表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これホントに暗殺者の仕事なの?  作者: 羽根ペン
1章 迷宮編
9/242

8.俺の力

いやいやいや、おかしいだろなんでいきなり長とか言うボス級のやつが出てくんねん。は?んでもって殺しにくるわけだろ?理不尽だわあホントに。


「い、一応聞きたいんだけど、見逃してもらえたりとか・・・」


『すると思うか?』


だよなぁ!!


「しゃあねえこら、やったろうやないかい!!!」


キトの力抜きで俺がどれだけやれるのかがこれで分かるだろ!


『参る』


一瞬にして視界が白一色に染まる。


「え?消えっ・・・・!??!」


何が起きたかも分からないまま近くにあった雪山に激突。身体中に激突の衝撃が巡り、手足が痺れて一瞬だけ動かなくなる。


「ガッ!?グッ!?ゲボッ!?!」


立て続けに突進され、かち上げられたと同時に前足で叩かれただけで地面へと墜落。雪に埋もれた直後に後ろ足で腹を踏み抜かれ、更に下へと落ちていく。


「ガガガガがガガガガッッッッ!??」


地中の凍土を全て身一つで貫いていき、最終的に地上から50メートルの辺りで勢いが止まり同時に落下も停止した。


「ゴッ!!ガッ!!ヒュー・・・」


口の中で折れまくった歯と、どこから出てるかも分からないほどに流れてくる血を一緒に吐き出して息を整える。


「フゥゥゥゥ・・・シッ!!」


一気に直上へと飛びあがり凍土の壁を経由しつつ自分の体の数倍でかい穴から勢いよく飛び出す。そのまま周囲に視線をめぐらせ、殺気を感知。それとほぼ同時に防御の構えをとったが、捉えられずに空中で後ろ足の蹴りを喰らい、数百メートル先まで吹き飛び、雪が爆発を起こしたかのような勢いで墜落。


吹雪と舞い散る雪でさらに視界が悪くなる中、身体中から流れる血を気にもとめずに跳躍。5歩踏み込んだところで真正面から激突して直上へとはねあげられる。


咄嗟に下ではなく上に防御の構えを取り、衝撃が来たと同時に受身をとる。雪の厚さと受け身でなんとか落下の衝撃を殺し、フェンリルが共学の表情を浮かべてる最中にその顔を殴り、蹴り、もう一度殴って離脱。


しかし、ただの前足の薙ぎ払いによって捉えられ、はたかれるような形となってまたしても雪山に激突した。


『弱い。弱いなあ。しかし、なぜお主はそんなに硬い?普通の人間ならば最初の一撃で灰燼に帰していたと云うのに。』


「さあ?俺もよくわかってねえんだ・・よ!!」


口を動かしつつ接近。殴る・・と見せかけて腹の下へ潜り、アッパーカットをフェンリルのちょうどへその辺にぶちかまし、イノシシの時と同じように、後ろ足をくぐりぬけて長いしっぽを掴み、背中へと着地。大地にも見えるとほどに大きい背中で踏み込み、顔の辺りに接近。的確に目を狙いつつ拳と蹴りの押収を仕掛ける。


しかしてその全ては通らず、狼王の黄金の瞳はかけることの無い満月のように光り輝いてじっと俺を見つめてきていた。


「ちっ・・・割と会心の一撃とかも入れてんのによぉ・・。」


『目を狙ったところは惜しかったがな。まあ、それなりには楽しめた。死ぬがよい。』


フェンリルがそう言った瞬間に、一瞬で奴の体が消え、世界がスローになった。なんだ?これは?走馬灯?スローになってるってことはそういうことか?


自然と心臓の鼓動がゆっくりとしたスピードになり、体の血管1本1本が機能を止めたかのような苦しさが出てくる。そして、目の前で至極ゆっくりとフェンリルの右前脚が振り下ろされ・・・


「(あ、これ防げんじゃね?)」


ただ死ぬ直前のスロー状態なだけであるのに、そんな勘違いを起こした本能に諦めたくないと考えた体がついて行く。そして理性は、


(それなり?それなりだと?俺がここまで本気を出して、ボコられたのにそれなりだぁ?あの野郎は絶対に許さねえ。せめて心から楽しめたとあの野郎がほざくまでは許さねえ。フルボッコにしてやる!)


完全に失われた。


本能と体は同時に動きだした。本能はそれこそ本能的に魔法・・を行使しようと体に魔素を、体は現在置かれているスローモーションを維持するために眼球に信じられないほどの血を流し込む。この一連の体の動作によって、俺の魔法が開眼した。


視界に移るもの全てがスローモーションのまま時が流れ、目からでた血の涙がマフラーに吸い込まれていく。先程の戦いからずっと俺の血を吸い続けたマフラーは赤を通り越して深紅となっている。


本能と体は、同時に魔法を行使した。本能はマフラーに対して血流の操作を行い、右手に巻き付け、染み込んだ血全てを細胞に至るまで硬質化させる。体は眼球の次に、掲げた右手に血を流し込み、戦いで断裂した血管を細胞に至るまで全て血液のみで修復。さらに、右腕の血管中を流れる血全てを同じく硬質化させて激突に備える。そして、振り抜いた右腕と右前脚が激突する一瞬前、肌が触れ合った瞬間に、眼球に流していた血液を一瞬で右手に移動させ、硬質化。更に、その間で一時的に心臓を停止させ、体のあらゆる場所の血を硬質化させる。


ーーーこれで、準備は整った。


血液魔法ーーー紅拳ブラット・ストライク


深紅が尾を引いて白銀と激突し、辺りにあった雪が全て爆散し、エネルギーとエネルギーのぶつかり合いによって溶けた。更には天空にまで余波が広がり、真っ白の雲と周囲を囲むように展開されていたブリザードが全て霧散した。


凄まじい程の力と力がぶつかり合って衝撃波を辺りに振りまき、立っていられないほどの風圧が発生した。それでもなおフェンリルの力は衰えず、俺の捨て身の攻撃は全てやつの右前脚の振り下ろしに吸収された。


そして奴の前足が俺の首に突き刺さり、首から血が吹きでる感覚と、それを推し留めようとする魔素の流れが残り、俺は意識を手放した。


煙のようになっている雪を鉤爪の一閃で散らし、フェンリルは自分が今確かに首を貫いた少女の姿を探そうとする。感謝を伝えようと思ったわけではなく、強者として讃えようと考えたからである。


しかし、どれだけ探しても雪上に少女の姿は無く、ただ1匹、溶けた凍土の上で、胸中に思いを宿したまま立ち尽くしている狼王の姿だけが、そこにはあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ