91.緋縅胡蝶
少し短いですが、更新です。
気合い入れて啖呵切ったはいい物の、兎にも角にも血が足りねえ。かと言って、魔法無しでやり合うなど論外な程に速く、力のある、言わば強敵。
「どう攻めたもんかねえ・・。」
悩んでるうちに刃一郎が口を開いた。
「・・・あの時、あの森でお前は全力を出していなかった。」
ああ。刃一郎の言う通り、俺はあそこでは全力の1歩手前で力をセーブしていた。つまり、こいつと戦うのに手を抜いていたのだ。真剣勝負をこそ好むこういうような奴にとって、それはお前など取るに足らない相手だと侮辱しているようなものだ。
「で?それがどうした?現に、あの時点で蛇の介入がなかったらお前は俺に負けていただろう?」
「戯言を!」
「だが事実だろう?」
あっちから時間稼ぎに乗ってきてくれるとは思わなかったが、ここは上手く活用させていただくとしよう。ここが研究室なら、輸血パックの一つや二つ置いてあるだろう。この世界に血液型とかがあるのかは知らねえが、血液魔法使って順応させるぐらいならわけないだろう。恐らくだがな。
「故に、俺は今この状況でお前に本気の全力を出してもらうため、これを渡す。」
刃一郎によって床に投げられたそれは、ギルドハウスを出る時に包んできた布巻のでかい方と、恐らく森の中に置き去りにされていたであろう『重國』、そしていくつかの輸血パックであった。
「速攻で終わっても、何が起きたか分からなくても、到底届く位置にいなかったとしても、俺はお前と全力で戦いたい。だから、お前もそれをとって全力で戦いに来い。でなければ、それらは全て俺が叩き折って穴を開けて捨てる。」
願ってもねえ。これを受け取って俺が本気を出さずに戦わない理由などないし、力をセーブしない理由なんてもっとない。要するに口約束。だから破っても問題はない。問題は無い・・・が、それは漢としては絶対的に間違っていると俺は思う。故に・・・
「・・・わかった、本気を出そう。全力で相手してやる。」
そう言って、輸血パックを2つ手に取り、それを注射するでもなく、口からがぶ飲みして体に血を行き渡らせる。
血液魔法ーーー血液吸収
次いで鉈を左手で逆手にとって構え、でかい布巻の布を切り裂いて中身を露わにする。
「こいつが、俺の本気の武装だ。」
取り出したるはまるで炎を剣にしたかのような、7本の枝が刃の側面から生えた剣・・・いわゆる【七支刀】であった。
「銘は『漆炎陽炎』。最高級素材を使用して打ってもらった、史上最高クラスの『刀』だ。」
「・・・」
赤みがかった刃が培養液の光を反射して鬼火のように不気味な様相を見せた。右手に順手で漆炎陽炎を持ち、左に逆手で重國を構える。漆炎陽炎を前に、半身になって刃一郎を向き、1度周りの空気を吸い込む。
「スーーー・・・」
一瞬、ほんの瞬きに満たない刹那の間、本当にここで本気を出すのが正しいのか逡巡した。・・・が、目の前の刀を抜き、正眼に構えてこちらを見据える男の目を見た瞬間、その考えは消えた。
勝負は一瞬。それ以上かければ俺が限界になり、その場で力尽きるだろう。故に・・一撃で打ち倒す!
「「フッ!」」
奇しくも両者が息を吐いたのは同時であり、踏み込んで行く先もまた共に前であった。
血液魔法ーーー【緋縅胡蝶】
鉈によって切り裂かれた首から鮮血が飛び散り、それらが段々と蝶の形になっていく。そいつらが燃え上がるようにして俺の体の周りを飛び回り、瞬時に俺の体が加速した。
刀技スキルーーー【霧斬切裂】
「おおおおおおおおお!!!!!」
次いで、裂帛の気合いを上げながら刃一郎が大上段に刀を構えて突っ込んでくる。一撃に全てを込め、命をかけたような、空を舞う霞すらも切り裂かんとする刃が、俺の脳天に激突し・・・
「と・・・・」
「ってないんだよなこれが。」
刃技スキルーーー【夢幻之緋蝶】
俺の頭に刃が触れた瞬間、俺の体が数十羽の蝶となってその場から消え、刃一郎の後ろに現れる。驚愕の表情を顔に貼り付けて刃一郎が振り向いた瞬間、
「・・じゃあな。」
「見事・・。」
その体を左肩から右脇腹まで袈裟斬りで両断し、勢いに身を任せて回転。放たれた言葉を聞いたと同時に、その首を・・・切って、落とした。
【緋縅胡蝶】・・・【紅疾空港】や【朱天童子】などと同じ系列の現在のキトの奥義。飛び散った鮮血が蝶の形になって燃え上がり、その数に比例して速度や力が上昇する。更に、致死の一撃を食らうか、任意で1回のみその場に蝶を残して姿を消し、相手を奇襲できる。
【夢幻之緋蝶】・・・【緋縅胡蝶】ありきで発動するキトのオリジナルスキル。蝶を残してその場から消えると同時に相手の後ろを取り、確実に致命の一撃を繰り出す技。




