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0003 半殺しになろう計画

きれいなダンジョンを目指します。




(24.3.9.土.更新)

(24.3.12.火.更新)


 休憩してから体感で30分くらいが経った。

 気持ち悪さはだいぶ薄れてきた。 


 センター分け剣士率いるパーティーは、救援が来て無事脱出していった。


 青白い眼に映る地下一階マップは、

 全体の四割近くが描かれていただろうか。

 地下一階の面積は、10平方km程のとされている。

 これは、浅草のある東京都台東区の10.11平方kmという

 区の面積に匹敵するものだ。

 台東区の面積は東京23区で一番狭いとはいえ、

 ワンフロアだけでこの規模の迷宮が地下八階以上あるというのだから、

 踏破するだけでも困難だろう。

 

 今現在出来ているマップを俯瞰すると、

 巨大な迷路のなかを、冒険者とモンスターが行き来し、

 至るところで戦闘をしている様子が視えた。


“溜まり”のフロアにあった三つの通路。

 そこから伸びる各所には特徴があった。


 入り口から向かって左側の通路は冒険者の行き来が多い。


 こちらは、条件を満たすことで地下二階に降りられる階段があり、

 やはり、条件を満たすと

 使用可能になる『エレベーター』と呼ばれる転送装置もあった。


 おまけに、隠し部屋の出現率が高いとされているエリアに続く道でもあるのだ。

 つまり、大人気でドメジャーな通路ということになる。


 真ん中はレベル1~5辺りの初心者推奨のコース。


 ここは、強いモンスターやグループモンスターの出現率が低い。

 なので、はじまりの冒険者にはうってつけだ。

 まばらだが、初々しい冒険者たちがおずおずと入っていく姿が確認できる。


 そして、いま十桜のいる右側はレベル6~10辺りの冒険者推奨。


 地下一階攻略を目指す冒険者の狩場には良さそうだった。

 しかし、皆、隠し部屋目当てに

 左側通路にいってしまうためなのかこっちは不人気らしい。  

 十桜がここに来てから、

 自分とセンター分け剣士たち以外に右にいくパーティーは二組しかいなかった。


 そして、この先、 

 十桜のいく通路の先にはパーティーが三組歩いていて、

 グループモンスターもうごめいていた。


 そのとき、


「え……!?」


 不意に声が漏れた。

 更新されるマップのなかに、異様な存在が視えたのだ。


 一言でいえば【ドス黒い】気配。


 目眩から来るものとはあきらかに違う気持ち悪さがソレにはあった。

 ソレの周囲数メートルは黒く霞んでいてダンジョンの壁以外何も視えない。


(なんだこりゃ……!?)


 ドン引きした。


 引いたのだが、このままの通路を進むことにする。

 ソイツは、まだまだ遠くにいるし、近づかなければいいだけなのだ。


 ひと気の少ないエリアではないと、

『半殺しになろう計画』が成されない。

 なので、溜まりに戻ってはいられない。


 意思疎通のない通りがかりの誰かに、

 ピンチを救われでもしたら初めからやり直しである。

 事前にパーティーを組んだ場合は、

「俺に回復は不要」と伝えるつもりだった。


 そんな『半殺しになろう計画』の詳細はこんな感じだ。


 00 ダンジョンに潜る。

 01 適当なレベルのモンスターを一匹見つける。

 02 周囲にモンスターや人影がないことを確認の上エンカウント。

 03 相手に少しづつダメージを与えながら、自分もダメージを食らう。

 04 自分のHPが二~三割程度に減ったら、同じくフラフラの相手を倒し切る。

 05 そのとき、なるべく血だらけで、悲惨な姿になっていたらベスト。

 06 あとは、無事おうちに帰ること。うちに帰るまでが計画です。

 07 仕上げは、強引に冒険者を薦める母に、ダンジョンで大怪我をした息子の姿を見せる。


そして、


ラスト「おお じゅうろうよ おおけがをするとは なにごとだ」

   「しかたない とうぶん うちで ゆっくりしなさい ははより」


 そういう『計画』だった。




 0003 半殺しになろう計画




 この“青白い眼”があれば、ソレらのことができるはずだ。

 モンスターの位置がわかるから、

 行きも帰りもエンカウントを自分でコントロールできる。

 なので、HP1でも生還はできる。


 なのだが、


「ハァ~……」


 大きなため息がもれる。


(……なーにやってんだろ、おれ……)


 こんなおかしな計画を立てて実行することが、

 バカなことをしているという自覚もあった。


 これは、自身の『ダンジョン適応値』の高さ故の行動だと十桜は考えている。


 ダンジョンに慣れると『ダンジョン適応値』が上がる。

 十桜のように、レベル1でも『適応値』バカ高な人間もいる。

 しかし、それはマレなことで、

 基本は皆“慣れ”ていくことで、ダンジョンに関する行動の幅が広がるのだ。


 ちなみに、ダンジョン適応値が上がるとこんな特典がついてくる。


 モンスターへの恐怖心が薄くなる。

 ダメージを受けてもあまり痛くない。

 半殺しになろう計画を思いつく。


 他にも様々な要素があり、

 恩恵の受け方には個人差がかなりあるらしい。


 そして、


 さらにダンジョンに“適応”すると、


 なんと、ダンジョン内に住み着ついて

 暮らしはじめる冒険者が出てくるのだ。

 ここのような低層階ではなく、もっと深い階層での話だが。


 そのため、適応値の高い冒険者にとっては、

 地上で会社員やアルバイトをするよりも、

 ダンジョンでモンスターと戦うという

 危険な仕事についている方が楽だという者も多い。


 このようにダンジョン適応値が高いと、

 良くも悪くも十桜のような“変人”になるのだ。


 もちろん、個人差はあるが……


「ふ~~~……」

 

 十桜は立ち上がった。

 そして、壁伝いに歩きだした。

 アニメ『喰いしんぼ』とハイパーカップ極バニラのために歩いた。


 怪物が跋扈する薄闇を、病人同然の体調で不格好に進んだ。

 複数いる魔物の気配を避けながら分かれ道を選ぶ。

 単体でも、スライムみたいなやわらかなものは避ける。

 爪や牙や剣を持つものがいい。派手に怪我ができるからだ。

 でも小型じゃダメだ。傷が小さくなる。

 人の体躯に近いものがいい。

 そういうヤツラは入口付近にはなかなか現れないので、

 自然と奥へ奥へと進むことになる。


(……犬六匹とか、レア中のレアなんだろうな……

 というか、戦斧のヤツは……)


 数十分歩いて、入り口から直線で三百メートルくらい進んだ。

 ここらのエリアは行き止まりも多いが、

 田んぼの田の字ようなループできる通路も多いので、

 魔物を避けるのは容易だった。

 しかし、なかなか理想の形に出逢えないまま、一時間以上が過ぎた。


(俺はなにしてんだろうなあ……)


 いつも通りなら、

 今頃は、昼飯前なのにアイスを食いながら

 マンガ『ガァガァの不気味な探検』を読み返していたかもしれない。

 足が重い。

 目眩によるムカツキと焦燥感。

 そんな状況でも、薄闇を前に進むというのは、

 マンガの主人公的ではないか?

 ロマンホラー的ではないか?

 アニメ『喰いしんぼ』禁鳥回の夜魔岡的ではないか?


 壁に反射する眼の光を見て、自分を主人公みたいだと奮い立たせる。


 そして、主題歌だ。

 ここらで、遅れてきた主題歌が挿入歌として流れるのだ。 


(……)

(…………)

(思いつかない……)


 今は、出来合いのものに甘んじよう。

 例えば、今はありとあらゆるものを失ってしまったけど、

 そのありとあらゆるものにキスしてちいさくさよならを言うんだ。

 また戻ってくる時まで。

 そういう歌だ。  


(あ、これエンディングだった……まぁ、いっか……)


 主題歌みたいなエンディング曲が頭のなかで流れ、

『気分』がよくなり『テンション』が上がってゆくなか、

 やがて、床から生える一つの影にいきついた。


「グルルルルルルゥ――」

「ふぅ~……やっと逢えたな」


 薄闇に二つ、赤くギンと光り、交差する瞳は、より青白く輝いた。

 唸りながらこちらをうかがうソイツは、犬のモンスターだ。

 ギルドには【魔犬】という名で登録されている。

 さっき、なんとかロードというパーティーが戦っていたヤツだ。

 姿は、核戦争後に生き残ったドーベルマン、といった感じだろうか。

 頭の中にも、記憶ではなく、スキルによる『情報』として、

 名前や身体能力などのステータスが徐々に浮き彫りになっていた。


『炎に特に弱い』

『雷に弱い』

『毒に弱い』

 ・ 

『お肉大好き』

『屍肉も好き』

『のんびりしたい』


 などと提示されても、魔法なんて贅沢品はないし、

 自身の肉体もあげたくない。


(のんびりしたい……!?)


 そこは妙に共感できた。

 しかし、相手はモンスターだ。

 凶暴な爪と牙を持っていて、

 一対一という『計画』遂行の条件にピッタリのヤツなのだ。


 戦ってもらう。


(いや……)

(どうだろ……)

(こいつは、いいか……)


 などと考えていると、魔犬はこちらに向かって駆けてきた。


読了ありがとうございます。


是、我が痛みですね!


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