お偉いさんとのご対面
~前回のあらすじ~
ついに魔王様とご対面だよ。そして一時間で気に入られたよ。
「いや、早くね?」
「ルイスの永住権と勤務体制、給与等さくさく決めるわよ~♪」
「…あの、魔王様…?」
鼻唄混じりに書類を作り出した魔王に、喚ばれた大臣がおずおずと声をかける。
「?何よ?」
「…連れて来ておいて、なんですが…本当にあの人間を正式に雇用なさるおつもりですか?本当に信用に値するのですか?」
「…まだごねてるの?さっきも言ったじゃない。一時間も時間があったのに、あの人間は私を攻撃するどころか、体を楽にしてくれたのよ。」
「それが信じられないのです!あれほど苦しまれていた魔王様を、何故たった一時間でそこまで回復させることが出来たのか、不思議でなりません!あの人間が魔王様に何か良からぬことをしていたとしか…」
「今まで全く面識も無く、魔物に対して全くと言っていい程敵意が無い人間が、どうやって私に良からぬこととやらをしていたと?しかも、あの子はたいして魔力が強いというわけでもないし、呪詛関連の知識は皆無よ。」
「ですが…」
「そんなに納得いかないなら、直接利いたらいいじゃない?その方がずっと話が早いわよ。」
「…わかりました。では、そのように…」
「先に言っておくけど、拷問にかけて罪を捏造したら…どうなるか解るわよね?」
魔王は手を止め、大臣に微笑む。しかし、目は全く笑っておらず見る者を凍りつかせんばかりに冷ややかだ。
「…御意…」
大臣は内心冷や汗をかきながらも表情を変えずに頭を垂れた。
「貴様、どうやって魔王様を治したか答えよ。」
仕事が一段落ついてから、大臣はルイスを呼び寄せた。少し離れた場所から三匹が様子を見守っている。
「どうやってって…私は按摩師だから、按摩したとしか答えられないんだけど。」
「按摩程度で治ったというのか!?」
「正しくは、まだ完治はしてませんよ。」
「何!?魔王様を謀ったのか!?」
「いや、あんなゴリッゴリ、一回で治るわけないじゃん。積み重ねるしかないでしょうよ。妖精さんにも説明してますし。」
「魔王様がそれで納得なさったというのか?」
「説明したら、すっごく納得というか『長年の謎が解けてスッキリ~』な感じだったよ。」
「…ならば聞くが、魔王様のご病気は何だ?」
「筋肉の過緊張とそれに伴う自律神経の乱れ。」
「は?」
「早い話が『肩こり』だね。その影響で偏頭痛と眩暈、あと食欲不振。それと元々か?末端冷え性も拍車かかってる感じ。何であんなになるまで放置してたの?」
「たかが『肩こり』であのような症状が出るというのか!?」
「大抵はあそこまで悪化する前に手を打とうとするけど、その『たかが肩こり』って甘く見て放置していた結果が妖精さんでしょうよ。」
実際、魔王が「なんだか肩の辺りが重い」とか言っていても休みを促すでもなく放置していただけに、言葉がグサグサと突き刺さる。
「……いつか完治するのか?」
「今の状態じゃ無理かなぁ…痛みを取るだけなら大丈夫だけど、『痛みを止める』のと『完治』は全く別だよ。毎日の積み重ねの結果があれだよ?生活習慣そのものを変えないと『完治』は無いねぇ…」
「…どのくらいで痛みは止まる?」
「暫くは毎日受けた方が良いね。それでも何日かかるかなぁ…ひどい人だと何ヵ月もかかることがあるし…魔物でマッサージ出来る人?いないの?」
「まず按摩やマッサージという考えが魔物には無いからな…何故そのようなことを聞く?」
「だって、私が人間で信用出来ないから妖精さんに近づかせたくないんでしょ?だったら魔物で出来る人?にしてもらった方が良いでしょうよ。」
「…もしそうなれば、貴様はお払い箱になるわけだが…恐ろしくはないのか?ここには人の肉を好んで食べる者もいる魔界だぞ。」
「そんなもの、人間界にだっているでしょ。お払い箱なら、それはそれで住める所探していつもの生活に戻るだけだね。」
簡単に言い切るルイスの表情はやはり変わらず。大臣は奇妙な生き物を見るような目をしていた。