62.芯
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「ぬぉっ!!」
私を庇って前に出たオスカーがその身にほとんどの魔法、スキルを食らって吹き飛んでいった。咄嗟にそちらへと駆け出し、振り下ろされる前足の爪からなんとか逃れることに成功する。
「・・・っはぁ・・・はぁ・・・はぁ」
「だ、大丈夫?」
額から血を流し、腹からは臓物が飛び出ている人間に対してそんな質問をするのは我ながら滑稽というか頭が悪いとしか言いようがない。
「・・・大丈・・夫・・な、わけ・・あるか・・。」
「ごめん、ごめん・・・ごめんなさい・・」
ひたすらに謝ることしか出来なかった。捕らえた時に油断しなければ、速攻で全部の首を跳ねていれば、もしかしたら違う結末だったかもしれないのに・・。あそこで詠唱なんてしないで速攻で決めていれば、もっと私の魔力伝達が速かったら・・。一気に頭の中に後悔の念が押し寄せ、鼻水の涙で顔がグシャグシャになる。
「そん・・な、顔・・する・・・な。」
「・・・え?」
「き・・れい・・な、顔、が・・台・・無し・・・だろ?・・それ、に・・そんな・・・かお・・さ・・せる、ため・・に、助・・けたわけ・・じゃない。」
「オス・・カー?」
「は・・はっ・・ちょっと・・前、まで・・は、敵・・どうし・・だったのに・・・な。そん・な、相手・・・に、そん・・な顔・・でき・・るのは・・すげえ・・・なぁ。」
「そんなこと・・そんなことないよ!!」
「いい・・か、『キト』・・・この・・先、何が・・あっ・・ても、常・・に、自分・・の、かっこ・・たる、芯・・・を・・・芯、を・・持・・て・・。」
「オスカー!・・オスカー!!」
息も絶え絶えのオスカーが、一瞬目を閉じてガクッとその体から力を抜かす。彼の体が軽くなっていくのが怖くて、私はずっとオスカーと叫ぶしかできなかった。
「あ、・・ぶね・え。死ぬ・・とこだっ・・・た。キ・・・ト。最・・・ご・・に、せん・・べつ・・・だ。う・・け・・・と・・れ・・・。」
小瓶に入った黄金の液体が、オスカーの手からゆっくりと私の手へ渡ってくる。
「これ・・・って・・。」
その輝きは黄金にして白銀。この世の全ての輝きを落とし込んで金色にしたような、そんな表現が似合う物だった。
「エリクサー・・・。」
「じゃあな・・・キト・・。・・・助・・け、られな・・くて、スマン・・・な。」
「オスカー!!」
叫んだ時にはもう遅く。彼の体からは既に力が抜け、息もしていないし心臓も鳴っていない。
「オスカー!!!」
それでも、叫ぶ。絶対に帰ってこないと分かっていても叫ぶ。叫ぶしか出来ない。呼び戻すことが出来ない。喉が涸れるほどに大声で叫び散らし、彼の胸に顔を埋めて涙を流す。
「オスカー・・オスカー・・・ッ!!」
直後、殺気に対して振り向いた瞬間に前足が直撃し、体を吹き飛ばす。そのまま壁にぶつかるかと思いきや、2体目の右前脚が体を切り裂きながら真上へと放る。ついで三体目と四体目が魔力を迸らせて光の如く迫る槍が波を纏いながら体を撃ち抜いて地面にたたき落とす。
「が・・ふっ・・!」
なんて無様。なんて・・なんて不甲斐ない。助けられて尚このザマ。しまいには死ぬ寸前まで追い込まれてもなお戦う気が起きない。満身創痍と言えばそれまでだが、気力までもが立て続けに起きた出来事に追いつかずに弱まっていく。
「が・・ぐ・・・そ・・。」
もはや魔法を操れるだけの魔力がない。ただ悪態をついて床に転がり、振り下ろされる前足を黙って見ているしかない。・・・『かっこ・・たる、芯・・・を・・・芯、を・・持・・て・・。』ふと、さっき聞いたオスカーの言葉が脳内で再生される。
「かっ・・こ、たる・・・芯。」
芯を、確固たる芯を・・・絶対に負けない。この先、何があろうと、誰が相手だろうと私は、私にたちはだかる者には絶対に負けない。・・・それが、私の芯だ。
「・・・ぇ?」
胸元、先程エリクサーをしまった場所が輝き、黄金の奔流が体にまとわりついて体内へ入っていく。皮膚が、血が沸き立つように強く熱くなって体内でひとつの生き物のように蠢き出す。輝きが体から徐々に消えると、何も傷がついていない身体がボロボロの服を纏って地面に転がっていた。刹那の間を置いて、七体の牛鬼が一斉にこちらを取り囲み、魔力を迸らせてスキル、魔法を放つ。
魔眼スキルーーー【山羊座之魔眼】
光魔法ーーー【一点穿貫光】
魔眼スキルーーー【牡牛座之魔眼】
魔眼スキルーーー【射手座之魔眼】
魔眼魔法+固有魔眼スキルーーー【煉獄解放】
剣技スキルーーー【百華龍乱・断】
武器魔法ーーー【万剣招来】
紫電魔法ーーー【轟雷:絶望之紫電】
空間魔法ーーー【波剣:大津波】
斧技スキルーーー【奥義・血流断斧】
ああ、これで私も死ぬんだ・・・と、目を閉じ、意識を奥の奥の奥へと落としていく。そして、完全に意識が引っ込んでいく寸前。
「後は、任せろ」
そう、言われた。




