4.クズ
『ほえー、なるほどな。つまりお前は本当の【キト】の意識なわけで、俺が転生したからお前の体は俺によって支配されたがお前の意識が霧散することなくここに留まり続けたせいで、俺の2つ目の人格みたいな感じになっている。と、じゃあ、10年間も出て来れなかった理由はなんなんだ?』
『それは単純にお兄ちゃんがどこから来た誰なのか気になって深層意識に記録されている前世の記憶を2倍ぐらいの速さで見てたらこんなにも長い時間が経っていたって言うだけの事だね。』
『つまり興味本位、と。』
『まあ、そうだね。でも、お兄ちゃんが転生してきてくれなかったら私はあの捨てられた雨の日に死んでいたかもしれないんだよ?』
ああ、だから今日まで生きててくれて『ありがとう』なのか。やっとそこが理解出来た。
『そうそう、それでね、私っていう意識が中途半端に残っちゃったせいで、お兄ちゃんの転生が完全なものじゃなくなってるんだよね。』
『ああ、で?何か支障でもあるのか?今んとこ体にはなんの影響もないぞ?』
『うん、今はそれで大丈夫だと思うけど、後3年位したらお兄ちゃんの意識か私の意識。どちらかが霧散しちゃうんだよね。如何せん、私はお兄ちゃんが転生してきた時に不完全な消滅と霧散をしてしまっているせいでお兄ちゃんよりも霧散する優先度は高くなっちゃうんだ。』
『じゃあさっきの『私、もう戻らなきゃ』的なやつはそれが原因ってことか?』
『そうなるね。私は深層意識で自我が欠落しないように自分の意識を見張って、欠落したらそこを修復する。って言うことをしてるんだよ。それは永続的にやらないといけない事だから、ちょっと目を離すとボロボロと意識が崩れていっちゃうんだよね。だからさっきは直ぐに深層意識に戻ったんだよ。』
『それはその・・・今は、大丈夫なの・・か?』
『うん、幸いあの程度の時間外にいたとしても崩れることは無いんだよ。崩れたとしても大したことは崩れないだろうし。』
『OKOKこれで全部納得がいった、というか理解ができた。じゃあ、とりあえずキト。俺と変われ。』
『え?』
『だってこの体はキトの体だろ?お前の意識の欠落は俺が見張るし、元々これはお前の人生なんだから俺が霧散するよ。俺はもう本当なら終わっている命なんだから。』
『お兄ちゃん・・・。』
『なんだ?』
キトが平手打ちの体制をとり、一瞬で間合いを詰めて思いっきり引っぱたいてきた。
『いっっ・・・!!???』
『お兄ちゃんのバカぁ!』
『え?なん?は?』
『お兄ちゃんがそんなことしても私の心は満たされないし、意識も戻らないんだよ!欠落は俺が見張る?どれだけ難しいのかお兄ちゃんには分からないでしょ?わかった気にならないでよ!!?私の今までの辛さや苦しさなんかお兄ちゃんに分かるはずがないんだもの!!』
『・・・』
まるで火山のように憤怒したキトは涙をうかべ、こちらに直接物凄い量の殺気を飛ばしながら睨みつけてくる。
『フー・・フー・・・!!』
『・・・ああ、確かに俺は馬鹿だよお前のその辛さ、苦しさ、努力を何も分かってやれないようなダメな男だ。だから・・・。』
『もうお兄ちゃんの口から何も聞きたくない!ここから出てって!!』
一瞬でキトの意識から腹パンを喰らい、意識の中で意識を失うというなかなかに奇妙な体験をした俺はゆっくりと浮上していき、冷や汗をダラダラ流しながら目を覚ます。
時間は・・だいたい朝の3~4時ぐらいだろうか。あたりはまだまだ暗い。
「フー・・・。」
怒らせ、ちまったな。せっかく助けてくれたのにな。ほんとに俺はどうしようもねえ馬鹿野郎だよ。
「っし、路線変更するか。」
具体的には・・
「教会を出たらあてどない旅に出て両親を探しつつ生きて行ければいいかと思っていたが、やめにしよう。まずはキトを救う、これが俺のこの世界での第1の目的だ。」
ごめんな、キト。兄ちゃんはお前の努力や苦しみを全部無駄にしてでもお前を助けるよ。
・・だって俺は、人の努力や頑張りを簡単にへし折って無駄に出来るようなクズなのだから。
短いですが、今回はこの辺で。