霊感ゼロのオカルトマニアJCが同級生から除霊を頼まれた話
彼女の名前は宵山ヤヨイ。
どのクラスにも一人は居る根暗な女子中学生だ。
いじめられたり、からかわれたりはしていないが、
どこか同級生から遠巻きにされているような子だ。
教室の一番端の後ろの席で
今日もオカルト関連の本を広げて読んでいる。
同級生は全員彼女の趣味を知っている。
さて、宵山ヤヨイはオカルトマニアであり、
三度の飯よりオカルトが大好きな女子中学生だが
肝心の霊感は全く持ち合わせていなかった。
おばけ、幽霊などは見たことも感じた事もない。
そんな彼女に、同級生はこんな事を頼みに来た。
――友達に取り憑いた幽霊をなんとかして、と。
同級生と言っても必要最低限しか話した事はなく
同じクラスに所属しているだけの子達だ。
クラスのカーストで言えば割と上の方の、
活発な女子グループからのお願いだった。
廃病院に肝試しに行って以来、異変が起こる。
病棟のガラスを割った子は高熱を出した。
椅子を倒した子は怪我をした。
写真を撮ったスマホからは謎の着信が入る。
常に誰かに見られている気がする。
自宅で怪音が響いて眠れない、などなど。
興味深く話を聞きながらも、宵山ヤヨイは思う。
なぜ私に言う?
宵山ヤヨイはただのオカルトマニアであり、
霊感はゼロで、霊的な体験もしたことがないのだ。
しかし、肝試しにいった同級生から見れば、
周りで一番そういうことに詳しいのは
宵山ヤヨイ、ただ一人だ。
お寺や神社にお祓いに行くという選択肢は、
女子中学生である彼女達には全くなかった。
祈祷料が掛かるという懸念もあったかもしれない。
とにかく詳しい人に話して何とかしてもらいたい、
その一心での相談だった。
そこで断るか、他の選択肢を提示したらいいのに
宵山ヤヨイは、降って湧いたように訪れた
千載一遇のチャンスを逃したくなかった。
最近読んだオカルト漫画で主人公がやっていた
除霊方法を試してみたいと思ってしまった。
謎の心霊現象に悩む女子グループを校舎裏に呼び、
見様見真似で呪文を唱える。
ひとふたみいよ、いつむななや、ここのたり
ふるえ、ふるえ、ゆらゆらとふるえ
神妙な表情を作り、
それっぽく手を翳し、
宵山ヤヨイは漫画の主人公に成りきった。
覚えていた呪文は短く、
意外と早く唱え終わってしまったので、
別の本に載っていた祝詞を読み上げたりもした。
勿論、宵山ヤヨイに除霊出来るような能力はない。
しかし、
女子グループを悩ませていた謎の心霊現象は
この日以来すっかり収まった。
宵山ヤヨイの除霊の真似事が効いたのだろうか。
いや、それは違うだろう。
宵山ヤヨイに頼った女子グループのメンバーは
軽い気持ちで肝試しに行った事を後悔していた。
廃病院などという場所が罪悪感を増進させた。
なんてことのない物音や何かの偶然を
全て幽霊のしわざだと思い込んでしまうくらいに。
宵山ヤヨイの存在は
悪い事をしたという気持ちを吐き出して
スッキリさせる為に利用されたのだ。
自分達の為だけに無関係の他人を巻き込むなんて。
普通の感覚を持つ人ならばそう思うだろう。
だが、
宵山ヤヨイは生のオカルト体験を聞かせてもらい、
おおっぴらに除霊ごっこが出来た。
女子グループは罪悪感から解放された。
どちらにも損はない、良い取り引きだった。
だから、
廃病院の幽霊はこれ以上彼女達に関われない。
気持ちを持ち直した者には
この世の者ならざる存在は感じ取れないからだ。
宵山ヤヨイは霊感ゼロだが、
初めての除霊は一応成功したと言える。