実際の書類は内容をしっかり確認してからサインしないと危ないよ
~前回のあらすじ~
魔王の体調不良は肩こりから来ていたんだよ。肩こりを甘く見ちゃいけないぞ。
「…さて、雇用に関する書類が一通り出来たから、目を通してちょうだい。もし納得いかないなら出来る限り善処するわ。」
魔王はルイスに勤務時間、給与、休日に関する書類を渡した。それを順に確認すると、次第にルイスの表情が曇っていく。
「あら?何か気に入らない?」
「気に入らないっていうか…これだと、お給料貰い過ぎる。今の2倍です。それなら追加で他にも出来ることするよ。」
「えぇ!?これくらいもらったって、罰当たらないでしょ?」
「…いや、さすがに…あ!それならナナちゃんの散歩のお手伝いとかなら出来るよ。多分。」
「はぁ!?このくらいで、そんな危険なことさせられるわけないでしょ!?」
「…魔王様、失礼します。少々確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
大臣はルイスから書類を取り内容を確認すると、次第にワナワナと体を振るわせ始めた。
「…おい、貴様…」
「はい?」
「馬鹿か!?馬鹿なのか!?この程度の金額で命を粗末にする気か!?ケルベロスの世話の補助に着くというなら危険手当は最低限必須だ!我々魔物を侮辱する気か!?仮に貴様が捕虜であっても然るべき報酬というものがあるだろう!!どういうつもりだ!?」
大臣に大声で怒鳴られ、思わず動けなくなってしまった。
「…えぇっと…?」
「魔王様、この人間の了承は必要ありません。むしろこのような生き物、放逐しようものなら直ぐ様搾取されて打ち捨てられるだけです。これで話は終了です。」
大臣は有無を言わさず書類に訂正を入れ、魔王もそれを許した。
「はい、じゃあサクサクこれに名前書いてね~。」
「ルイス、早く書いちゃいなよ。」
「多分今よりずっとマシな生活が出来るぞ。」
「何も心配いらないんだな。」
皆から笑顔で『はよ書け。』と威圧され、ルイスは慌てて書類にサインした。
「はい、これで正式に貴女はうちの専属マッサージ師です。これからよろしくね~。」
「この城で働くに当たり、幾つかの注意点を教えておく。しっかり覚えるように。まずはこれだ。魔界で暮らすにあたり、家の外では必ず着用するように。」
そう言って大臣から何やら布製の物を渡された。ひろげてみると、フードの部分に猫耳が着いたポンチョである。
「……あの……私、こんな姿ですが、三十路なんですが…」
「だから何だ?三十路なんぞ、まだまだヒヨコこみたいなものだろう。我々の成人は若い者で百歳だぞ。その服には魔物の匂いと防御魔法が施されている。少なくとも、それを着ていれば人間を喰いたがる魔物達に襲われる心配は無いぞ。」
三十路に猫耳ポンチョ。正直、精神的にかなり痛い。痛いが、安全第一ならば着る方が賢明である。
「…わかりました。」
物凄く不本意ではあるが、渋々ルイスは猫耳ポンチョに腕を通した。
「妖精さん、聞いても良い?」
「何?」
「若くて百歳が成人なら、妖精さんは今幾つなの?」
「おほほ…レディに年齢の話はするものじゃなくてよ。」