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これホントに暗殺者の仕事なの?  作者: 羽根ペン
1章 迷宮編
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3.とんでもねぇことになってね?

俺が後ろを振り返ったと同時に猪が突進を敢行してきた。


「チッ!!」


咄嗟に右にステップをして突進を回避。手に持った包丁で振り向きざまに後ろ足の腱を切りつける。


「はっ!?」


硬っ!!ちょ待ってまじで硬い!刃が通らねえ!!結構切れ味いい包丁なのに!!


「MOOOOOO!!!!!」


後ろ足を上に振り上げるだけの単純な蹴り。それを見てからギリギリ回避し、猪の足が大木に激突した。


メキッ!


「え?」


嘘だろおい!?今木足型に凹んだって!やばいってマジで!!


「おいおいおいおい、ヤバすぎんだろ・・・。」


こんなん村の大人の男数人で囲って槍で距離取りつつ倒すようなやつやん。絶対に10歳の女が1 on 1でやり合うような相手じゃねえだろうが!!


「BRMOOOOOOOOO!!!!!」


尚も突進を仕掛けてきたため、猪に背中を向けて木を一瞬だけ駆け上がり、足場にして飛翔。直後に猪が俺のいた木にぶつかり、揺れて葉と枝が尋常じゃないほど落下してくる。落ちてくる葉っぱや木の枝に構わずに猪の顔の辺りに着地。逆手に持った包丁を瞬時に猪の目に刺し、即離脱する。


「MUMOOOOOOOO!!!!」


「フー・・・。」


目の前で身悶えする猪を見つめつつ、深呼吸した俺は思考を切替えた。


OKOK、一撃入れて離脱を繰り返せ。ヒットアンドアウェイだ、ヒットアンドアウェイ。


包丁を順手に持ち、正眼に構えて今度は俺から猪の方へ駆け出す。猪が目で俺を追う前に一瞬で距離を詰めて顎の下に潜り込み、鼻の上へと突き抜けるようにして包丁を突き刺す。


「はっはぁ!顎の下まで固くはねえみたいだなあ!!」


この分だと首も柔らかいか?いや、さすがにそれはないな・・・。顎の下に包丁を突き刺したまま直ぐに離脱。すんでのところで両前足の踏みつけを避ける。


「っぶねぇ・・。」


さあ、こっからどうするか・・・。現状俺は武器を持っておらず、やつは多少血を流してるとはいえほとんどつ無傷。


「これ勝てんの?」


無理くないか?出来ても気絶させるぐらいが関の山だろこんなやつ。でも倒さねえことには始まらねえからなあ。やるっきゃねえか。


じゃあ具体的にどうややって倒すのかなのだが、やっぱりヒットアンドアウェイが1番だとは思うが・・。


はぁ、めんどくせぇ!もういい、死ぬ覚悟で突っ込むぞ!!


足に力を貯めて一気に踏み込み、それを解き放つ。瞬時に加速し、刺さっていた包丁をやつの顎を鞘がわりにして抜刀。やつの懐、硬い毛でも筋肉にもおおわれていない腹に包丁を押し当てて一気に掻っ捌いていく!


「うおおおおおおお!!!」


捌ききったと同時に後ろ足の間をくぐり抜け、短いシッポを掴んで背の上へ。そのまま駆け抜け、さっき潰したのとは反対の方向の目を包丁で突き刺したまま被弾することなく離脱・・しようとした矢先、


「うおっ!?」


深く刺しすぎてやつの頭蓋骨に包丁が挟まり、抜けなくなった。その一瞬をついたのか、それとも単に痛みに身悶えしたからなのかは知らないが、猪が暴れ、近くにあった1番でかい木に俺ごと激突。弾みで包丁は抜けたが、思いっきり木に打ち付けられて視界がぼやけ、手足に力が入らなくなる。


「がぁっ!??」


更に、前が見えずに暴れている猪の突進を避けきれずに掠り、もんどり打って地面に倒れる。


「クッソ・・がァ・・・!」


と、悪態をつき立ち上がろうとした時にいきなり猪がこちらを向いた。


「ハハッ、まさかな・・。」


1部の魔物は魔力感知に長けていたりすると聞いたことがあるが、ホントにいるとは思わなかった。


「BMOOOOOOOOOOOO!!!」


猪が両前足を上げておろし、後ろ足で地面を2、3回引っ掻いてこちらに頭を向ける。


「チッ・・クソっ・・・。」


まともに受けたら死ぬな、あれは。つーか腹かっ捌いたハズなのにちょっと血が滲んでるだけっぽいし。俺の頑張りどこ行ったよマジで。


「MOOOOOOOOO!!!!!!!」


まるで死神の吹くトロンボーンかのような雄叫びが猪から発せられたと同時に、奴の筋肉が膨張。木に寄りかかってうずくまる俺に向かって何度目かの突進が向かってくる。


「これは当たったら死ぬな・・・」


そうやって死を覚悟し、事情とかもろもろを説明しないまま死んでいくことを心の中でラミアさんや弟、妹達に謝りつつ目を閉じ・・ようとした瞬間。


『お兄ちゃん、あとは任せて。』


「え?は?」


急に脳内に声が響いたと同時に俺の意識が心の奥深くに引きずり込まれ、なにか別の意識が俺とすれ違って意識の表層に浮上していくのを感じた。


『ちょ、どういうことだよ!?』


と深層意識で叫んだ瞬間、目の前になにか映像のようなものが表示され、声がまた聞こえてきた。


「エイトお兄ちゃん、今まで私の体で生きていてくれてありがとうね。エイトお兄ちゃんの記憶とか諸々、全部見させて貰ったよ。」


『え?どゆこと?何がどうなってんの?え?』


「大丈夫。後でしっかり説明するから。」


そう謎の声が言ったと同時にスローになっていた世界が元の速度に戻り、1秒もしないうちに俺の体に突進がぶつかる。


『うあっ!!・・・って、痛くない?』


ビビって瞑った目を開いて、目の前に展開された映像を見ると、そこには片手で猪の体を停めている俺がいた。


『は?どっからそんな力・・って言うか俺今体動かしてないのになんでっ!?』


「その辺含めて全部後で説明するから。今は黙っててねお兄ちゃん。」


俺の口が動いてそう喋った。正直、もう訳が分からない。


『後で説明してくれるんだよな?』


「もちろん!」


『わかった。なら待ってるよ。』


聞きたいことはとりあえず放置して、今はこの戦いの決着を見ようじゃないか。


猪は少女を睨みつけ、懸命に足を動かして少女を押し込もうとする。しかし、少女自身は何事もないかのように平然としてそんな猪を片手で押さえつけ、不気味に笑う。


「布魔法ーーー操布そうふ


そう魔法が唱えられた瞬間、首に巻かれた赤いマフラーがまるで意志を持ってるかのように動き出し、近くに落ちていた包丁を拾い上げて少女に渡す。


渡された包丁を逆手に握った少女は一瞬動きを止めて間合いを測り、片手に込めていた力を抜いて猪を滑らせた。と同時に、赤いマフラーを操り、猪の鼻と耳を一時的に塞ぐ。


「この猪は魔力でじゃなくて匂いと音で位置を把握してるんだよね。」


『え?そうだったの?』


俺めっちゃマヌケやって。マジかよ。言われてみれば確かにこんな低位の魔物がそんな大層なもん持ってないだろうなあ。


「だから、耳と鼻さえ封じちゃえば・・・。」


1瞬で2つの感覚を簒奪された猪はわけも分からぬままに暴れ、偶然か分からないがちょうど少女のいる方へと突進していく。猪が限界まで近づいてきたのを見計らい、少女は思いっきり踏み込んで直上にジャンプすることで突進を回避。


瞬時に体を捻って重心を下に集中させ、包丁をかまえて落下の勢いを利用しつつ、猪の脳をこれ以上ないほど正確にその刃で持って貫いた。


直後、暴れ回っていた猪が急に停止して地面に倒れ伏す。


『うわぁ・・強ええ・・・。』


「フフっ、ありがとうお兄ちゃん。」


ていうか、あの怪力と言い魔法といい、俺は発動さえ出来ないのにこの子は何故?


つーかさっきから『お兄ちゃん』って言ってるよな。俺が男なのにも気づいてる?ってこと?さっき記憶見たとかいってたし。


いやぁ、マジで謎だなぁ。一体なんなんだよこいつは。


「じゃ、お兄ちゃん。そろそろ私戻らないとだから、また教会で洗いざらい説明するね。」


『わ、わかった!!』


そう言われて自分の体を取り戻した俺は真っ先に協会にいるラミアさんと神父、村の男数名を呼んで猪の魔物をみせ、村へと運んで貰った。


「ま、取り敢えず一件落着か。」


ちなみに、俺は全治1ヶ月で、肋骨が何本かイってるってさ。


それに右腕にかかった莫大な不可のせいで右腕も粉砕骨折してるっぽい。ここまで来ると回復魔法でも徐々に治してかないとダメらしい。ほんとに、疲れたなあ。いろいろと。


その後はラミアさんにたっぷりと怒られ、1週間教会の敷地から出てはならないと厳命を受けた。仕方が無いので違うことをするとしよう。怒られるの怠いからな。


その夜、みんなが寝静まった中で、俺と謎の声の主は深層意識で会合していた。


『で?説明はよ。』


『わかったよ。ということで改めて初めまして(?)でいいのかな?お兄ちゃんの妹のキトだよ!!』


・・・・・え?マジ?どゆこと?なんかとんでもねぇことになってるくね?


こうして、カオスが極まる夜は更ける。

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