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出会い

4月8日


「お隣さんだね! よろしく!」

「あ、よろしく」

「いやあ、アタシこの高校にほとんどおんなじ中学校の子いなくてさあ……!……だから……!……?……なんだよねえ………あ、それから……!……そうそう、アタシ、アカギフミコ! でもなんか呼びにくいから、ブンコって呼んでね!」

「お、おう」


小さいのにめっちゃ良くしゃべるメガネだな。最初の印象なんてそんなもんだ。


今日は、高校の入学式。

県立中野仲高校、普通科。特筆するような特徴がないそこそこの地方都市にある、そこそこの学校だ。

そこそことはいえ、中学生活3年間を可もなく不可もない成績を遺憾なく発揮してきた俺が、どうにかこうにかで入る事が出来たのだ。落第しないようにある程度はがんばらなければと覚悟している。

今までの俺は、それなりに楽しいような、楽しくないような、有る程度のコミュニケーションを能力を発揮し、上でもなく下でもないスクールカーストに従って生きてきた。

168センチ、62キロのいたって中肉中背、特に恵まれた身体能力が有るわけでもない。

彼女がいるわけでもなく、とりたててイケメンという事もなく、彼女がいるわけもなく、かといって趣味があるわけでもなく、彼女が出来た事もなく、自分ではフツメンであると信じている、彼女がいない15年を、特に何も、特になんにも不満が有るわけでもなく過ごしてきた。

高校生になったからと言って劇的に何かが変わると思っていたわけじゃないけれど、心のどこかでは、きっと何かがあるはずだと甘い考えを持っていた。

そう、食パン遅刻元気美少女とぶつかったり、学校一の黒髪お嬢様美少女が隣に座っていたり、金髪のハーフ美少女転校生がいたり、めっちゃ美人の未亡人保険医さんがいたり。

でも実際は、遅刻なんかしないし、入学式に転校生の意味が分からないし、保険医さんは定年間近で、隣に座ってるのはオシャベリメガネ(小)だ。黒髪以外はまったく違う。

当然だ。まあこれから3年間、きっといろいろあるだろう。楽しく過ごせたらそれでいいな。



4月11日


「アカギさん、消しゴム貸してくんない?」


消しゴムを忘れた事に気が付いた俺は、隣の席のアカギフミコに話しかけた。


「いいけど……」

「けど?」


俺に消しゴムを渡しながら、赤木さんが眉根を寄せた。


「ブンコって呼んでくんない?」

「急にどしたの?」


急に女の子をあだ名で呼ぶのは、そこそこハードル高くない?普通かなあ?


「昨日、お父さんの漫画読んでてさあ……アカギって出て来るキャラが何人かいて、みんな、なんかねえ、イメージが……」


そう言って苦笑いを浮かべている。なるほど。ゴリラっぽかったとか、ギャンブルの天才だったりとかかな?


「分かってくれるかねイノウエ君? いやさジュンタ!」


目線をしっかり合わせてそう言って来るブンコ。


「あー、イメージがねえ……まあ、よろしくブンコ。 消しゴムありがと」

「おー!分かってくれた!」


なんだか目がキラキラしてるなあ。面白いヤツ。



4月18日


「でさあ、アタシはめっちゃ良いと思うわけですよ。 そこんとこジュンタどう?」

「いやさ、ブンコ殿。 その漫画はここからグダル。 自然の摂理だ」

「摂理かあ。 摂理ならしょうがないね。 帰りにマック寄ってこうよ。 アタシお腹空いたよ」

「太るぞ?」

「成長期だから大丈夫」

「成長期なら仕方ない。 むしろ成長しなきゃ……痛っ!」


左脛を蹴られた。


「別に痛くないでしょ?ああん?」

「痛くないです」



5月7日


「ブンコ、久しぶり!」

「おはようジュンタ! これお土産」


田舎に里帰りしていたブンコのお土産は、見た事の無いゆるキャラストラップだった。


「なんだこれ?」

「謎のゆるキャラ! 可愛かったに、買ってきたあ!」

「かったに?」

「…………」

「……たに?」


鼻の頭が真っ赤になっていく。


「ちょっと方言うつったんよ!」

「たん?」


左脛を蹴られた。


どうやら田舎で方言ががっつり伝染ったらしかった。

かわいい。



5月23日


別に、何か特別なイベントが有ったわけじゃない。いつも道理だ。

正解は知らないけど、これがきっと”そう”なんだろう。

まだ口に出して伝える勇気は出ないけど、ブンコもそうだったら良いな。



6月10日


「明日、雨降るよー。 傘持ってきなよ?」

「オカンかっ! 天気予報晴れじゃん」



6月11日


その日は朝からで晴天だったのに、午後からドンドン雲行きが怪しくなっていき、放課後には土砂降りとなっていた。


「だから言ったでしょ」

「得意げな顔がムカつく」

「そんな事言う奴は入れてあげませーん」

「あ、冗談ですブンコ様。 濡れてしまいます」

「ンフフ、しょうがないなあ」



6月22日


「ジュンタ、傘忘れた」

「お前、いっつも天気予報ばっちり言い当てるじゃん?」

「忘れた」

「……一緒に帰るか?」

「……うん」



7月18日


「暑いなあ」

「あ、暑いって言ったからガリガリ様買って」

「そんなゲームしてなかったよな!?」


俺とブンコの共通の通学路である土手沿いを並んで歩く。自転車通学の俺は徒歩と電車で通うブンコに合わせて自転車を押して歩いていた。

右手に自転車をおす俺のすぐ左横で今日もブンコが笑っている。


「いっつもカバンを俺に持たせて楽だろ?」

「自転車に乗せてるだけじゃん!」

「ああ、重いなあ。 重いなあ」

「ちぇっ!仕方ないなあ、今日だけはガリガリ様をおごってやろう」

「安いアイスで偉そうに」

「ああん?」

「……すいません」


アイスの時間分、長く2人でいられるんだ。最高だな。

なんのとりとめもない会話はとても楽しいけど。


「夏休みさあ、プール行くだろ?」

「ダイキとアカリもオッケーって言ってたよ」

「……で、その後さ」

「家族旅行やら里帰りやら忙しいねえ」

「8月最後に夏祭りあるだろ?」

「ああ、花火は無いんでしょ? 花火見たかったなあ。 花火しようよ!花火!」

「……花火しよう。 夏祭り行ってから」

「いいね! 夏祭りと花火! アカリにはRINEしとくから、ダイキに言っといてよ?」

「二人で」

「へ?」

「二人で、夏祭り、行かね?」

「……二人で……夏祭り」


どんどんブンコの顔が赤くなる。さっきまで、セミの声がうるさいくらいだったのに、なんだか聞こえもしない。


「……いいよ」


真っ赤になった顔で、囁くような声で、それでもまっすぐ俺の目を見て答えてくれたブンコは、すごく可愛かった。

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