SP01-1【特別編 】十桜と水浴びの乙女たち(プープー星人)
おひさしぶりです。
体調不良でダンジョンがある日常を休んでいたため、メンタル的に急に本編に戻ることができないので、気楽に書ける話を作りました。
ですので、今回は特別編を更新します。
本編物語上はまだ四月なのですが、この話はそれより先の八月になっています。
夏のリアルタイムだからこそのエピソードを書きたいと思ったため少し先の話になりました。
しばらく本編をお待たせてしまって申し訳ないのですが、少しの間特別編にお付き合いください。
SP01-1【特別編】十桜と水浴びの乙女たち(プープー星人)
「あちい……」
十桜は八月の森進一のような声でつぶやいた。
テーブルのアイスミルクティーは氷がなくなっていた。
パソコンにメッセージの着信音。
それはスルーする。
今日は日曜日。
ダンジョン探索は休みにしている。
もう、戦隊とライダーとプリキュアは観た。
三日月家長男は居間のテレビを占領してゲームをしていた。
「アンタモドッカ涼ミニ行キナヨォォ」
母は扇風機をボイスチェンジャーにつかっていた。
首元をタオルでぬぐい、小顔ローラーを回す母は、
喫茶店にいってナポリタンとホットサンドを食いそうな顔をしている。
実際、そうするのだろう。
母は喫茶店用のカッコウをしている。
「お母さんは武田さんと上杉さんとローマいってくるからね」
シャンゼリゼ通りみたいな帽子をかぶり、母はそういった。
おフランスな母が武将とともに喫茶ローマにいく。
ややこしい。
しかし、武田と上杉が膝付き合わせて茶ァしばく時代になったのだなあと十桜はにこやかになった。
もちろん、母の友人たちと戦国武将との血縁などはないのだろうが、
十桜の握るコントローラーが操る謙信公は、
スタンド攻撃で甲斐の虎をぶっ飛ばしていたのだ。
(うちは、上杉方のナニカだったらしいかんな……)
三日月家は、上杉謙信さんところのなにか、多分、農民か下級武士かなんかだったらしい。
じいちゃんが言ってた。
だからか、なんとなく上杉謙信をプレイしていた。
本当は「すみません、すみません」が口癖で
刀や槍に対して足技主体で無双する
特別衣装の温泉バスタオルを巻いた井伊直虎ちゃんを使いたかった。
だが、さすがの十桜も母の手前、
戦場を半裸で駆け巡る婦女子の操作はできなかった。
謙信公が勝ち名乗りを上げる。
ちり~んと風鈴が鳴った。
蒸された身が心地良い。
手元のポーズを押して目を閉じる。
ちりりんとした音が体をめぐる。
さわやかだ。
が、
「ちょっとォ! あんたいつまでピコピコしてるのッ!」
――ズッ
怒声と不穏な音が居間に響いた。
ムービー画面がブラックアウトする。
なんと、母は十桜に暴言を吐くと、
テレビのコンセントを引っこ抜いてしまったのだッ!!
「あんた停電になったら冷凍庫の中全滅すんのよ!!」
その母の言葉に返す言葉はなかった。
冷凍庫のアイスが溶けたら困るのは十桜なのだ。
それに、ゲーム機の電源を抜かれなかっただけマシだった。
いま、都心は節電を促されまくっている状況なのだ。
特に昼から夕方にかけての数時間は集中して電気を使わない方向になっていた。
そうしないといつ停電になるかわからないということだった。
なので、午後の猛暑タイムがおとずれてもクーラーをつけることができない。
だからか、父は奥多摩でソロキャンプをしている。
(奥多摩ダンジョンっていいんだよなあ……)
そこの地下一階は、
自然がそのままダンジョンになったような場所なのだ。
(妖怪と楽器で戦う鬼がでそうだよな……)
じいさんばあさんチームは北条(じいさんの友人)と
柴又の帝釈天で参拝してから巣鴨のスーパー銭湯。
(柴又ダンジョンからの巣鴨だから池袋ダンジョンのはしごかあ!)
(葛飾柴又の冒険者は平均年齢高いけど、最近は二十代にも人気らしい……)
(ブクロは埼玉県民冒険者御用達のダンジョンだよなあ)
などと、十桜は自動的に地名をダンジョンに変換してしまう。
だが、もちろん家族がレジャーついでにダンジョン探索するわけではない。
それはそれとして、助手たちは等々力渓谷に滝行をしにいっていた。
(あ~! 等々力かああ! やっぱ夏はいいよな~!)
等々力ダンジョンは水郷と呼ばれていて、水と緑の迷宮として人気だった。
(……ていうか、ねこもどきが滝行ってなんだよ……)
(みずたまくんが滝に打たれちゃったら……)
それは置いといて、十桜は午後からどうすればいいのか?
そらは出かける準備をしているようで、
莉菜は夏休みを取っていてそらの部屋にいる。
昨日、十桜はそらに、明日いそがしいかどうかを聞かれた。
お兄ちゃんは明日はゲームでいそがしい。と答えた。
だから、今日は女子二人でどこかに行くのだろう。
(ダンジョンは昨日いったしな~……)
昨日も節電の日だった。
なので、三軒となりの北斎ダンジョンで適当に涼んだ。
土曜日なので休日出勤となった。
基本、ダンジョン内は夏でもひんやりしているのだ。
しかし、今日も潜れば七日連続ダンジョン出勤になってしまう。
探索自体は別に苦ではないのだが、単純に家から出たくないのだ。
十桜はため息ひとつつき、PS4(プレイソリューション4)の電源を落とした。
すると、
「えい……!」
迷宮最深部の、秘密の森に咲く小さな花のような声の、
八月バージョンが短く耳に響いた。
妹が二階から降りてきて、十桜の目の前が網網になった。
「あんた、小学三年生の夏休みみたいなカッコウしてどうしたのっ!?」
母のいうとおり、
妹のそらは麦わら帽子に薄青のノースリーブワンピースの出で立ちで、
肩から虫かごのヒモをたすき掛けしている。
握った虫あみは兄である十桜の顔をポスっと捕らえていた。
子供が虫あみ持ったらいたずらでやるあれである。
しかし、母がいうように、
小学三年生の夏休みみたいなカッコウの妹は今年19歳になる。
カッコウは少女だが、その胸は……
(すげえ……)
(おまえ……乙女がいつもいつもパイスラしてんじゃねーよ……)
パイスラ=おっぱいスラッシュ……
チープな虫かごのストラップがワンピース越しのボディに食い込み、
盛り上がった胸部を斜めに割っている。
わかるだろうか?
はじまりはブルガリアヨーグルトだ。
妹の胸には、平常時は食べきりタイプの背の低いブルガリアヨーグルトの巨大版がついている。
だが、その形はいまは、二つ連結したプチダノンの巨大版になっているのだ。
(……でもよ~、妹のパイスラなんてなんでもねーよ~)
(お兄ちゃんは見慣れてっしよ~)
(俺全然なんも思わねーしな~……)
十桜は顔にかかった網を半分上げて目に念を集中した。
いわゆる“凝”だ。
(……これは……すごっ……)
“凝”というか、凝視というものだけど。
ジリジリと人生の妙が脳裏に焼き付いていく。
すると、
「えい……」
今度は、鐘が鳴り響く、青空市場のような声の、
先輩、ごめんなさい……でも、莉菜もこういうことしてみたくて……
バージョンの声が短く耳に響いた。
頭にあみがもう一つかぶさってきて、十桜は虫あみ二重顔になったのだ。
おかげで“凝”が中断されてしまった……
「あら! 莉菜ちゃんもおそろいなのぉ!? かわいいわ~!」
母がひたいの汗をぬぐいながらさわぐ。
十桜を捕獲したもうひとりの無邪気は莉菜だった。
二重あみから覗くことのできる彼女も麦わらに色違いのワンピース。
いつものようにひまわりのような笑顔はないが、
低身長ボインの身にまとう黄色はまぶしく、
やはり、虫かご紐が食い込んで生まれる連結プチダノンもまたきらめいていた。
(全然……! アイドルだし、後輩だしさ~)
十桜は身近な女子に見惚れるのは負けな気がしていた。
(別にぜんッぜんなんとも思わんしよ~……!!)
見惚れたら負けなのに、二重虫あみを半分上げて再度“凝”を使う。
理由は、男の子だからかな?
「莉菜ちゃんもお兄ちゃん捕まえられたねえ」
「うん……先輩……これは、その……」
(チッ……“凝”が安定しない……“錬”からやり直さなきゃ……)
妹と後輩がなにか話しているが、十桜は念能力の修行で忙しかった。
しかし、後輩は自身の胸元を凝視する先輩に話かけ続けてきた。
「……プー……プっ……プー……」
だがプープーいってるだけだった。
「莉菜ちゃん、それじゃあプープー星人みたいだよ」
「プープー?」
「うん、プープー星人。それは置いときまして、お兄ちゃんプールいこうよ」
「え? ……ああ、なんだ……?」
(……ん……いまプールっつったか……?)
プールなんて大好きだが、いま、十桜は外出が大嫌いだった。
そして、後輩のかわいらしいワンピースの一部分に目が釘付けになっていた。
「プールだよぉ……」
そらが網をゆらす。胸部もゆれる。視線もそっちに揺れてゆく。
(プールかあ……いや……でも……)
男のあたまのなかは、溜池と四つの富士山でごっちゃになっていた。
読了ありがとうございます。
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さて次回!プールにいくのか!?いかないのか!?
なんにしてもタイトルに水浴びってはいってるからいつかは水を浴びます!!
次回は明日の昼頃に投稿します。忘れたら夕方頃に。




