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勇者と魔王と按摩師と  作者: ひなた
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たまには甘えたいよね

~前回のあらすじ~

ルイスを魔界に連れて来た三馬鹿トリオ、もとい三匹の魔物。ちょっと上役と話をつけている間に目を離したら、ルイスにケルベロスが懐きまくりだよ☆どうしてこうなった…



「「「本当にどうしてこうなった!?」」」

「何か知らんが、息ピッタリだね。」

のほほんと言いながら、ルイスのケルベロスを撫でる手は止まらない。

「…ルイス君、ちょっと手を止めてお話しようか。」

「ちゃんとお互い顔を見合わせて。」

「一度撫でるの止めようか。」

「止めないでくださいいぃぃぃ!!」

いきなり会話に割り込んできた大声に驚く三匹。先程はルイスの奇行にばかり意識が向いていた為気がつかなかったが、もう一体魔物がそこにいた。フワフワのくせ毛が腰まで届き、可愛らしい顔立ちにナイスバディの若い娘さんである。パッと見はとても人間に近いが、頭には羊のようにくるりと曲がった角がある。ケルベロスの飼育係の一人、メルちゃんである。


「お願いですから、まだ暫く撫でて下さい!私じゃ抑えられないですぅぅ!!」

メルちゃんは目に涙を浮かべながら、何度もルイスに頭を下げて頼んだ。

「…何があったの?」

訳がわからず、ルイスから事情を聞くことにする。ケルベロスは素知らぬ顔でルイスのお腹に頭を擦りつけている。ルイスはされるがままで撫で続けながら話し始めた。


三匹が上役に話をしに行っている間、ルイスは言われた場所の直ぐ傍にある岩に腰掛けて大人しく待っていた。仮にもここは魔界。下手に動くのは危険だと判断したからである。

そして腰掛けてから数分と経たず、犬の鳴き声と女の子の泣き声が聞こえだした。しかも徐々に近づいて来ている。『何だ?』と思い岩から下りた瞬間背中から何かがのし掛かってきた。

お察しの通り、ナナちゃんである。どうやら退屈で仕方なかったナナちゃんは散歩中にメルちゃんに悪戯を仕掛け、手綱が緩んだ所を脱走したらしい。

そして、ルイスが目につき全力でじゃれかかり、ルイスは受け身を取り損ねて背中から乗っかられた。

いきなり背中からきた物が何かわからず、「重い。ちょっと避けて。」と後ろに向かって声を掛けると、驚くことにナナちゃんは大人しく言うことを聞いたのだという。体を起こしたルイスはナナちゃんを見て、驚き固まった。いきなり背後からケルベロスに襲われれば誰でも驚き恐れるだろう。

しかし、ルイスはルイスだった。

驚き固まったが、直ぐにルイスはナナちゃんに手を伸ばし、三つの頭を交互に撫で始めた。

今度はメルちゃんもナナちゃんも驚きで動かなくなった。ナナちゃんが見たことのある人間は恐怖で表情がひきつり、耳に痛いような金切り声をあげ、自分を攻撃しようとするばかりだったから。自分から手を伸ばして優しく撫でてくる人間なんて初めてだったのである。

また、メルちゃんはケルベロスにわざわざ自分から触ろうとする人間がいるとは思わなかった。自分たち飼育係にはまだマシだが、ケルベロスは基本的に獰猛で血の気を好む。飼育係にすら時にはその牙と爪で切り裂き、ズタズタにするのがケルベロスである。ましてやナナちゃんは処刑役によく選ばれる番犬。自分たちですら恐ろしくて近づくことも辛いのに、この人間は表情すら変えず、撫でる手の動きも優しい。

ナナちゃんの尻尾が徐々に揺れだし、体を寝そべらせると今度は頭だけでなく体も撫で始めた。そしてついにはお腹まで見せだして撫でていたところで三匹が帰ってきたのである。


「もう、本当にビックリでしたよぅ。私が『危ないから離れて』って声かけたら唸りだすしぃ…ルイスちゃんが『気に入ったか?』って声を掛けたら膝に頭を乗せて唸らなくなりましたけどぉ。」 メルちゃんが疲れきったようにため息をつきながらこぼす。

「…ルイスはナナちゃんが恐くないの?」

「恐い…?むしろ『こんな懐こくて番犬になるのか?』っていう疑問しか湧かないんですが。」

((((いや、それルイスが初だから!!))))

三匹と一人は早くも疲労困憊である。


「そういえば、結局話はついた?」

ルイスの一言で三匹はやっと思い出した。

「そうだった!ルイス、これから魔王様にお会いするよ。」

「ええぇっ、行っちゃうんですかぁ!?」

青ざめるメルちゃん。何故なら今だにナナちゃんがルイスにベッタリだからである。しかも前足で器用にルイスの服を抑え、動き難くしている。

「魔王様とやらに会う前にナナちゃん送って行っても良い?多分メルちゃん一人だと無理でしょ。」

「…せやな。いたしかたなし…」

「なんか口調変だよ、ダーキ。」

ナナちゃんを起こし、小屋に向かって歩きだす三匹と一人。ムックも後に続こうとしてメルちゃんに呼び止められた。

「…ムックさん…ルイスちゃん、大丈夫ですかねぇ…?実は『もし人間が失敗したらケルベロスの餌にでもしたら良い』って大臣達が話しているの、聞いちゃったんですぅ…」

「…大臣達が好き勝手ほざくのなんか今更だし、あの調子ならナナちゃんがルイスを食べるのは無理だろ…他のケルベロスに回されたって、ナナちゃんと一緒だろうしな。いざとなったら担いで人間界に逃がしてやるよ。」

「…万が一そうなったら、私も出来るだけお手伝いしますねぇ。」

どうやらメルちゃんはこの短時間でルイスをいたく気に入ったらしい。初めて会ったルイスの安否を気遣う程に。

基本的に魔物は自己中心的な気性の者が多い。弱肉強食に近い世界で暮らしている為か、相手を思いやるという感情が今一分からないものが圧倒的に多いのである。そんな中で自分たちが困っているからと、態々人間界から魔界まで連れられて来て、ケルベロスに優しく触れるルイスはかなり異質であるが、そんなルイスに情が湧きつつある自分も人のこては言えまい。ムックは空を仰ぎ、静かに三匹と一人と合流した。


ナナちゃんメルちゃんコンビ。何故「ちゃん」付けかというと、ゴロが良いからです(笑)。

次回やっと魔王様登場。


蛇足ですが、ダーキがルイスを「君」呼びしているのは少年だと思っているからで、メルちゃんが「ちゃん」呼びしているのは少女だと思っているからです。見た目は10才前後なので仕方無いかと、ルイスは面倒くさくて訂正していません。

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