42.血液不足
轟音と共に渾身のかかと落としがオスカーの体に炸裂した。地面の雪が不可で割れるほどの威力を喰らって尚、彼の体には一切の傷や影響を残さないままに衝撃が霧散する。
「こんなもんかい?」
「まだまだぁ!」
とは言ったものの、いい加減血が足りなすぎてどうにかなりそうだ。少しでも気を抜くと頭が血のことばかりを考えて吐き気がする。
「おっらァ!!」
回し蹴りから後ろ回し蹴り、繋いで掌底をその腹に繰り出してもなんの威力も示さないままに衝撃が消え、手応えが無くなる。
「チィッ!」
鋭く舌打ちをし、振るわれた拳を屈むことで回避。紡がれた回し蹴りを強化の乗った頑丈な腕で受けるが受けきれずに後ろへと足で作った線を引きながら雪の中を飛ばされる。
「甘い!甘いなぁ!!」
なおも急加速し懐にはいられたと思った瞬間に掌底が鳩尾に突き刺さる。
「ゴォエ!!?」
信じられない速度で吹き飛ばされ、背中側から雪原に着地。
「っ・・・痛ってえなぁゴラァ!」
間髪入れずに立ち上がり、構えた拳を一瞬で接近したと同時に振り抜く。
拳と拳が合わさって轟音が鳴り響き、衝撃波によって雪煙が生じる。
血液魔ほ・・・
唱えようとした魔法をキャンセルし、振り抜かれた足に腕を十字に組んで対応。衝撃を流して勢いのまま回転し、強化を乗せた全力の回し蹴りを顔面に叩き込む。
「ふぅ。」
「固すぎんだろ!」
口ではそう叫びつつ強化を総動員して肉薄。後に、殴る蹴ると攻撃の手を緩めない。
「通じないようだねぇ!!」
「うるせぇ黙れ!!」
思いっきり蹴った勢いを利用してその場を離脱し振るわれた右拳をスレスレで回避成功。
「あっぶねえ・・・。」
「まだまだぁ!!」
肉薄され、咄嗟にガードをしたと同時に腕の上から顔を殴られて後方へ飛ばされる。
「ガァ!!?」
これ勝てんのかよ・・・。固すぎんだろエリクシール。つか強化としてこんなもんが振るわれんじゃあ俺ら見てえな強化系の魔法使いの立つ瀬がねえよ。
雪上を転がりつつ体制を建て直し、懐に入ろうと接近する。直後、氷の割れるような轟音が響き、頭上に巨大な白の魔法陣が顕現する。
突如として白銀の魔法陣から巨大氷河が降り注ぎ、雪原を蹂躙していく。
「おいバカだろこれぇ!!」
「はっはっはっは!!やってくれるじゃないかミーヤ君!!!」
落ちてくる轟速の氷河を回避しつつ、偶にある野球ボール大の氷片を蹴ってオスカーにぶつける。
「効かん!!」
「だろうと思ったよ!!」
これで遠距離ならダメージ通すんじゃね戦法も潰れたわけだ。とりま・・・って、危な!?
バックステップで距離を取りつつ、投げられた氷の破片を避ける。迂闊に責められない距離となった俺達は一時の膠着状態となった。
降り注ぐ氷河の中、俺はオスカーを睨みつけて呟く。
「さっさと倒す。」
「やってみたまえ。できるのならな?」
疑問と挑発には無言で応じ、その返礼として魔法を唱える。
血液魔法ーーー出血、血液操作、集中分泌
お馴染みの3個を自身のありったけの血と魔力で発動させ、体を高揚させると共に紅蓮のような般若面を被る。
恐らく、この魔法の効果が切れたら自分は吸血衝動に駆られて自我を保てなくなる。
「だから、今ここでぶちのめす!!」
口上と雄叫びを同時に吐き出して氷を割るほどの踏み込みで肉薄。
先程とは比べ物にならない威力と速度で拳が振るわれ、この戦いが始まって始めて殴られたオスカーの体が少し揺らいだ。
「ふっ・・・。」
「効いてんじゃねぇのかァ!?」
挑発を吐いて左手の掴みと右腕の拳を同時に屈んで回避。手を地面について大きく逆立ちし、顎を蹴りあげて上を向かせる。
「だっらァ!!」
好きをさらしたその喉に手刀を叩き込み、勢いに乗せて思いっきりの回し蹴りをその頸にぶちかます。
「効かないねぇ!」
ものっそいドヤ顔でこっち見やがったこの野郎。
「うっぜええぇ!!」
それでも少しダメージが通った。それだけで十分だ。
「俺のなけなしの血だ。思う存分切り裂かれてくれ。」
血液魔法ーーー血装:刃
唾も柄もない、透き通るように薄い深紅の刃が手元に出現する。
「行くぞ。」
短く告げ、腰だめに刃を構えて前へ踏み込む。肉薄したと同時に強化の乗った回し蹴りを顔面に叩き込んで首から外したマフラーをオスカーの目の前に投げる。
「シッ・・!!」
視界を塞いでどこを攻めるか分からなくし、一閃。超速で振るわれた刃がその身に薄く斬撃の傷を付けた。
「くっ・・!」
「きいてるなぁ!!」
続けざまに刃を振るい、体表の薄皮を徐々に切り裂いていく。
「オラオラオラオラァ!!」
斬って斬って斬って斬って斬って斬って薄い切り傷を大量につけていく。
「フッ!!」
唐突に隙を着いた気合いと共にオスカーの体がさらに固くなり、刃が弾かれてヒビが入る。
「マジかよ・・!!」
どう倒す、斬撃は今ので無効化された。打撃は無理。銃もおそらく無理だろう。というか、手元にない。
「さあ、どうする?」
思考をまとめろ、どう倒すかに脳みその全リソースを裂け。それ以外は最低限でい・・・!!?
踏み込み、加速した体が肉薄し、深紅の刃が握りつぶされるようにして折られた。
瞬間、思考が血に染る。
「まっず・・・!?」
止めようとするが、時既に遅し。刀は血液となって雪原上を流れていき、血の気が引いていく感覚が体を支配する。同時に、流れ出る深紅の液体に思考が塗りつぶされ、何も考えられなくなった。
血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
飲まれた思考は戻って来ず、少女はただ目の前を流れる紅の液を眺めるだけの人形と化す。
「血不足か。不用意に強化を使いすぎるからそうなるんだよ。全く、馬鹿なことをしたもんだ。」
そんな嘲りと
『全く、お兄ちゃんはなんで吸血鬼の方に引っ張られちゃうのかなぁ?ま、しょうがないから私がお母さんの方に寄せないと・・・ね。』
そんな囁きを最後に、俺の意識は飲まれていった。




