73.開戦
更 新 再 開
・・・というわけで、現在魔眼会議の面々は東の公国方面に馬車で移動してる訳だが・・。
「アリス、少し落ち着きなさいな。」
カーネリアさんの困ったような声が馬車内に響いたと同時にアリスパイセンが口を開く。
「でも、こっち方面は私の故郷ですし・・。」
そう、なんでか知らないけどアリスパイセンもいるんだよね。本人曰くこっちの方に親の領地があって、心配だから来たとの事。なるほど、理由としては間違っていない。が、妙に怪しく感じる。というのも、妙に目が輝いているのだ。オマケにソワソワと窓の外を眺めては中を見て装飾とかに視線を配ることを繰り返している。王に特に何か言われた訳でもないが、警戒はしておいた方がいいだろうか・・。
「淑女として当然の振る舞いも出来ないとは・・暗殺者ギルドにはお転婆のような方しかおられませんこと?みっともなくて恥ずかしいわ。ねえ?姉様。」
「ホントにその通りよ。レア。それに、聞けばそこの小娘も・・・。」
そして俺の気をさらにげんなりさせているのがこの姉妹。いっそ呆れるほどに暗殺者ギルドを敵対視し、ことある事にこちらの失敗や不注意を指摘してくる。ウザったいことこの上ない。・・え?なんでこんな女しかいないのかって?・・ここが女専用車両だからだよ!!目的地まで、この前は黒装束の転移で行ったが、あいにくあいつの転移は一度行ったことのある場所にしか転移できないらしい。・・・役立たずが。
「あらあらお二人とも。そのような指摘をすることこそが淑女として当然の振る舞いなんですの?」
おっ!カーネリアさんが攻勢に出た。いいぞ!そのままやっちま・・
!!!??!!?
全員の背筋に悪寒が走り、警戒態勢が一気に上限まで引き上がる。と同時に、遠方から本当に僅かな何かが放たれる音が響いた。警戒していたとはいえ、瞬時に反応できたのは俺、カーネリアさん、ミアの3人。馬車の窓枠を突き破って、長大な『舌』が凄まじい速さで通り抜ける。瞬間、振り上げた深紅のマフラーが刃となり、空気を裂いて舌を断つ。
布魔法ーーー刃布
あっさりと切断された舌が車内に落ちてのたうち回る間に、馬車の外に展開された魔法陣から探知と牽制の魔力弾が数十個一斉に放たれる。
魔力弾が炸裂し、手応えと共に振り返った2人を全力で下に引き下ろす。次いで轟音。それに気づいて全員が避けられたのは全くの偶然であり、死傷者がこの瞬間に出なかったのは奇跡に近かっただろう。次の瞬間には、馬車の上部が馬の首と共に『緑の何か』に削り飛ばされ、次いで横転。回転しながら全員が外に投げ出され、地面に落ちる。
「・・・っぁあ!!」
「っぶないわねえ・・一体何も・・!!?」
「うっそだろ・・なんでこいつがここに・・。」
いや、舌が伸びてきたことから予想はしてた。ただ、ホントにそうだとは思わねえだろうが!!凄まじい威圧感と禍々しい気配。ダダ漏れになっているどす黒い魔力と殺気がこちらを爬虫類の目で睨み、ひとつの都市ほどはあろうかという森の中で、とぐろを巻いてなお有り余るその長さに絶望を感じえない。
「ははっ・・。」
思わず盛れた乾いた笑いに呼応するようにして
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!』
バカでかい咆哮が席巻する。
「これは死んだか・・・?」
苦笑いを顔に張りつけ、目の前の者。神話存在にして世界を飲む蛇、かつての神話で世界を巻いて海に生きた災厄の大蛇。様々な名がある中、最もわかりやすいのはこれだろう。
「【神獣・ヨルムンガンド】・・・!!!」
蛇は笑う。それも当然。いつだって、矮小な神や人間、亡霊を見て、ただひたすらに笑うのだから。
ゴロゴロと車輪が音を立てて岩場を進む。馬の1歩、また1歩で山頂へと近づき、澱みなく一定のリズムで彼らは進む進む。車内では笑い声がひびき、酒の瓶がぶつかる音も時折響く。
「いやぁ、この酒いっすねブラドさん。いくらでも飲めますよ俺!!」
「それくらいにしとけ。いつ敵が来るかなんてわかんないんだから、警戒は怠らないように。」
「へーい。」
そう言いつつ、ブラドも一気に酒を煽り、喉奥に流し込む。たまの無礼講も良いだろう。巨人の位置は割れているし、ここは雪山の方ともだいぶ離れてる。なんなら森からだって離れいるのだから。
そして2時間ほど走った後に感じる違和感。そう、『音がしない』のだ。それも全く。普通であれば馬車が岩の上を通る音がしたり、小石が車輪にあたってコロコロ言うことだってある。
「何かが・・いる。」
そう呟いた瞬間、仕掛けられた攻撃にギリギリで反応できたのはブラドのみ。扉ごと窓を切り裂いた爪が中に到達し、ドレットの首に触・・・
「させねえ。」
アブセルのしたことは上から下に振り上げる手刀。ただそれだけ。次いで白銀の爪が弾かれ、天井をぶち抜いて離れていく。瞬間、外に身を躍らせたルースが漆黒の魔法陣から数本の剣を放ち、突っ込んでいく1歩手前。ドレットが紫電をまとって全力でルースを車内に引き入れる。刹那の間を置いて衝撃。さっきまでルースがいた場所に巨岩が降り注ぎ、衝撃波で馬車が横転する。
外に投げ出され、感じたのは痛みではなく冷たさ。雪が地面に敷きつめられ、尚且つ今も岩と共に降り注いでいる。立ち上がり、戦闘態勢を整え、見据えるは純白のオオカミと百の手を持つ巨人が禍々しい覇気と魔力。殺気を常に放出し、睨み合いが続く。
「キト君の言を思い出すならば、【フェンリル】と【ヘカトンケイル】・・・だよね。」
「俺らが相手するのは【蛇】のはずなんだがなぁ・・・。」
「ま、今更じゃない?」
「・・・来るぞ」
同時にドレットとフェンリルが消える。青い軌跡と紫電が迸り、火花を散らして今、開戦した。
長らくおまたせして申し訳ありませんでした!!!




