距離
9月3日
「ブンコ、消しゴム貸してくんない?」
消しゴムを忘れた事に気が付いた俺は、まだ慣れないイメチェンしたブンコに話しかけた。
本当は、昨日の事を色々と聞いてみたいけれど、そんな気力はとてもじゃないけど持ち合わせていなかった。
「いいけど……」
「けど?」
俺に消しゴムを渡しながらブンコが口を開いた。
何だろう?
「ブンコって呼ぶのやめてくんない?」
「急にどうした?」
「なんでもいいからブンコはやめてよ」
目線を合わさずにそう宣言するブンコに気落ちする。
「わかったよ。 アカギさん」
お前が名前を呼ぶのをやめろって言うから苗字で呼んだのに、なんでそんな怒ってたような顔をするんだ?
9月4日
授業が終わり、今日こそは話をしようと気合を入れてブンコを見やり、話しかけようとしたところだった。
「ブンコちゃん、先輩が呼んでるよ」
ニヤニヤしながらアカリが俺たちの横にやってきた。
「アカリ、呼んでるって何よ?」
「サッカー部の2年のオオタ先輩。 知らない?」
アカリはブンコに話しかけているはずなのに、ときおり俺の方にチラチラと目線を送ってくる感じがする。なんだよ?
「知らないよ? 何の用って?」
「結構イケメンって有名よ? 割とファンの子もいるみたい」
「だからあ、何の用って言ってたの?」
「そりゃアンタ、放課後に男子が女子を呼びだすなんて、そりゃあそーいうモンでしょ?」
「ええー?」
マジでか?完全に見た目が変わったブンコは、随分とモテるようになったようだ。昨日はバスケ部の先輩と歩いてたじゃないか。
でもまだイメチェンしてから1週間も経ってないのに、もう告白?早すぎないか?完全に見た目だけしか見て無いんじゃねえの?
そっと様子を伺おうと、ばれないようにブンコを見たつもりだったが、バッチリと目が有った。
「……」
「……」
「……何よ?」
「……なんもねえよ」
「……アカリ、行ってくる」
ガタガタとイスを蹴立ててブンコはドアに向かって行った。
アレが先輩か。確かにイケメンだ。でも、ブンコは見た目なんかで付き合ったりしない。しないよな?
自信がない。もしも付き合ったりしたら?どうしよう?
「ジュンタ、いいの?」
「何が?」
「ブンコ取られちゃうよ?」
「取られるってなんだよ? 俺、関係ないし」
「ホントにいいの?」
なんでそんなにニヤニヤしてるんだよ?
「付き合ったりすんのかな?」
「どう思う?」
「しない。 ……と思う」
「わかんないわよ? あの子メッチャ可愛くなったじゃない」
「アカリはなんでブンコがイメチェンしたか知ってるのか?」
「……さあ? 女子だから、可愛くするのは当然でしょ? ブンコ可愛いでしょ?」
そんなことは前から知ってる。
「とりあえず頑張らないと、知らないわよ?」
「わかってるよ」
「あららあ?」
だから、なんでそんなに嬉しそうにするんだよ?
「ブンコが先輩とどうなったか、教えてくれね?」
「ダメー、自分で聞きなさーい。 じゃあねえ」
そう言って、含み笑いをしながら去って行った。
クソっ!気になるから探してみるか。
ひととおり校内をうろついてみたけど、それらしい人影も見つけられなかった。
最後の手段だ。昨日はスルーされたけどRINEしてみるか?
”なあ?”
”何?”
今日はすぐに返信が来た。
”先輩、何の話だった?”
今度は、既読が付いたけど返信が3分程経ってから届いた。
”あんたに関係あるの?”
”無いかもしんないけど、教えてくれ”
また少し遅れて返信。
”付き合ってだって”
”付き合うの?”
”つきあわぬい”
今度は、めっちゃ返信が早い。なんだよこれ?誤字?
”付き合わない”
”誤字”
”関係無いでしょ?”
”なに?”
”何か言いたい事あるの?”
誤字が恥ずかしかったのか?めっちゃRINEきた。
”付き合うのか聞きたかった”
そう送った返信は、たった一言。
”ふーん”
たっぷり15分後だった。
明日、絶対に話をしよう。