《漫才》海どこ?
ボ:ボケ、ツ:ツッコミ
ボ「はい。本日の販売分は終了しました」
ツ「どうもね。また明日にでも出直してきてちょ。って漫才これ。コントの出だしだったらまだいくらか面白そうではあるけれども、これ漫才だから。ただ一応聞くけど何を売ってた?」
ボ「総理大臣まんじゅう」
ツ「数量限定かはよく分からないアレでしたか。まあ、まあ大量生産していそうなパッケージではあるけれども、実際にバカ売れしているかは定かでない以上ね。そりゃあなたとて総理大臣まんじゅう売るしかないかも分からないけれどもね」
ボ「ボク岐阜県育ちです」
ツ「はい?」
ボ「海はどこですか?」
ツ「そうね。岐阜県からなら、東西南北でいう北か南なら割合に海まで行けるんじゃないかね。確か、本島の真ん中にある海なしのところでしょう。北東とか南西とかだと最悪だね。地図見れば分かるんだけど、どこまで行ってもせいぜい川だし、日本は無闇に進むとすぐ森林とか山とかだからねえ」
ボ「じゃあ東に行きます」
ツ「お、おう。まあ、頑張れば東京とかあるから悪くはないんじゃないですか。どうぞ頑張ってください」
ボ「じゃあ西に行きます」
ツ「はい。話、聞いてました?」
ボ「西に行きます」
ツ「失礼かとは思いますが何か、東京にいやな思い出でも?」
ボ「東京じゃなくて、海が見たいからです」
ツ「ああ、はい、はい。そりゃ言葉のあやというかな、今どきの若者向けに言うと私の説明不足で申し訳ない。東京には南のほうに東京湾があります。そこから太平洋というそれはそれは大変に大きな海がありますよ」
ボ「じゃあ南に行きます」
ツ「はい?」
ボ「東京湾に行きます」
ツ「いやいや。それはあなたが話を聞いてないですね。東京湾があるのは東京の南のほう。岐阜県からだと南に行っても東京湾なんてありませんぜ」
ボ「まず海に行って、泳いで海岸沿いに北上します」
ツ「遠泳が得意でもないと、よっぽど困難な道のりですけど。あと、海岸沿いに北上ってあなたは台風か何かですか?」
ボ「海を早く見たいだけです!」
ツ「それなら何もわざわざ泳がずとも、そうだな、東海地方だから名古屋港あたりからフェリーが出てるならお世話になったらいいですよ。フェリーで東京行くの楽しいでしょう」
ボ「フェリーで東京に行ったことないんで分かりませんねえ」
ツ「落ち着いて。一度、試しにそうしてみればいいんですから。フェリーで東京行くのが楽しくなかったら、電車で東京行ってからバスとか乗り継いで東京湾行けば行けますよ」
ボ「そもそも名古屋港がある海でいいですし」
ツ「そんな。夢も信念もないのは現代ならではですけれども」
ボ「海はいいですよね。青いですから」
ツ「青いだけでいいなら、空で十分ですよ」
ボ「空は水色です!」
ツ「そうだけど。そうですけれども。厳密過ぎますし、青空でもまあまあ癒されますよ。海はなくても、岐阜県の青空はなかなか悪くないと思いませんか?」
ボ「まあ、梅雨ばっかりで年の半分ほどはくすんだ灰色ですけどね」
ツ「はあ。なるほど。そう考えたらずっと青々とした海がうらやましいわけですか。言われてみればごもっともですな」
ボ「山ばっかりの土地で右も左も分からずに死ぬなんて、まっぴらなんです」
ツ「それはそれでじゃないですか。それに、岐阜県には青々とした素晴らしい山並みがある。海がなくても、たとえば生まれてから死ぬまで砂漠で暮らす人たちよりかはずっといいはずですよ」
ボ「冬の山は寂しいものです。元気だった森は枯れ果て、春になるまで死んだように虚無です」
ツ「虚無は大げさですって。だって春にさえなれば、また青々とした山があなたを楽しませてくれますぜ」
ボ「一句読みます。嘆き待つ日々の柏手たけだけし」
ツ「なんで一句読んだんですか?」
ボ「まつ、かしわ、たけ。全て、かけ言葉です」
ツ「季語はどこなんですか。もしかしたら柏手が正月なのかな」
ボ「海に行きたいだけです」
ツ「なんで海に行きたいだけなのに一句読んだんですか」
ボ「分かりません。強いて言うなら、海に行きたくて、ですかね」
ツ「たけだけしいを言いたいのしか伝わりませんでしたよ。どこに海の要素があったのか教えてください」
ボ「嘆き、が荒波のたとえになっています」
ツ「だめだめ、だめですよ全然。何を勝手に嘆きから荒波を連想させようとしてるんですか。海に行きたいのが過ぎて海に行きたい気持ちがひとつも伝わらない無意味な俳句風味の何かでしかないです」
ボ「荒波を待つ山の民の歌です」
ツ「いやいや、何回も何回も繰り返していれば洗脳されますよね、じゃないんですよ。一部の人々はそんな主張でも納得しかねませんけど、しかも山で荒波を待ってるんだとしてもそんな発想は狂っていますからね!」
ボ「海に行きたいだけです」
ツ「じゃあ、不本意ですが狂ってしまうほど海に行きたいのがやや理解出来てきました」
ボ「お後がよろしいようで」
ツ「もうやめさせてもらうわ」