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いつまでも、あると思うな、異世界召喚

作者: 人生5級

「それでは、次の異世界の方どうぞ~」

「失礼するのじゃ」

 面接室に入ってきたのは、一目で高価だと分かる赤いマントに身を包んだ恰幅のいい老人。頭頂に被っている放射状の王冠が、彼の裕福な身分を嫌というほど表していた。

「はい、それでは自己紹介をお願いします」

「わしはユニキュロ王国で王をやっている、ピートテック王じゃ。よろしく頼むぞ」

 苦しゅうない、と言わんばかりに、王様は椅子に深く腰掛けふんぞり返る。身分が指し示す通り、随分と態度がでかい奴だ。

 俺は若干苛立ちを覚えながらも、それが伝わらないように気持ちを落ち着かせる。こういった輩を対応するのは何も初めてではない。淡々と自分の仕事をこなせばいいだけだ。

「それでは、今回勇者を召喚したいと思った志望動機から話してもらっていいですか?」

「よかろう。現在、我が国では他国との領土争いが激しくなってきておる。兵士たちは疲弊しており、このままでは戦況も悪化するのみじゃ。現状を打破するためにも、異世界からやってきた勇者の力が必要なのじゃ」

「なるほど、随分と苦労されてきたんですね~。勇者の配属先はどこを希望とされていますか?」

「もちろん、彼には初めから最前線で戦ってもらうつもりじゃ。勇者にとって、自分の得意分野が発揮できる場所に配属されて幸せなことじゃろう」

 王様がふふん、と鼻をならす。いちいちわざとらしい振る舞いだ。

「はい、最前線――と。次の質問ですが、王様は尊敬している人はいらっしゃいますか?」

「先代である我が父じゃな。父はその圧倒的な権力で我々の世界を統一し、束の間の平和をもたらした。まあ、わしがその平和を壊してしまったんじゃがの! がっはっは!」

「……ありがとうございました。面接は以上です。最後に、何か質問はありますか?」

「質問などない。とっておきの勇者の召喚を頼むぞ。我が国の存亡がかかっているのじゃ」

「分かりました。面接結果は一週間以内にご連絡いたします。本日はお越しいただき、ありがとうございました」

 最後まで傲慢な態度を崩すことなく、王様はのんびりと部屋を出ていった。





「先輩、今の異世界人はいかがでしたか?」

 次の召喚希望者が入ってくるまでの休憩時間。一緒に面接を行っていた後輩が探るように尋ねてきた。

「……ダメだね。うちに勇者を召喚してもらいたいっていう誠意がまるで伝わってこなかったよ」

「そうですか? 結構困っているように見えましたけど」

 後輩が不思議そうに小首を傾げる。まったく、これは少し説教が必要だな。

「分かってないな~お前は! いいか、今どきの勇者はな、最初は序盤の村で無双して女にモテモテになってから最前線に行きたいモノなの! あれは禄に勇者について調べてきてない。いわゆる“勇界分析(ゆうかいぶんせき)”が出来てないね」

「なるほど、“勇界分析(ゆうかいぶんせき)”が出来てないのは良くないですね」

「それに尊敬している人が身内ってのも、ああいうところはきっちり考えてこなくちゃ。あのままなら、暴虐の王として勇者に殺される展開は目に見えてる。あの王には不採用を感謝されたいぐらいだよ」

「そんな深い考えがあったとは……」

「異世界召喚の需要が爆発的に増加している昨今、異世界人を適切な場所に召喚させる俺たちの仕事はますます大切になってくる。肝に銘じろよ」

「勉強になります先輩! あ、次の異世界の方が入ってくるみたいですよ」





「失礼するわ」

「どうぞお座りください。早速ですが、自己紹介をお願いできますか?」

「名前はユーフェミア・リ・ルブラン・ステチェンスカ。魔法学院の生徒よ。ユフィって呼んで」

 今度はピンクの髪が美しく輝く美少女だ。学生服としては不自然なほどに丈が短いスカート。健康的な白い足が綺麗に伸びていて、思わず目のやり場に困ってしまう。

「それではユフィさん、志望動機を教えてもらっていいですか?」

 尋ねると、彼女は分かりやすく顔を真っ赤にする。

「わ、私は必要ないって言ったんだけどね!? 私の強い魔法力を伸ばすためには、同等の力を持つ魔法使いがライバルとしていた方がいいって友人が言うから仕方なく……。私はそんなこと思ってないんだからね!?」

「そうですか、大変ですね。次の質問ですが、ユフィさんは将来の夢はありますか?」

「しょ、将来の夢?」

 そろそろ顔から火でも噴き出るんじゃないだろうか。

「……ないんですか?」

「あ、あるわよ! えっとね……お嫁さん……」

 笑いどころかな? とりあえず笑っとこう。

「ははは」

「笑ってんじゃないわよ!」

「あ、すみません。それでは、最後に質問はありますか?」

「えっと……。しょ、召喚される男はイケメンなのかしら?」

「はい?」

「わ、私が聞きたいんじゃないわよ! 友人から聞いてくれって言われただけで……」

「はあ。召喚されるのが男だと決まってるわけではありません。面接結果は改めてご連絡します」





「今の子は良かったんじゃないですか? 美しい容姿にあのツンデレ。ヒロインの素質は十分です」

「全然ダメ。お話にならない」

「え、なんでですか?」

「まず、名前が長すぎる。親の顔が見たい」

「異世界なら当然では?」

「さっきの王様といい、今の女といい、敬語の使い方を知らんのか? これだから『最近の若異世界召喚者わかいせかいしょうかんものは……』なんて言われるんだよ」

「誰も言ってません」

「それに、面接だと分かっているのになんだあの制服は? いくら“服装自由”と言ったって、あんな煽情的な制服で来るなんて大人を馬鹿にしている」

「そういう世界観なんだから仕方ないでしょう」

「髪だって、普通は黒に染めてくるもんじゃないのか?」

「それは遺伝ですから」

「な・に・よ・り! 男のことばかり考えてるクソビッチなんて話にならん。あんな奴、主人公との間に速攻で子どもを作ってドロドロの愛憎劇を繰り広げるに決まってるんだ」

「清々しいほどの偏見だ。異世界ファンタジーってそんな話でしたっけ? ……先輩、もしかして、まだ見ぬモテモテ主人公に嫉妬しているだけなのでは?」

「そ、そんなわけないだろう! さあ次だ次!」





「はい、次の方どうぞー」

「ሠላም ይቅርታ ፡፡ ለዛሬ አመሰግናለሁ ፡፡」

「異世界召喚をする時は日本語を勉強してくるのが当然だろう! 出直してこい!」





「まったく、今日はまともな志望者がいないな」

「先輩、次の方が最後です」

「マジかよ!? 最後ぐらいは採用に値する世界であって欲しいもんだ」





 トントン、とノックの音がする。

「はい、どうぞ」

「失礼いたします」

 最後に入室したのは、スーツ姿に黒縁眼鏡をかけた男性。これといった特徴のない姿だが、どうやら常識だけはあるようだ。ピンと伸びた背筋は、一本の芯が入っているように見える。

「お座りください。それでは、自己紹介をどうぞ」

「日本から参りました、阪口義男と申します。28歳で独身、会社員をしております。本日は宜しくお願い致します」

 話し終わると、深々としたお辞儀。その態度には好感が持てる。

「日本人の方ですか、ここにいらっしゃるのは珍しいですね」

「そうなんですか?」

「ええ。日本人は異世界に召喚されることは多いですが、望んで召喚を受け入れたいという立場でいらっしゃることはあまりないんです。望まないうちに突然現れた美少女に振り回されるというパターンが“お約束”ですからね、あっはっは! ……すみません、話が脱線しました。志望動機から伺って宜しいですか?」

「かしこまりました。現在の日本ではどんどん税率が上がっているにも関わらず、政治家は彼らの私腹を肥やすことしか考えていません。貧富の差は広がっていくばかりです。だからこそ、異世界から来た勇者に今の日本を壊し、改めてほしいのです!」

「……政治問題ですか。確かに最近の日本では、そういった悪いニュースが蔓延っていると聞きますね」

「ええ、酷いものです。与党は国民の血税を自らの私欲と周りの人間のために使い、野党は野党でその足を引っ張ることしか頭になく、ろくな代案も出そうとしない。そんな政治に、我々日本人はもううんざりなのです」

「つまり、あなたは国民の代弁者としてここに来たと?」

「ええ。この数年間ずっと、日本人は勇者を求めています。日本を変えるためには、もうこの方法しかなかったのです」

 どうかお願いします、と男が頭を下げる。俺はその様子を真っ直ぐと見つめる。

「……あなたの考えはよく分かりました。それでは、何か質問はございますか?」」

「それではお言葉に甘えて。あなたはこの面接官という仕事の、どのようなところにやりがいを感じていらっしゃいますか?」

 男からの問いかけに、一瞬、黙考する。ただ、次の言葉は自分でも驚くほど、簡単に感情の中から拾い上げることができた。

「……やはり、本当に助けを必要としている世界に勇者を召喚することによって、その世界がより良くなったと感じられる事ですね」

「それは素晴らしい事です。是非、私の世界も勇者の力でより良くしていただけたらと思います」

 男は満足げな表情で、最後まで姿勢を崩すことはなかった。





「いやー、最後の日本人がまともで助かりました! 採用が0人のままだったら仕事をした気がしませんでしたから」

 後輩は緊張の糸がほぐれたようで、安心したように深く息を吐き、帰り支度を始める。

「……最後の奴もダメだ。日本に召喚はできない」

 俺の言葉に、後輩が顔を上げた。その顔からは動揺が隠せていない。

「えっ。な、なんでですか? 服装も面接に相応しいものでしたし、受け答えもしっかりしてました。特に不自然な点はありませんでしたが……」

 俺は深い溜息をつく。どうやら、まだまだこの後輩にこの仕事は任せられないようだ。

「確かに、あの男自身には特に悪いところはなかった」

「それならどうして?」

「彼らは、まだ本当には勇者を必要としていないってことだよ」

 後輩はまだ納得がいっていない様子だ。

 俺はびしっ、と指を立てる。

 

「まず選挙行けよ」

 勇者を待ってるだけじゃだめだぞ、日本人!


※1/29 加筆修正を行いました。

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