真が貼ってあった。
「・・・・・。」
さらに読み進めていくと、研究と題した拷問のようなことが写真と共に記されており、全てあのクソ神父の筆跡であることがわかった。
無言で魔法陣まで戻り、魔力を流して目を閉じる。緑の光が残像として瞼の裏に強く残ったが、それもすぐに消失し、気付けば草原の上に立っていた。
「おやおや・・その様子だと、刃一郎は失敗したみたいだねぇ?」
「あぁ・・あいつは俺がきっちり殺した。そして・・」
俺が刃一郎を殺したと宣言したことに驚いたのか、神父・・レオノーラは軽く目を見開き、瞳にキラキラとした光を宿す。
「最高だ!!やっぱりきm・・・」
「お前もすぐにそうなる。」
やつの感嘆の言葉に食い気味に威圧と殺意を被せ、言葉を発す。ああ・・初めてだよ、異世界に来てからここまで人間を殺したいと思ったのは・・!!
「へぇ・・やってみるといいさ!」
「ああ、今すぐになぁ!!」
血液魔法ーーー【紅疾空狐】、集中分泌、血流加速
魔力が体から溢れ、紅を纏った体はまるで血のマントを羽織ったようにすら思える。一陣の風が深紅のマフラーと銀色の髪をたなびかせ、遠くで号砲のような音が鳴った。
瞬間・・
最高速度で踏み込み、飛び出した俺の体が奴の懐に1秒も掛からず肉薄し、握った七支刀を逆袈裟で振り上げる。と同時、全く対称的な方向から袈裟斬りで振り下ろされた揺らめく炎の槍が七支刀を止める。止められたことによって晒された一瞬の隙をラミアさんが白銀の尾で薙ぎ払い、俺の体が宙へと打ち上げられる。
「・・グッ!」
痛みを堪え、飛ばされたまま森へと入り、木の幹に着地。瞬時にそこから跳び上がり、ラミアさんの顔面に接近。
「っらぁ!!」
迷わず側頭部に蹴りを叩き込んで引き倒し、地面に着地。次いで倒れた体に掌を当てて掌底をしようとした瞬間、
毒魔法ーーー『王の水』
黄金色の液体が玉のような形になって俺とラミアさんの間に展開される。迷わず手を引っ込め、後ろに跳んで離脱した直後、液体が木の幹に激突。ジューーーという音を立てて幹が溶け、木が倒れた。
「っざけんな、なんだその威力・・。」
「なかなかにいいペアバトルとは思わないかい?」
不気味な笑みを浮かべ、メガネの奥から喜色をうかべた瞳でこちらを見やる神父に嫌悪を隠さないまま返事を返し、七支刀と鉈を構える。
「シッ!」
肉薄し、炎の槍を跳ね除けて鉈を神父に当てようとした瞬間・・
「ところで、君の弟分たちがどこにいるか知っているかい?」
愉悦が奴の顔を覆うのが見えた。
場所は変わって、ボーダル平原・王都側。
睨み合う両軍。王都側には王から直々に派遣された騎士達およそ1万と暗殺者ギルドの面々。そして、有志の冒険者五千が。領地側には公国からの雇われの傭兵およそ2万と領軍三千が並んでおり、沈黙状態が続いている。
「ふーーー・・。」
「さっさと終わらせてキトを探しに行くぞ。」
「異論なし。」
そして・・・号砲高らかに鳴り響き、火蓋が切って落とされた。




