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三題噺⑯妖星ネメア

作者: 嘆木鳩

妖星。凶事の前兆と信じられた不吉な星。

その星が、この地に降り注ごうとしていた。


妖星ネメアの恐ろしさは、全宇宙に知れ渡っていた。不規則に移動を続けるその星は、近くにあった星に降り注ぎ、そのすべてを破壊しつくすまで暴れ続ける。破壊するものが無くなると、またどこかに行ってしまう。妖星ネメアが滅ぼした星の数は、数えきれないほどだった。

そんな妖星ネメアが近くにいると知り、人々は大変に恐れた。今すぐ星を脱出しようとする者、神に祈る者、どうせ死ぬならと悪事を犯す者。まさに、混沌の地とかしていた。

有数の兵力を持つとある王国でも、混沌の図は変わらなかった。その王国はいくつもの星からの侵略をもしのいだ兵たちを誇っていたが、それでも人々の恐れを拭い去ることはできなかったのだ。我々人類は、このまま終わりを迎えるのか、兵士たちにさえも、あきらめのムードが漂っていた。

混乱収まらぬうちに、その日はやってきた。妖星ネメアが、この地に降り立ったとの報告が入ったのだ。

妖星ネメアは、予想と反して非常に小型だった。大体2mほどの大きさだろうか。体系は認年の女性に近いような気がする。星といわれるものはいわゆる宇宙船で、その中に本体がいたのだ。見たことも無い化け物を想像していた人々は、わずかにに希望を持ち出した。もしかしたら、何とかなるかもしれないと。

だが、その希望は一瞬で消え去った。

ネメアがひとたび歩くと、千の命が消えた。さらにもう1歩と、さらに千の命が消えた。火、氷、雷、風、ありとあらゆる自然がネメアの味方をし、星そのものが人々に敵対しているかのようだった。ネメアはどこに行くでもなく、ただふらふら歩いていた。それだけで、ネメアの跡には何も残らなかった。

そんなネメアの前に、王国の勇敢な番兵が立ちはだかった。この番兵は、王国の中、否この星の中でも最強と言われる存在だった。あらゆる武術、学問、魔法を収め、その力を利用し、国、宇宙人と和す、あまたの侵略を食い止めてきた英雄である。育ての親である王国の王に報いるため、番兵として生きてはいるが、そこにとどめておくべき存在逸材であることは間違いなかった。

ネメアと番兵の戦いは壮絶なものだった。ネメアが歩くたびに起こる星からの攻撃に対して、瞬時に対応した魔法を編み上げ反撃する。その頭脳で次に何が来るか予測し、その身のこなしで回避をしながらネメアに近づいていく。ネメアが歩いても壊れることの無い、初めての人間だった。

その番兵を見て、ネメアは立ち止った。それはこの星に降り立ってから初めての事だった。ネメアが、番兵をじっと見つめる。今が好機と、番兵はネメアにとびかかった。

ネメアが何かをつぶやいた。

その瞬間、番兵は絶命した。

死ぬ直前、番兵は悟った。これは呪いだと。しかも、今まで体験したことも無いほど強力なものである。あらゆる災害に対応してきた最強の番兵でも、呪いを防ぐことはできなかった。薄れゆく意識の中で、ネメアがにやりと笑うのが見えた。この星はもう終わりだ。絶望のまま、番兵の意識は闇に溶けていった。


番兵の死体に、ネメアが近づく。死してなお魔法に守られた番兵の死体は、消えることなく残っていた。

ネメアは、あるものを拾い上げる。そして、それを自らの耳に引っ掛けた。

「ふー、ようやくよく見えるようになった―!」

そうネメアは言った。

最強の番兵がネメアを倒してくれるかもしれない、そんな希望をもって戦いを眺めていた人々は、頭にはてなを浮かべた。

恐ろしい妖星ネメアが、番兵のもっていた眼鏡をかけて、普通の言葉を発しているのだ。

「いやー、皆の衆堪忍な!さっきまでなんも見えとらんかってん。わい目ぇ悪いさかいのぉ。」

なぜか大阪弁でぐいぐい来るネメアに、さらに人間たちは混乱する。

「いやーこれ眼鏡いうんやっけ?えらい便利なもんやねー。これを前から持ってたらよかったのになー。おかげでいろんな星こわしてしもた。ほんとはほかの星でもこういうの探してたねんけどな?すぐ壊れて下手、拾うこともできないんや。壊れずに済んだやつなんて久しぶりやけど、それがいいもん持ってたなんて、ラッキーやな!ほな、わしそろそろ帰りますわ。目ぇ見えるようになったら、もう星にぶつかったりせぇへんやろしな。」

そういって、妖星?ネメアは、宇宙の果てへと消え去っていった。

何が何やらわからないまま、人間たちに再び平和が訪れたのだった。


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