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勇者と魔王と按摩師と  作者: ひなた
1/11

確認はしっかりと

初めての投稿です。出来れば暖かい目で見ていただけると、とても嬉しいです。

人間界と薄い壁を一枚隔てたように魔界は存在し、魔界には様々な姿の魔物が生活している。血気盛んで人に危害を加える者、争いを嫌い穏やかな性質の者、実に魔物の種類は多種多様である。

これは魔界を統べる魔王と、魔王を討たんと吼える勇者と、知らない内に色々捲き込まれている按摩師の物語である。


「うぅぅ…頭痛い…首痛い…気持ち悪い…」

こちらは魔界の魔王城。ただ今の二日酔いのおっさんのような呻き声を出しているのは城の主の魔王様。家臣の魔物たちはベッドで寝そべる魔王様の周りでひたすら狼狽えるばかり。

「誰か魔王様の頭痛を治せる者はいないのか?」

「お薬は処方していますが、一時的にしか効果が出ないようで…どうしたら良いのか…」

「首を切断して頭を入れ替えたら頭痛が治まるのでは?」

「それはお前のようなプラナリア族か不死族にしか出来んだろうが!!魔王様を殺す気か!?」(不死族は読んで字の如し、プラナリア族は首を切断すると体から頭が生え、頭からは体が生えないけどそのまま生きてる凄い一族)

「魔界の治療方は全て試したのです。いっそのこと人間界から医師を連れて来ては如何でしょうか?」

「人間の治療なぞ効くのか?奴らに任せて問題無いと?」

「幸い魔王様は人間によく似たお姿をしてらっしゃいますし、上手く騙せば危害を加えられる事はないのでは?」

「何でもいいから、どうにかしてぇ…」

「それでは、人気が少なく拐っても気付くのに時間がかかりそうな医師を連れて来ましょう。」

このような理由で魔物たちの人間の医師誘拐計画が決定したのである。


「もし拐ってきた人間が使い物にならなかったらどうする?」

「番犬のナナちゃん(ケルベロス)の餌でいいんじゃないですか?」

実に好き勝手で迷惑な魔物たちである。


ところ変わって人間界のとある村外れ。

「うああぁ~…そこそこ…」

「はーい、ゆっくり息吐いてー……はーい、お疲れ様。」

「うーん、体温まってきた。」

「あんまり体冷やさないようにね。」

「はーい、またお願いします。」

ニコニコと笑顔で小屋から帰っていくおばちゃんと、それを見送る白い服を着た少年。この少年、実は女性で年齢も少女ではなく三十路である。名前はルイスといい、この村で施術をしている按摩師の一人である。

「ルイスちゃん、良かったらこれ食べな。」

二件隣の家から小鍋を抱えたおばちゃんがやって来て、ルイスに小鍋を渡す。中にはシチューが入っていた。

「いつもありがとうございます。」

「こっちこそ、いつもありがとうね。一人で来る客全員診るの、大変だろう。」

「そこまで多くないし、明日からは大先生が戻って来られるから、大丈夫ですよ。」

「そうかい?ルイスちゃんがいてくれるから、大先生も安心してのんびり旅行に行けるんだよ。」

「…安心してますかね?」

「安心してなきゃ、まず仕事を休めないだろう?」

ルイスの言葉に、おばちゃんは苦笑いをする。ルイスは首を捻りつつ、改めてシチューのお礼を告げた。


そしてその様子を森の陰から覗く三匹の魔物たち。

「あの建物に入ったおばちゃん、変な声出してたな。」

「でもって、建物から出てきたら顔色良くなってたな。」

「白い服の坊主が『大先生』とか言ってたな。」(ルイスを少年と間違えている。)

「たしか、人間は医者のことを『先生』って言うんだよな?」

「てことは、あの建物は病院か?」

「だったらあの坊主は下働きか?」

「でも、さっきのおばはんは『客を診る』って言ってたな。」

「ということは、あの坊主も医者か?」

「いや、あんな坊主だし、『医者の卵』ってやつじゃないか?」

「それだ!でもって、医者は旅行中とか言ってたな。」

「どうする?坊主しかいないみたいだが、拐うか?」

「医者が『安心して任せる』って言うくらいなら、腕が立つんじゃないか?」(言ったのはおばちゃん。)

「ここなら人気はそれほど多くないし、とりあえずあの坊主連れて行こうぜ。」

「誰が坊主だ?」

「「「ギャーーー!?」」」

気がつけば目の前に立つルイスに勢いよく飛び退ける魔物たち。


「声でかい。近所迷惑。」

「俺たち魔物を見て、言うことがそれだけ!?」

「あと会話筒抜け。ていうか、全然体隠れられてないから。」

「え!?そんなはずは…」

「いや、自分たちの体格考えろよ。」

「「「あれ?」」」

そう、この魔物たちは揃って体格が馬程有るため、木陰に隠れるのも限界がある。ましてや、木が生い茂った場所ならいざ知らず、村外れとはいえ整備されている為かなり目立っていた。


「それで、わざわざ何しに来た?こんな田舎で馬鹿やったって、人間界を征服なんか出来ないぞ。」

「いや、征服しに来たわけではなく…」

「じゃあ子供でも拐って食べに来たのか?」

ルイスは静かに血糊が付いた斧を魔物たちに突きつけた。

「いやいやいや、何その物騒な斧!?」

「子供を食べる前に切った方が良いかなと。」

「食べない!食べないから!!俺たち草食!!」

「あと、切るって何!?」

「頭か×××。」(×××は敢えて伏せさせて頂きます。)

「「「………」」」(((人間、恐ぇぇえ!!)))

思わず真っ青な顔でガタガタ震える魔物たち。

「じゃあ、何しに来たんだよ?」

「人間の医者を探してるんだ!」

「なんで?」

「魔王様が病気になって、治せる医者が必要なんだ!」

「魔王って、そっちのトップだろ?人間に『病気』って暴露して良いの?」

「「「あ!」」」

「…君ら、馬鹿だろ。」


「…で、魔王とやらはどんな具合なわけ?人間の医者なんて、魔物より治せないことが多そうだけど…」

なんだかんだで魔王の症状に興味が湧いたらしく、ルイスは魔物たちに話を進めさせた。

「え~っと…確か、『肩が痛い』ってお話だったな…」

「え?俺は『頭と目が痛い』って聞いたぞ。」

「いや、俺は『背中が重くて、気持ち悪い』って聞いたぞ。」

「元々何か持病があるとか…」

「「「それはない!あの方は健康優良児だ。」」」

「…魔物の健康優良児って何?」

「それに、魔界の医師たちが色々な薬を試したんだが、一時的に効いても直ぐに痛みがぶり返しちまうらしくて…魔王様、大丈夫かな……」

魔物たちは魔王の痛がりぶりを思いだし、ションボリと縮こまってしまった。


「…何が出来るとかでもないけど、それでも文句無いなら、一緒に行こうか?」

軽くため息をつきながら、ルイスは魔物たちに提案した。

「…え、良いのか?」

「うちの大先生を連れてかれるのは非常に困るから無理だけど、私で良いならね。ただし、私を食べるつもりとかなら全力で抵抗するよ。」

ルイスは再び斧を魔物たちに向ける。

「食べない!食べないから!!お願い!仕舞って!」

「そんな斧、何処で手に入れたのさ!?もの凄く嫌な気配なんだけど!?」

「大先生から弟子入り記念に笑いながらもらった。『これを使いこなして、腕力つけろ!』って。」

「「「………」」」(((『大先生』とやらじゃなくて、良かったかも…)))

三匹の心は一つになった。

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