83.【ありがとう】
ちょっと短いけど更新です。
「・・・は?」
信じられなかった。・・・いや、信じたくなかったと言ってもいい。元から、嫌な予感はしていた。出現した魔物の名前、襲った街の場所、そして俺が村を出る前最後に戦ったあの赤い牛と召喚士。今思えば、あいつらは公国の回し者だったんだろう。じゃあなんのために来ていたのか?・・・領地をとる?違う。・・・特定の人間を殺す?違う。・・・人体実験?恐らくだが違う。
「あそこに来たのは召喚士だった。それも下っ端の。であれば・・・」
自分の上司、若しくは目上の人2会いに来るのが理にかなっている。そして極めつけに
「公国の英雄で一級召喚士『エラルド・ルンゲパス』が12年ほど前から失踪しているようだ。」
という王の発言。・・・これは、ほとんど確定と言ってもいいだろう。
「・・・あの野郎。」
王がいなくなり、静寂と冷たさで満ちる部屋。ただ1人、そこにあった椅子で俯いて、俺は思考を纏める。
「チッ」
・・どうしようかこの感情は。既に収まりがつかないほどにこの体を駆け巡り、身を焦がすような激情を、俺はどう収めればいい?復讐?私刑?んなもんじゃ済まさねえ。人を殺す決意を固めろ木村永戸。例え相手が・・育ての親であったとしても。
しばらくして、俺はお祝い気分のみんながいる部屋に戻った。入った瞬間にみんながこっちを見て目を見開いたのはしょうがない事だったと言えるだろう。なにせ、それだけ俺の体から殺気と憤怒の魔力が噴出していたのだから。
「キ、キト・・・?どうした?」
ドレットパイセンが申し訳なさそうに問いかけてくる。とんでもない。祝いの席を台無しにしてしまったのは俺なのだから、謝るのはこっちのハズなのに。
「すいません・・ちょっと、疲れたんで。」
当たり障りのないよう、理由をつけて部屋に戻る。俺が出てからもしばらく扉の奥では沈黙が続いていたようだが、申し訳ないとだけ言っておこう。今の俺にとってはそっちよりも村の方が問題だ。
「・・・」
部屋に戻ってすぐ、紙を用意してそこにペンを走らせた。いわゆる置き手紙という物だ。内容は伏せる。言ってもつまらないだけだからな。それに・・・いや、やめておこう。手紙を机の上に置き、その上に風で飛ばされないよう近くにあった本を置き、机から身を離す。振り向き、壁にかけてあった俺の腕程度の長さの布巻きと俺の身長ほど長く、腕よりも太い布巻きの二本を暗殺者ギルドから支給されたアイテムボックスに入れる。中身は俺の切り札だ。最後に、形の崩れたマフラーを巻き直して準備完了。部屋の窓を開け、惜しむように部屋を見渡すと、一瞬、手紙の上に置いた本が風で開き、書いてある文字が目に入る。
「・・・ふっ。」
微笑んで前を向き、前に体重をかたむけて飛び降りた。
【ありがとう】ただそれだけが見えた。
ーーー翌朝
「ブラドさん!!キトがいねえ!!」
「・・・え!?」
「玄関にもキッチンにもいないよー!!やっぱり昨日なんかあったんだってー!」
「あいつがあそこまでまでキレてんのは初めて見たからな・・・俺らがいなくなった後になんかあったと考えるのが無難だな。」
「皆さん!コレ見てください!!」
アリスがキトの部屋で声を上げる。と同時、その場にいた全員が駆け出し、部屋に入った。机の上には一冊の本とその下に丁寧な字で書いてある手紙があった。
「えぇと・・・」
『ちょっと実家に野暮用が出来たので行ってきます。3日待って帰ってこなかったら死んだと思ってください。最後に、今まで・・・ございました。』
恐らくそこで何か液体が落ちたのだろう。その部分だけかすれて読めず、ブラド達は顔を上げた。すると・・・開けられた窓から風が入り、開かれた本のページがパラパラとめくれて、ある1ページで止まる。
【ありがとう】
その五文字が確かにそこに書かれているのが見えた。瞬間、その場にカーネリアとブラドが崩れ落ちる。ルースとドレットもその顔を手で覆い、ベルとギルは両目を瞑って上を向いた。アリスはただ顔を青ざめて目から涙を流し、リンカとレンカは混乱で人格が混ざりまくっているのか、片方の顔で嘆き、もう片方の顔で憤怒を表すという器用なことをしていた。
しばらく全員がそこで涙を流し、膝を着いて項垂れていたブラドが立ち上がり、
「キト君を探そう。・・恐らく、鍵は王が持っているはずだから。」
城を睨んで言い放った。瞬間、全員の視界が暗転し、
「さて・・・会議を始めよう。」
気付けば玉座に座った王が、円卓の向こうで彼らを見据えていた。
アイテムボックス・・・値段によって入る質量と大きさが変わるマジックアイテム。普段は腕輪や指輪、ネックレスの形で作ってあり、空間魔法を付与した魔法使いの実力で容量が変わる。暗殺者ギルドのマジックボックスは全て装飾が統一されたイヤリングであり、空間魔法を付与したのはベルであるため、容量は国内随一である。尚、ギルド内で中に1番ものを入れているのはルースでありら一番ものを入れていないのはキトである。因みに、エイブルが持っていたのは市販の別型。




