表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/60

0050 戦闘終了させるまでの60分(加速する無限分身編)

もっと戦います!


 牙ネズミがキメラを喰っている。


 あたまがボーっとする。

 ステータスに『軽度放心』が付いていた。

 それでも、青白い眼にはソイツらの情報が視えていた。

 

【 牙ネズミ(亜種) 】

 Lv 20~30

 HP 35~70 MP 1~5 AP 35~55


 攻撃力 :28~56   防御力 :19~31

 ・

 ・

 ・

『食欲旺盛』 

『繁殖力が高い』



 ソイツは、仲間のはずのモンスターを襲っていた。

 それは、パーティー《ロウゼキ》の三人に対しても同じだった。


「イテェッうわあああァァァ――ッ!!」

「……っざッけんなァ!! オイ! 待て! イサジッコレとめろッ!!」

「イサジとめろッ!! オイッイサジィ! コレとめろッてェ!!」


 室内に悲鳴が響く。

 僧侶は自分を回復しながら部屋の外へ走っていった。

 魔術士も自分のローブを燃やしながらそれに続く。

 ネズミを召喚した騎士はどんな命令を下したのか。

 召喚主の騎士だけはネズミに襲われずあたふたしている。


(そうかッ命令だ……!!)


 十桜は、ハッとなった。

 ボーっとしたまま露払いをしていた身体を騎士に向けた。


 そのとき、


「グゴオオオオ――ッ グルウウゥオオォォォ……!!」


 キメラの大きな体躯が隣のベッドに倒れ込んだ。

 壁を蹴りながらジタバタし、再び口を大きく開けた。

 火球が飛ぶ。


「ウワッ!!」


 それは天井にぶつかり跳ね返り、

 騎士の上に落ちてきた。


《――跳躍》


 弾丸になって騎士を吹き飛ばす。

 彼はソファーに吹き飛び、

 十桜は一回転して背中から壁に激突。

 火球は床を燃やし、ベッドにも火を付けた。


(イデェ……)


 またかよッ!! と心の中で愚痴りつつ、

 手をついて床への落下を回避。

 起き上がり、

 ちょうどソファーにドッシリと腰をうずめる騎士の手を取る。 

 召喚札をそいつに握らせる。


 刹那、


 その手に痛みが走る。

 牙ネズミに手の甲を噛まれたのだ。

 かと思えば、

 次の瞬間、

 札を奪われた。

 別のネズミに。

 緩んだ握力の隙を突かれたのだ。

 

 その札を奪ったヤツは、壁を伝って窓の外に逃げた。

 ソイツは、頭から背中にかけて赤毛のモヒカンのようになっていた。

 一部のネズミたちも赤毛に続いて窓から出ていく。

 ソレを追うと、窓の下でキメラと機動隊員が戦っていた。

 さっき部屋から出ていった魔術士が札から召喚した一体だ。

 おそらく、窓から逃走しようとして揺動のために放ったのだろう。


 赤毛の姿は視えない。

 吹き抜けのロビーは黒いドットがどんどん増えていた。

 

(クソッ……ヤバイな……)


 なにからしたらいいのか、

 一瞬あたまが白くなる。

 そのあたまに、喜多嶋の声が響いた。


《 綺羅々さん、皆さん、

 ランク(フォー)以下の攻撃魔法の使用許可が下りました 》

《 よかった~、ていうかぁ~もうつかってたりしてぇ~ 》

 綺羅々さまはマイペースだ。

《 三日月さん、逃走をはかったロウゼキの二人は確保しました。

 私たちの三人と地龍は403号室に踏み込みます 》

《 了解です 》


 十桜の背中では、機動隊員たちと喜多嶋が近づいてきていた。

 

「確保ッ!」


 部屋に残ったロウゼキの二人は機動隊の騎士たちに抑えられ、

 魔道士系は消火活動。

 喜多嶋は電撃魔法でキメラにトドメを刺し、

 その流れで魔法円から生まれる塊を凍死させていった。

 それに機動隊員たちも続く。

 喜多嶋探偵事務所の《高位僧侶》は十桜を回復。

 ステータス異常『軽度放心』は消えた。

 噛まれた手の傷も治った。


「……よかった……これで元気ですね」


 彼女は、十桜の額に手を当てがいほほ笑む。

 いいにおいがする。

 その彼女は、喜多嶋と合流したときに紹介してもらった事務所員の一人だ。


「三日月さん、回復が必要になったらいつでも言ってくださいね」

「……は……い……」


 十桜は“放心”が治ったのにぼーっとしてしまった。

 彼女のしっとりとした声と胸元の大いなる母性に痺れたのだ。

 それに、なんだかわからない懐かしささえある。


「……ありがとう、ございます……碧海あおみさん……」

「いいえ、がんばって事件を解決しましょうね」


 そういってまたほほ笑む彼女に、

 さっき名刺をもらった。


『最近こっちに引っ越してきて、

 きのうはじめてつくってみたんですけど、

 最初の名刺、もらっていただけませんか?』


 ファースト名刺だった。

 そのときもぼーっとした。


 彼女の名前は碧海あおみ 紗結子さゆこさんといった。

 そこには名前以外に、得意料理 オムライスと記されていた。

 かわいい。

 十桜の大好物だ。

 しかも、名刺までいいにおいがしていた……


 この前の四人組女冒険者の僧侶といい……

 女性の僧侶というのは……


 十桜は自分の頬を両手でビンタした。

 のぼせている場合じゃない。


「喜多嶋さん、ぼくは廊下に出ます」

「わかりました。お気をつけて」


 ここは彼らに任せて、

 十桜はひとまず自分の即席パーティーの元に戻った。

 

 廊下の煙幕はやわらいでいた。

 綺羅々さまが風の魔法で煙を除去し続けていたのだ。

 魔法使用中の彼女を大群の牙から守るのは、

 結界のように動くローブだった。

 

 視界良好になった廊下の先では、

 冒険者・機動隊と6キメラの戦闘が続いていた。

 そこに、牙ネズミ亜種の大群が押し寄せて乱戦となっていた。

 キメラは甚五と機動隊の騎士系二人の挟み撃ちになっている。

 だが、ヤツは互角以上の戦いをしているように見える。


「オラーッ!! 自分ッ! どんだけ体力あんねん!?」 

「ハァッ!! ハァッ!!」

「ハイッハィッ、ハイッヤッ!!」


 甚五は自身を自動回復しながらキメラと殴り合い、

 玉井とタンクトップのひとは甚五をカバーしてネズミを潰していた。

 タンクトップのひとはもうガスマスクをつけていない。

 彼は、若いおじさんといった顔だちだった。

 38歳に見える32歳くらいだろうか。

 汗を飛ばし、巧みなヌンチャク捌きで大群を薙いでいた。


 十桜がまずやることは、

 煙を出し続けるチートアイテムを排除すること。

 それは、その煙に阻まれて肉眼では見えない。

 煙幕に突入した玉井には視えているのかもしれない。

 だが、ソレを破壊しにいく余裕がないのだろう。


 十桜は飛んでくるネズミを切り裂き、

 リュックのなかの小さな巾着を出した。

 そこから取り出したものは、

 青く透きとおる大きなビー玉。

 それは、そういう外観をしている。


 この青いたまは、

 おとといの無限分裂増殖スライムからドロップしたアイテムだ。

 名前は《無限分身》。

 その名の通りの“スキル”を覚え、使用することのできる代物。

 しかし、“スキル”の使用回数は一回。一度きりだ。

 アイテム自体も一度だけ使用可能な消費アイテム。


 十桜は、ついさっきまでこのアイテムを一生つかわないと思っていた。

 ゲームから生まれた言葉、

 エリクサー症候群のようなものかもしれない。

 

 だが、いまがつかうときだ。


 更に襲いくる牙を蹴散らし、

 珠を握りしめ、《息吹アルモニー》をその手に込める。

 

 ――ドクンッ


 心臓が鳴った。

 体は熱を帯びる。


「三日月さん……え……?」 


 青石は、ロープを操りながらこっちに気がつき目をまるくした。


「十桜……? え……? なんで……二人いるのぉ……?」


 綺羅々さまも、手を向こうにかざしながらこっちを向いた。

 

「手をねぇ、こうしてあげてるだけで疲れるんだけどぉ……

 あたしぃ疲れてるのかしらぁ……あ、三人になったぁ……

 あたし、乱視かしらぁ……菫ちゃん、薬草で回復してぇ……」

「はい……」


 十桜の体はにわかに青く輝いていた。

 莉菜の《うさぎさんのじゅつ》のときよりも、

 すこしだけ水色がかっているだろうか。

 その状態で立つ十桜の隣に、同じ顔の十桜がいた。

 その反対の隣にも同じ顔の十桜がいた。

 いま、前にも増えた。

 と言ってる間に後ろにも「にゅおっ」と増えた。

 その様は、

 ボディシャンプーのモコモコの泡を引っ張るとそうなるように、

 体が分裂して二人、三人になったかのように見えただろう。


 十本のナイフはそれぞれに動き、

 四方八方から迫りくる牙ネズミ亜種の大群を切り裂いていた。

 そして、

 本体の周囲に十字に増えた十桜たちは、皆、一点を視ていた。

 青白い眼に映る、オーガのようなライオンヘッドを。

 実際、ソイツはライオンの頭に二本の角を生やしていた。

 

「――加速装置アクセラレータ


 中央に立つ十桜がつぶやいた。

 すると、


「――加速装置アクセラレータ……」 


「――加速装置アクセラレータ……」


「――加速装置アクセラレータ……」


「――加速装置アクセラレータ……」


 一人一人が異口同音、同じ音声でしゃべった。   

 その次の瞬間には、

 分身四人は駆けていた。

 

 味方のアタッカーたちを躱しつつ、

 ナイフを構えてキメラに突撃。

 一体、二体と分身は殴られて消える。

 三体目はソイツの腕にナイフをヒットさせる。

 

 ――キンッ


 弾かれる音が響く。

 この十桜の分身は、

 ただの幻影ではなく質量の在る分身だったのだ。

 HP・防御力は低いが、本体に近い攻撃力があった。

 

 しかし、

 そのときには攻撃を当てた三体目もぶち飛ばされて消えていた。


 だが、風は吹き抜けていた。


 戦闘をすり抜けた四体目の分身がチートアイテムに届く。


 その背中をミサイルのような金棒が貫通した。


 手を伸ばした四体目は、背中の穴が広がるように消えてゆく。

 分身は霞んでなくなり、そこを風が吹き抜けた。

 五体目、六体目が駆けていたのだ。


 いや、


 十桜は七十七体に増えていた。



 0050 戦闘終了させるまでの60分(加速する無限分身編)

読了ありがとうございます。


気に入っていただけたら、高評価・ブックマーク・いいねを押していただけると、作者の励みになります!!


増えすぎ!!


次回!どうなる!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 無限分身つかいきりアイテム……ああ、CGにかかるコストが高すぎるから一度しか使えない設定と!(特撮並感) 某仮面ライダーのガタキリバコンボとかは理論上最強過ぎますしなぁ、数の暴力
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ