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0016 無課金で金色に輝いた春

ゴールデンです。




戦闘シーンを800文字強増加しました。

(24.3.6.水更新)


 それから二人は、スライム五匹、

 魔犬三匹、吸血バット三匹を狩った。


 そして、また新たなモンスターが三匹現れる。


「ハァッ!」


 莉菜は叫ぶ。

 黄色くトゥインクルな蹴り。

 刺さった大ネズミは壁に。

 して床に落ちた。

 ソイツは、恐竜時代にいそうなげっ歯類【牙ネズミ】だ。


「おお~ッ!」

 

 十桜は歓声をあげた。


 蹴りで入ったダメージは6ポイント。

 壁衝突の追加ダメージで3ポイント。

 合わせて9ダメージ食らった魔物は絶命した。

 青白く光る眼にはそれが視える。


「先輩ッ! もう一匹はッ!?」

 

 莉菜は焦った様子でこっちを向くと、

 さらに周囲を見回した。


 通路にたたずむ十桜と莉菜。

 二人の前には魔物の骸一つと、小さな砂山が一つしかない。


 しかし、十桜にはソイツが視えていた。


 ・

 ・

 ・

『隠密』

『大胆』

『一撃』

 ・

 ・

 ・


「どこッ!? ……アッ……!!」


 莉菜が振り向いたときには、

 彼女の眼前にスコップの刃が突き出されていた。そこに、


 ガンッ


 特大ネズミが顔から突っ込み、強烈な音を立てて床に落ちた。

 魔物は、刃の平べったい部分に衝突して息絶えたのだ。


 ソイツのHPは満タンで、

 スコップに衝突した程度で絶命するのは違和感があった。

 だが、躯を視詰める青白い眼には『ショック死』の表示が視えていた。


 この個体は、他の二匹を陽動に使い、

 ヒカリゴケの薄い壁や天井を這って攻撃対象である莉菜に近づいたのだ。

 こういう個体が生き延びて成長すると

“特殊個体”のようになるのかもしれない。


「すごぉぃ……先輩は未来人ですね!」

「ゆっくりに視えてるだけなんだけどね」

「あたしも修行して目を光らせたいです!」

「そしたら、二人でカッコよくなれるな!」

「はい!」


 二人であははと笑った。


『毎秒青春乙でやんす……zzz』


 ぷかぷかと宙にうかぶねこ顔助手は、

 みずたまくんを枕にしてふて寝していた。


「……あっ! レベル上がりました……」


 莉菜がつぶやいた。

 めでたい二回目のレベル上昇なのに、彼女の声はしぼんでいった。

 おそらく、十桜を気遣ってのことだろう。


 莉菜はレベルが3になった。

 十桜はレベル1のまま。


 莉菜は多分、平均よりも成長が早い。

 反対に、十桜の成長速度はその真逆どころではない。


 しかし、十桜にはみんな大好きスキルツリーがあった。

 すごろくのような宝の地図を進むねこ冒険者は、

 通路を行き、はてなマークにとまった。

 そのマスには“素早さの宝珠”が隠されていた。

 サイコロを振ると、『5』が出たので、


「よっしゃあァァ!!」

 

 と吠えて、莉菜をビクッとさせた。

 そのことを莉菜に、


「せんぱい! りなにも教えてください……!」 


 かわいく怒られたので、

 今度からは宝の地図の様子を中継することにした。


「次はさ、道が分技しててさ……」


 その分かれ道の先の“はてなマーク”は、

 なんと、青白い眼で集中すると、視透すことができた。

 これで、自分の好きな感じのパワーアップができる。

 十桜は、二つに別れている通路の先を見つめた。


 真っ直ぐ進むと、


 金の宝珠《運アップ+30》

   ・

 スキル《跳躍》取得

   ・

 青の宝珠《素早さアップ+10+サイコロ×3》



 左折すると、

  ・

 白の宝珠《なんでもアップ・サイコロ×1》

  ・

 群青の宝珠《投擲力+15》

  ・

 スキル《加速装置アクセラレータ》取得



 というような順序で、通路にマスがならんでいた。


「……莉菜ちゃんはどう思う?」

「あたしはやっぱり、

 かそくそうちと書いて、あくさらるーたのスキルがいいと思います」

「莉菜ちゃん意外だなあ」

「そうですか?」

「安定の、恒常的スピードアップの方選ぶと思ってたから」

「だって、かそくそうちってなんかカッコイイじゃないですか。

 あくさらられーも」

「アクセラレータね」

「あくせらー……あく、せ……あくせられー」

「タ」

「た」

「そう、タがつく」

「たがつく」

「そう。いってみ」

「あく、た」

「まあ、それでいっか。

 アクセラレータとかいわれても意味わかんないしな。

 なんか、アニメで見たような気がするけど。

 いや、ゲームかな。世界樹かな? 

 まあなんかパワーアップっぽいことはわかるしな。かっこいいし」

「そうですね。あく……ら……た」

「跳躍も気になるけど……加速装置だよなあ、やっぱ」


『Zzz……はっ……う~にゃ……

 旦那……どっちに進むか、フワァ~……

 決まりましたでやんすかぁ……?

 もうちょいステあげればぁ、いいこともあるんでぇがんばフハァ~……』


 というわけで、お宝地図の通路は《あくせられー》狙いで左折。


《白の宝珠》を獲得。


 ステータスは素早さを選び、サイコロは再び『5』。


「よっしゃああああああああァァ――ッ!!!!!」

 

 今度は助手がビクッとなった。

 

 二人パーティーはそれからもモンスターを狩っていった。

 その間もやはり、冒険者パーティーとすれ違うときには、

 莉菜はフードで顔を隠していた。


 彼らが近くに来ると、明かるくなるのでそれがわかる。

 顔が見えなくても莉菜は目立つようで、ジロジロ見られていたし、

 離れると「すげ~でけえ!」とか、

「絶対かわいい娘だったぞ!」などという声が聞こえてきた。


 冒険者の男女比は8:2とも、9:1ともいわれているので、

 十桜の中では間を取って「8.5:1.5」ということになっている。

 なんにしても、外で出会いのない一部の男冒険者にとっては、

 女冒険者は希少で貴重な存在なのだ。


(……というか、

 莉菜ちゃんのアイドルオーラがこぼれて目立ってるんじゃ……)


 実際にこの日、初心者コースで

 すれちがったパーティーも女冒険者は少なかった。

 その五組中、男女混合パーティーは紅一点がいる一組だけで、

 あとは珍しい女四人組パーティーがいただけで、

 それ以外は全員男だけのパーティーだった。


 彼らとすれ違った後は、


「……フフッ……見たか? 装備……」

「ダッセ……」

「あれが噂の無課金……――」


 などという声が聞こえてきた……


 それぐらいならまだいいのだが、なかなか強烈なのが現れた。


 それは、莉菜が靴紐を結んでいるときのことだった。

 十桜は壁にもたれて周囲を視透していた。


 すると、

 

「そのアウター、どこで買ったんですか~?」


 などと、剣士の男がニヤニヤしながら話しかけてきた。

 北斎拠点ジャンパーのことを聞いてきたのだ。


「……これはギルドの公式グッズで、貰い物です」

「へ~、あのギルドの人のヤツ……え? ギルドの人じゃないよね?」

「違います」

「え~、こんなの着る人いるんだあ……え? なかのスウエットも?」

「そうです」

「え~~~ッ、スゴイっすね! えっ、ちょっとスコップって……」


(うわああ~マジかよ……こんな人間いるのかよ……)

(……ドラマにしかいないだろこんなヤツ……)


 男は偽ルパンレベルのタレ目で、その目を終始ニヤつかせていた。

 その後ろにいる僧侶や戦士もニヤニヤしているのがわかる。


「ちょっとお~、アレクサぁ~、もういこ~よ~、

 今日こそレア装備ゲットするんだから~」


 タレ目剣士の連れらしい女盗賊が不満を漏らす。

 そんな彼女らの後ろを、別のにぎやかなパーティが通った。

 

「いやあ、すごかったな……!」

「ああ……夢かなった……!」

「ほんとだな、おめでと~!」


 彼らは五メートル先の角を曲がってきた。

 青白い眼には視えていた。

 彼らが角の向こうの隠し部屋から出てきたところを。

 きっと念願のレア・アイテムを手に入れたのだろう。

 その彼らに、タレ目剣士が話しかけていた。


「あの~なにか見つけたんですか?」

「ああ~はい。実は隠し部屋を、初めて見つけまして……!」

「ええ~、それどこです?」

「あっちの……」

「あ、ども~助かります……」


 その場所が分かっても、すでにランダム隠し部屋は消えている。

 宝を見つけたパーティーは「がんばってください!」といって去った。


「あ~もう! アレクサ早く探してよぉ~~!

 あたしたちも隠し部屋ゲットするんだよッ!!」

「いや、わーった、わーった! じゃっ、がんばってください!」


 女盗賊はヒステリックにわめき、

 タレ目剣士は、十桜にニヤつきながらエールを送って去っていった。


(北斎拠点ジャンパーがわからんのかよ……!)

『そうですよね旦那! どいつもこいつも見る目ないんでやす!』

(だろッ!)

『やんすッ!』

(おめえいいやつだな)

『でやんしょ!』


 共通の敵ができたことで、十桜と助手は意気投合していた。

 それは良しとして、立ち上がった莉菜は元気がなかった。


「先輩……すみません……

 あたし、どうしていいかわからなくて……

 先輩を守ってあげられませんでした……」

 

 莉菜は靴紐を結ぶあいだ、ずっと壁の方を向いていた。

 あまり顔を見られたくないだろう彼女には仕方がないことだ。

 それに、

 十桜としては莉菜にはああいう輩とは絡んでほしくない。

 

「別にいいよ~あんなの。

 ムカつくけどさあ……やっぱムカつくなあっ!

 莉菜ちゃんはこのジャンパーどう思……「あたしは十桜先輩っぽくて好きです!」


 その莉菜の言葉は超食い気味に放たれていた。

 彼女も怒っているようで、十桜は胸の内がこそばゆかった。


「……そ、そうだろう! 莉菜ちゃんはセンスの塊だな!!」

「えへへ、褒められちゃった♪」

「よし、俺たちもいくか」

「どこにですか?」

「隠し部屋」


 十桜がつぶやいたとき、通路の向こうで戦闘がはじまっていた。

 魔物と戦っているのは、

 さっきすれ違った“お宝を見つけて喜んでいたパーティー”だった。


「手伝わない方がいいんですよね?」


 莉菜が言った。


 これまでも、戦闘中の冒険者に出会った。

 その戦闘に他パーティーが入っても

 手柄を横取りするだけなので、スルーがベストなのだ。

 悲鳴でも聞こえれば別だが。

 それは莉菜にも伝えていた。


 しかし、


 50メート先のソコはなにか騒がしい感じがした。

 

 十桜は両眼を開いた。

 壁にもたれかかる。


「大丈夫ですか先輩……!?」

 

 視えたモンスターの反応は【牙ネズミ】三匹。

 なのだが、


「動きが……速い……速すぎる……!!」

「え……?」


 ソイツらは、

 いつもの特大ネズミの比ではないスピードで動き回っていた。

 レベル15前後の彼ら、六人パーティーがネズミ三匹に翻弄されている。

 そして、十桜のあたまに救援信号の音が響いた。

 

「先輩、いま、鳴りました……」

「ああ、聞こえた」

「助けに……」

「まだダメだ……」


 十桜と莉菜は、戦闘の場から15メートルのところに近づいた。

 10秒、20秒と経ち、ヤツラの情報がどんどん更新されていく。

 しかし、

 その間も、パーティーの一人が倒れ、また一人が倒れていく。


 三匹の八割を視透したとき、パーティーは残り二人になっていた。

 

「あと少しだ……」


 十桜がつぶやくと、


『 ……ちからづよく だいちにたって…… 』


 莉菜は呪文詠唱をはじめた。すると、


「……逃げろッ! キミらは逃げろォ――ッ!」


 宝剣を握る剣士が叫ぶ。

 近くにいる十桜たちに気がついたようだ。


(耐えてくれ……あともう少し……) 


「グァッ――」


 剣士が三匹の攻撃を同時に食らい、吹き飛ばされる。

 あとは僧侶しかいない。


「ダメだ! 行くぞッ!」

「はいッ! 『 くまさんのじゅつ……!! 』」


 十桜は走った。

 その肩に、

 ぴょこんと黄色いくまちゃんがのっかり、

 しがみついて、きらきらとした粒子になった。

 肩に灯った熱がスコップまで伸びる。


 眼を血走らせた一匹が迎撃してくる。そいつを、


「フンッ――!」


 すくうように打ち上げる。


 天井に激突したソイツには、黄色いスポットが伸びていた。

 

 その間、莉菜は僧侶をポーションで回復。

 

 頭上から落ちてくる一匹。

 あと一突きで殺れる。

 そこに、二匹の影が迫る。

 頭上のヤツを殺れば、こっちが殺られる。

 しかたなしに回避を選択。

 攻撃の動きは視えている。

 避ける。

 避ける。

 しかし、打撃から復活した三匹目にスコップを齧られ、持っていかれた。


(もうッ!?回復が早い……!!)

(赤い……牙)


 スコップの刃を噛む、大きな二本牙は赤かった。

 ソイツだけじゃない、三匹全部の牙がうっすらと赤く光っている。


 そのときには、


 三匹全部、視切っていた。

 疾風の如きヤツラがノロマに視える。

 完璧だ。

 丸腰という点を除けば。

 大事なスコップを口にした一匹は、

 通路を走り去り、遥か向こうの角を曲がってしまった。

 十桜のスピードでは、

 二匹を避けながら得物を追うのは困難だ。

 臨戦態勢のまま待機する二匹には、

 弱点のスポットは伸びていない。


(どうする……!?)


 十桜が青白い眼に焦りを浮かべていると、

 一瞬で武器を隠してきただろう一匹が戻ってきた。

 三匹が揃うと、ヤツラはジリジリと迫ってきた。


(こいつら性格悪いな……)


 赤い牙の三匹は、こちらに成す術がないことを分かっているのか、

 笑っているように見えた。


(どうするんだ……)


 ヤツラは、十桜のスピードでは避けられないギリギリまで寄って

 一気に仕留める気なのだ。


(……)


 魔物たちがジリジリと迫る。

 

(せっかく見つけたのにな……)


 知らない冒険者たちだが、

 彼らは念願のレア・アイテムをゲットして笑顔を輝やかせていた。

 十桜はそんな彼らのような冒険者を見るのが好きだった。

 というか、お宝どころではなく、このままでは全滅しかねない……


(スコップを……)

(……違うッ!)

 

 《青白く光る眼ダンジョン・エクスプローラー》で視えるこの戦闘エリア、

 自分の後ろには、莉菜と宝剣を持つパーティーがいるではないか。


「……援護お願いしますッ!」


 十桜が叫ぶと、騎士と僧侶が前に出た。

 彼らとスイッチするように十桜は下がり、

 気絶から目覚め、ポーションを飲んでいる剣士に話しかける。


「剣、貸してください!」

「え? あ、はい……!」


 得物を拝借。

 その間、矢面の騎士と僧侶は壁となり、

 莉菜は後衛でポーションによるサポート。


 そして、無課金プレイヤーは美術館みたいな剣を握る。


「すごい……」


 ため息のような声が漏れる。

 その7秒後、三匹の赤い牙はダンジョンの床にべちゃりと沈んだ。

 その様はまるで、

 魔物たちと打ち合わせしていたかのような、流麗な剣舞だった。

 

 その剣は、宝剣と呼ばれる、


【ファルシオン】


 開放、成長する剣。

 

 攻撃力:35

 素早さ:25

 命中力:19

 回避率:10%

 精神力:15

 息吹 :15


『特殊』

APアルモニー・ポイント+30

・APの消費で攻撃力をアップ。 

・息吹の値200以上で《開放》発動。

 《開放》発動後、APを消費し続け、

 攻撃力・素早さ・命中力・回避率・精神力・息吹・

 その他を強化(大)。



 十桜は武器の情報を読み取ると、

《開放》を唱え、エクストラ・モンスターらしき三匹を秒殺したのだ。


 そのとき、

 半キャップヘルムにギルドジャンパーの男は黄金に輝いていた。


 

   ◇



「……ありがとうございますッありがとうございますッ!!

 本当に……!!」


 十桜が剣士に宝剣を返すと、彼は泣きじゃくり頭を下げてきた。


「……せっかくコレを掴んだのに……全滅するところでした……」


 十桜は「気にしないでください」といってそこを去った。

 これから自分も“お宝”探しだ。

 その背中に、また剣士の声がかけらた。


「……すみませんッ!!

 ぼくはッ、あなたを……バカにしていましたッ!!

 噂を聞いてっ、バカにしてました!!

 それなのに……すみません……本当にごめんなさいッ!!」


 十桜は振り向くと、ペコっとお辞儀をしてまた歩きだした。


「うふふふ~♪」


 莉菜はうれしそうだった。

 なぜか、歩きながらずっと見つめてきていた。




 0016 無課金で金色に輝いた春




読了ありがとうございます。


次回は、お宝にありつけるのか!? ありつけないのか!?

作者にも予想がつきません!! ストックなんですけどね!!

内容変えちゃうから・・・


気に入っていただけたら、高評価・ブックマーク・いいねを押していただけると、作者の励みになります!!

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