ヒロインメイドとグラビアメイド
4月2日、私達には春休み中に大掃除を終わらせるНормаが課せられている、Нормаの日本語を調べたら日本語でもそのままノルマだった。
資本家に課せられたノルマなんて働くふりで誤魔化してノルマを達成したふりをしたいと思ったけど、普段からやるとバレた時に懲罰が酷いことになるから姦ったふりは性欲処理の仕事まで取っておこうと思った。
今日のノルマは書庫の大掃除だった。黒髪で眼鏡をかけたスイス人、セシル・ヴァリスが書庫の責任者で皆を指揮している。
朝早く古書を1階の書庫から出して3階の大広間の畳に並べて春の虫干しをする、夕方になったらまた戻すだけの簡単な仕事だと思った。
1階から3階まで本を運ぶだけなんだけど、本の重さを舐めていた、まるでシベリアで丸太運びをしているような重労働だった。しかも、古い本が多いので乱暴に扱うと美壽々とセシルが容赦なく怒る。
朝の5時から始めたけど、日が昇るまでに全部上げないといけないから忙しい。
物凄い量なんだけど、何年分なのか聞いたら500年以上あると言われてひっくり返りそうになった。
アニータは見るからに腕力がありそうだけど、セシルも意外と力持ちで重い本の山を抱えたまま軽々と階段を上っていく。
図書館や本屋って腕力が無いと務まらない仕事だったんだ。
ゼイ、ゼイ、ハァ、ハァ、何とか全員で往復して並べ終えた時は8時になっていた。並べるだけで3時間、夕方になったらまた3時間かけて全部戻すのかと思うとシベリアで自分で掘った穴を自分で埋める無意味な労働をさせられる話を思い出して辛くなった。
でも、朝から自分で掘った穴を午後になったら自分で埋める地獄の労働の話を聞いた時は酷いと思ったけど、何もすることが無い時期に休んでいると配給がもらえなくなるから、無意味でも労働をさせないといけなかった。
配給を貰うための働いているフリだってお父さんが言ってた、無意味に思える仕事をみんなに説明して納得させてやらせるのが政治指導員の役目だって。
私達のソビエトは無駄とわかっていても成果を上げたフリをしないと生きていけなかった。
でも、そのせいで破綻したのかもしれない…
今日は天気が良くて暖かい、ロシアじゃ5月1日になるとまだ水が冷たいから泳げなかったけど、水着姿で海岸に並んで日光浴をした。全身汗とホコリまみれになっている今の私も脱いで日光浴をしたかった。
美壽々が「日没まで休憩にしましょうと言った」
「お茶とケーキを持ってきます」
ダイアナと花子が一階へ降りて行った。
申し訳ないけど、私は足腰がガクガクいってしまい下まで降りられない。
今頃気づいたけど60歳は超えてそうな美壽々は平気そうだ。
私に向かって「若いのにだらしない」とぽつりと言った
畳100枚分の広さがある大広間に広げた古書は直射日光が当たらないように障子と呼ばれる木枠に紙を貼った扉が閉められている。
私は四階の広いベランダに大の字になって倒れた。
始める前に軽く食べたんだけど、肉体労働でお腹がすいてきた、早くケーキを持ってきて……
うぅぅ、脱ぎたい、こんなにお日様が気持ちいいのにメイド服なんか着ていたくないと思って周りを見回すと、黒髪をたなびかせたギリシャ彫刻のような美しい全裸の美女が横たわっていた。
思わず「あなた誰?」と言ってしまった。
物静かな声で「私をお忘れですか」と言われてやっとわかったセシルが全裸になっていた…
お茶を持って戻って来たダイアナがセシルを見て言った。
「もう脱いでいるのですか」
セシルも平然と答えた。
「私たちも虫干しです」
私がセシルの裸体に見とれていると背後から声をかけられた。
「イリーナ、貴女も脱いでいいですよ」
振り返ると、引き締まった体に白いレースのストッキング、Tバックの下着、白いレースのビスチェから豊満な胸を覗かせた体が目に入った、視線を上に移動させると、見慣れたシワのある顔、美壽々だった……
えぇぇっ、私は思わず叫んでしまった。
「美壽々は何歳ですか?」
いつもの調子で平然と答えてくれた。
「満年齢62歳です」
私は思わず声に出していた。
「この体で62歳、信じられない、首から下だけ30歳ぐらい若くない?」
美壽々は平然と答えた。
「いつ御屋形様からお声がかかっても良いように、備えております」
えっ、もしかして美壽々って現役の性奴隷だったの?
周りを見回すとみんな脱いでいる……
メイは体にタオルを巻いて「貴女たち痴女すぎるアル」と言った。
「砂漠の民が日光浴なんて自殺する気かと言われる」
ジャミラは室内に引っ込んでしまった。
私も脱いで下着姿になったけど、もしかして、私の体って貧相?
違う意味で恥ずかしくなってきた……
虎と熊も日光浴にきて一緒に寝ている、ターニャは下着姿で虎を枕にしてイビキをかきながら熟睡していた。
クリスチーネはクッションを並べてキャミソール姿で、自分の部屋から持ってきた漫画本を読んでいた。
「イリーナもコレ読んで」
私にも漫画を薦めてきた。
本の題名を見るとカタカナ2文字とひらがな3文字で一つの名詞になっている変な名前だった。
日本語の勉強はかなり頑張ってるつもりだったけど、カタカナとひらがなが一つの名詞の中に混在しているのは始めて見た。
クリスチーネは「この子がヒロイン」と言って漫画のページを指さした。
ヒロインにしては可愛いと言えない、太った小学生の女の子だった。
「私の名前は漫画のヒロインからもらったんだよ。名字は日本人のお婆ちゃんからもらったの」
クリスチーネは漫画のページをめくると太った団子っ鼻の少年を指さした。
「ママみたいに音痴なのに歌が大好きで、強くて、かっこいいお兄ちゃんがいるんだよ」
クリスチーネは楽しそうに漫画の話を始めた。
「このお話はね、タイムマシーンを使って過去の世界にロボットを送り込んで歴史を変えちゃうの。主人公の奥さんになるはずだったヒロインは一生懸命旦那様を支えたのに、美少女の女の子と取り替えられちゃうの」
クリスチーネは一巻目の最初の方をめくって話を続けた。
「ひどいよね、自分が貧乏だからって、ご先祖様の人生を変えちゃうんだよ」
「少女漫画家を目指していたヒロインは旦那様の出来が悪くて、苦労して貧乏でも一生懸命生きたのに、僕が貧乏なのはお前のせいだって、子孫の都合で無かったことにされちゃうんだよ」
クリスチーネはなんだか、悲しそうに話を続けた。
「私も都合が悪い人に最初からいなかった事にされちゃった子供だから、ママが命がけで守ってくれなかったら私はいなかったの」
「科学が進んだら、都合の悪いことは何でも消せる世界になるのかな?」
「ロボットにお願いするだけで気に入らないことが全部消えちゃう世界。きっと私は漫画のヒロインみたいに消されちゃう側だよ」
クリスチーネの笑顔は悲しさと嬉しさが混ざったような不思議な顔だった。
「未来の世界からロボットがやってきてママは殺されて私は消えちゃう。だから女の子が幸せになるお話を描くの。そしたら未来の人は私を消しに来ないと思うから」
私はクリスチーネの話をじっと聞いていた、この子はまだ13歳なのに私よりも辛い目にあっている。そして、クリスチーネが読んでいる漫画のヒロインはどうみても、取り換えられた可愛い子の気がするけど言えなかった。
ダイアナが裸にエプロンだけして、温かいミルクを使った英国流の紅茶を入れている。
花子がケーキを出してきた。
「疲れた時は甘い物を食べましょう」
クリスチーネも「ケーキ、ケーキ」と無邪気に13歳の子供らしい喜び方をしていた。
ダイアナは紅茶をいれながら、おちついた口調で話した。
「本当にこの家は無法地帯ですね、それなのに合法だから恐れ入ります」
ターニャは楽しそうに虎をいじっていた。
「きっと21世紀になったら合法昔話とかになってるよ。テレビで昔こんなことがありましたビックリみたいに放送してたりして」
みんなでケーキを食べながらお茶していると楽しくなってきた。
ジャミラは私を呼ぶと、信じられないことをした。
虎の卵をつかんで謎の言葉を言った。
「ほら、虎の金玉を握ると金運が付くよ」
私は日本語の意味が良く分からなかった。
「キンタマ? キンウン?」
私が悩んでいるとメイが説明してくれた。
「日本人は金玉とお金をかけているアル」
「そうなんですか……」
私は日本人独特の価値観に困った。
ターニャはが下品に変なことを言い出した。
「日本には金玉が巨大な狸の置物があるぞ」
「タヌキの金玉が巨大?」
私は下品な言葉に困った。ターニャは男好きだから平気なんだろうな。
私も虎の金玉をつかんでみた。
毛が柔らかくてもふもふしている。
最初は怖かったけど、なんか、すっかり慣れた気がする。
まったりと皆でお茶をしながら、そのままお昼ごはんになってサンドウィッチを食べ始めた。
今ここにいたらみんなの前で犯されるって解ってるのに、逆に早く犯されてみんなと同じになりたいと思い始めて、御屋形様がいないのが残念になってきた。
ダイアナはサンドウィッチの語源になったサンドウィッチ伯爵は四代目で今は十一代目のサンドウィッチ伯爵がいて、現代でも貴族院議員をやっている名門だとか雑学の話を始めた。
イギリスの冗談は世界一だと自慢するから、私もソビエトの滑稽な小話を披露した。
蝶子が本格的な高そうなカメラを持って来てみんなの写真を撮っていた。
ミリアムは水着を持ってきて着替えていた。
調子にのってポーズをとってるミリアムの乳がすごいことになってる。
セシルはこのまま芸術祭に出展できそうだった。
私もセシルに負けずに全裸になってポーズを取ろうとしたけど、奇麗にできないで困っていると美壽々が姿勢はこうで手の位置はこう、顎を引いて表情はこうしなさいと細かく指導してきた。
さすがベテラン性奴隷だけあって手慣れていた……
写真を撮ってもらっている時、全裸でカメラを構えている蝶子の足がひらいて股間に目がいった。
「ナニ、使い込んで黒いとか思った?」
蝶子は私が毛のない股間を注視しているのに気づいたみたいで、ドスの聞いた声で問い詰めてきた。
私はビビって「何でもありません」と答えると蝶子は「アンタだって男とヤリまくればこうなるからね」と脅してきた。蝶子って意外と性奴隷のお仕事してるんだ……
気持ちよくなって日が傾き始めたころ、起き上がって髪をアップにして眼鏡をかけるといつものセシルに戻った。
服を着るところを見て気が付いたんだけど、セシルってもしかして、普段から下着付けてないの?
私もメイド服を着て、再び三時間にも及ぶ過酷な肉体労働に精を出した。
すっかり暗くなって夕食は遅い時間になった。今日の食事当番は美壽々とセシルなんだけど、二人ともあれだけ過酷な肉体労働をしたのに少しも疲れた様子が無い。
私は替えがあるからいいやと思って誇りまみれになったメイド服を放り出して眠りについた。よく朝起きると、腕が痛い、足が痛い、腰が痛い、全身が筋肉痛に襲われた…
朝食の時に美壽々が手紙を持って来た、お父さんとお母さんとユーリーからだ。
ナルコンプロド・ブリュカノフじゃなかった蟹工船は処女航海と試験操業を終えて新潟の港に戻ってきていた、次はオホーツク海に出るって書いてある。
お母さんは新潟で上等な米が山ほどもらえたから、毎日お腹いっぱい食べてるって、日本の米料理のレシピがあったら教えて欲しいって書いてある。
私が喜んでいると、美壽々が教えてくれた。
「手紙の返事は漁協に送れば港に帰って来た時に渡されます。製品を受け取る連絡船が毎月出ますから、速ければ一ヶ月後には届くはずです」
「ありがとうございます」
最初は資本家の奴隷女かと思ったけど、美壽々って意外といい人なのかな。
もらった日本の紙幣のお給料、10枚だけ送ってみよう。
米料理のレシピを書き出さなきゃ。
蟹工船が処女喪失したのに私がまだ未使用なのが悪い気がしてきた、準備はできているし、早く犯されないかなとか変なことを考えてしまい、ユーリーに悪い気がして頭からふりはらった。
夕食が終わると蝶子が昨日撮影した写真を現像して持って来た。
プロのカメラマンみたいに奇麗に取れていた。
私の写真をもらうと、一緒に写っている人が誰ってなった。
冷静にみると、白いレースの下着は美壽々だ、でも顔が違う、まるで10代みたいに若返っている?
「どうして?」
蝶子はニヤニヤ笑いながら教えてくれた。
「CG、コンピューター・グラフィクスよ、Amiga3000て最新の映像処理ができるパソコンで修正したの」
私は驚異の西側のテクノロジーに打ちのめされた……
でも、ユーリーの蟹工船はソビエト最新最高のテクノロジーの結晶なんだって負け惜しみを言いたかったけど、言ったらドヤ顔でもっとすごい物が出てきて心を折られそうな気がしたので黙っていた。
季節は暖かくなり、もうすぐ学校生活が始まる。
私は少しだけ未来が明るくなった気がした。
私は自分の写真をユーリーへの手紙に入れた、きっと驚くだろうな。
トゥフター(туфта)とはロシア語で「でたらめ、ニセモノ」を意味する言葉でサボリだけではなく完成したふり、過大報告、水増請求などの意味もあります。
ソビエトではノルマを達成したフリをしたり、人数や成果を水増報告して配給を多く受け取ることが横行しました。
皆でやりすぎた結果としてソビエト経済は破綻しました。