30.銭湯騒動
あの後、追いついてきたギルパイセンがドレットパイセンに問答無用で殴りかかってきたため、ベルパイセンが取り押さえてその場は解散となった。
俺達3人はまだ任務とかが決まってないから引き続き王都散策をし、ギルパイセン達2人はこれから任務っつーことでベルパイセンの転移で消えていった。
「つーか改めて見るとめっちゃ便利そうだよな転移って。」
「ドレッドもそう思うよねー。しかもベル君のあれ転移魔法じゃなくて空間魔法だから荷物とかも手持ちする必要ないんだよねー、いいなー」
「あ、だからあの2人いっつも手ぶらなんすね」
「ギルはベルの師匠みたいなもんだからねー。」
へー、師匠・・・ってことは
「ギルパイセンも空間魔法なんすか?」
「いや?ギルベルトは調教魔法だぞ」
調教魔法?動物とかを手懐けて戦う魔法ってことか。なるほどそりゃ確かにベルパイセンとの相性は良さそうだな。
「でも調教って文字にして書くと、ちょっと卑猥だよねー」
「そういう余計なことは言わない方がいんじゃないっすかね?」
まあ、それを笑って聞いてる俺も大概だとは思うがな。
「てことで、着きましたー。」
「え?ここどこっすか?」
ルースパイセンの声を聞いて見上げてみれば旅館のような作りをしたでかい店がすぐ目の前に鎮座していた。
「銭湯さ。僕の行きつけのね。」
「俺も何回が来たことあるが、ガチでいい湯だぜ。ホントにおすすめだ。」
ドレットパイセンがそこまで言うとは・・・いささか興味の引かれる店だな。入ってみるか。
「ま、日本の温泉とかには負けんだろ・・・。」
「何か言ったー?」
「いやぁ、なんでもないっすよ。それじゃ御二方もゆっくり・・・」
「おう!お前ら2人も楽しんでこいよ・・・」
「「え?」」
「え?いやいやいや、なんで男のルースパイセンが女湯の方入るんすか?」
「意味わかんねえも何もルースは男でも女でもないぞ?」
「え?え?え??どっからどう見ても男じゃないっすか?どう見たらこの人がどちらでもないとかわか・・・!!?」
2人でルースパイセンの方を見ていると、おもむろにルースパイセンがニヤリと口角を釣りあげ、こめかみの辺りから立派な黒い角を生やしてきた。
「これでわかったかな?」
「ま、まさかルースパイセンの種族って・・・」
「そう、淫魔だよ。因みに淫魔っていうのはある一定の歳をとると自分の性別を男にするか女にするか決めなくちゃならないんだよねー。で、僕はそれがもうすぐなんだよ。兄の方はもう男にしてるから関係ないけどね」
「なるほど、それでどちらでもない・・・と。」
「まあ、どっちでもないだけで、姿はある程度似せられるよ。例えば・・・」
少し逡巡する素振りをみせた後、ルースパイセンの髪型が徐々に伸びていき、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるナイスバディな女性が目の前にたっていた。
「え?え?」
「これぞ、淫魔秘伝の術 形態変化だよ。」
「ま、かっこよく言ってるが実の所ただの感情の制御だ。淫魔の形態変化や成長変化っつーのはその時々の感情に左右されて・・・・」
ドレットパイセンの言葉を要約すると、心が女寄りなら形態も成長も女となるらしいこれは逆もまた然りであり、心が男よりなら男になるらしい。
「ま、せっかくの銭湯なんだ。ムズい話なんざ終わりにして、さっさと入ろうぜ。・・・それじゃ2人とも、楽しんでこいよー。」
そう言ってドレットパイセンはのれんの奥に消えて行った。
「じゃ、僕達も行くー?」
「そっすね、行きましょか。」
それで冒頭部分に戻る訳だが・・・。
「気持ちよすぎるだろぉぉ・・・。」
アアア・・・このなんとも言えない心地よい包まれているような感覚に、頭おかしくなるほど気持ちよく充満する香草。更には体の筋1本1本にしみ渡る・・・もう、
「最高かよぉぉぉ・・・。」
「ふふっ。気に入ってくれてよかったよー。僕としてもここの銭湯にはすごく助かってるからね。もはやここのシステムとか入る順番とかは熟知してると言ってもいいよ。いやホントに。」
ルースパイセンはせっかくだからと、さっきのスタイル抜群な姿で俺と隣合うように風呂に入っている。見た目だけなら完璧姉妹か親子だなこれ。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛サイコぉぉおおお・・・」
もう既に何度目かも分からないサウナと水風呂の行ったり来たりの途中、ふいに視線を感じて周囲を警戒する。見れば、ルースパイセンも同じようにそれとなく周囲に視線を凝らしていた。
「(なにかに・・・)」
「(うん、見られてるね。)」
どうやら予感は当たっていたようだ。
「(どうします?)」
「(撃退・・かなー。)」
「(了解っす。)」
一方その頃男湯では・・・
「おい、ドレット!!見てみろよ!ここ穴空いてやがるぜ!」
「何!?マジか??」
「見ろよほら、この隙間。運が良けりゃ女湯が見れるかもしれねえ!!」
「おっしゃ覗くぞぉぉぉぉ!!!」
男どもはいっせいに穴に群がっていき、女湯の方を見る。
「くっそ、暗くて見えねえ!」
「あ、でもちょっと見えるぞ!」
「なに!?俺に見せろ」
「いや俺・・」
「は?俺に決まって・・・」
「てめえらちょっとは黙ってやれや!バレたらどうすんだよ!!」
「あー・・・その心配はないっすね。」
「・・・は?」
穴の向こうから何者かの声が聞こえ、直後元の姿に戻ったルースが男湯のドアを勢いよく開けて穴に群がる男たちの写真を撮り・・言い放つ。
「キト君!後はよろしく!!」
「望むところっす!!」
バカァン!!と勢いよく蹴破られた壁の奥からバスタオル1枚を体に巻いて重要な所を隠した10歳程の少女がデッキブラシを持って現れた。
「さあさあさあさあ、変態共!!覗いたってことはぶちのめされる覚悟出来てんだろうなあ!!」
そう声を張り上げて啖呵をきった瞬間、目の前から少女の姿が消え、鈍い打撃音が連続して響いた。
瞬間、音が連続した数と同じ人数がその場に倒れ、残ったのは正真正銘ドレットのみになった。
「ち、違うんだキト!これは・・・!」
「すんませんね、あいにく今は聞く耳を持っていないんで。」
酷く冷めた声が聞こえたと思った瞬間、キトのバスタオルが倒れた男の体に引っかかって落ち、全裸になる。本人がそれに気づいていたのかは定かでは無いが、確かにそれはドレットがこの日に見た最後の光景となったのだった。
因みに翌日アリスとブラドにたっぷりと怒られたことをここに記しておく。




