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9月2日 2

読んでいただき感謝感激雨アラレでございます。

9月2日 1時間目


「イノウエー。 元気になって良かったなあ。 ほれ課題だせよ~」

「はいアリ先生。 こちら、ご用意しております」

「よーし。 まさか昨日の休みでがんばって仕上げたんじゃないだろうな?」

「とんでもねえですよ。 へっへっへっ」


教室から軽い笑いが起きた。

1時間目の授業は、担任のアリタ先生の数学だ。昨日休んだ俺は、一人だけ提出していなかった、課題を全員の前で提出させられることになった。40代の大柄で、いつもニコニコしている人で、結構フレンドリーな教師だ。なかなか人気があり、みんな親しみを込めてアリ先生と呼んでいが、このアリ先生、するどいな。当然のように月末にため込んで、最後にこなそうと思っていたが、まさかの体調不良。昨日朝一で病院に行き、登校許可を貰った後に必死でやったのだ。おかげでスマホの買い換えは今日の放課後だ。


「よーし、これでクラス全員揃ったし、今日から通常授業だぞ。 夏休み気分もおしまいだ」


あの~、完全に夏休み気分の人が一人いますよ?窓際の一番前の人。

とは言う物の、ウチの学校は校則がだいぶんとユルイ。栗色くらいの髪色の生徒はソコソコ居るのだ。生徒の自主性を重んじウンタラカンタラ……

したがって、ブンコのイメチェンというか、ギャル化というか、垢ぬけたというか、この俺のなんとも言えないモニョっとした気持ちは誰にも文句が言えないのだ。

モニョモニョしい気持ちのまま、最前列のブンコの背中を見やる。後姿を見て、アレがブンコだとすぐわかる奴いるのか?


「アリ先生ー、ワタナベさんが黒板が見えにくいみたいなんで、アタシが席代わってもいいですか?」


ぼうっと纏まらない考え事をしているうちにブンコがアリ先生に訴え出ていた。目が悪い生徒と席を交代するらしい。

ワタナベって……俺の隣の席じゃん!?ブンコがまた俺の隣に来るのか?やったぜ!


「ワタナベは目が悪かったっけ?」


アリ先生がワタナベに問いかけているが、どうやら夏休み中に目が悪くなったらしくブンコに席の交代を願い出たらしかった。


「昨日の席替えの時に教えろよ~。ブンコはコンタクトに変えたから良く見えるのか?」

「いやー、昨日はいけると思ったのにー、やっぱ黒板見えなくって」

「アタシ今、両目とも1.5で~す」


教師受けも良いブンコと軽口を交わしながら、アリ先生が席の変更に許可を出した。ごそごそと机から荷物を引っ張りだしながら、ブンコが俺の隣に来た。


「また隣になっちゃったねえ」

「そうだな。 よろしくな」


ニコニコと機嫌が良さそうに自分の荷物を持ったブンコが、俺に話しかけてきた。なんかいつも通りって感じだ。ほっとする。


「ブンコよりタナカとかの方が目が良いんじゃね?」


俺は列の中ほどに座った人物に目線をやりながら軽口をたたいた。こうやってじゃれつくと、ブンコはいつも言い返してくる。これが俺たちの距離感だよな。


「……いいのよ。 買ったばっかのコンタクトですから。 これでいいの」


つい一瞬前まで、にこやかだったブンコの表情が一気に真顔になった。おかしい。

お前、そこはノリツッコミじゃないのか?なんで?


その日の昼休みまで、ブンコから俺に話しかけて来る事はなく、俺からも声をかけられなかった。

物足りない気持ちももちろん有るが、下手に話しかけて、彼氏が出来たなんて聞かされたりしちゃった日には、もう一回寝込んでしまう。無理だ。


鬱々とした気分のまま訪れた昼休みの事、俺は登校中に買ってきたコンビニおにぎりを食べようとしていた。ダイキとブンコの事を話したかったので声をかけたが、購買にパンを買いに行くらしく、ダッシュで教室を後にして行った。なんだよ~。早く帰って来てくれよ~。

ちらりと横目にブンコの事を見てみたが、澄ました顔でノートを片づけていた。

どうするかなあ?話しかけてみるかあ?いや~……無理かあ。行くかあ?

よし、ココは向こうから話しかけて貰いたい大作戦を敢行する!


「いや~、腹減ったなあ~」


チラリ、とブンコを見る。

……無反応。


「さ~て、ご飯ご飯」


チラリ。横目でうかがうが、やはり無反応か。

今日のブンコは手ごわいな。さて、次はどうするか……

少し考え込むと、不意に隣に人が立つ気配がした。


「おいキサマ」

「なんでしょうブンコ様」


おお、自然に敬語が出ちまった。なんだこの圧力は?

だがブンコが話しかけてきた。我、向こうから話しかけて貰いたい大作戦を成功せり。

ここでいつものノリで話を膨らましていくぜ。俺の話術をくらうがいい!


「アタシになにか言う事は無いのか?」

「今日はツナとタラコでございます」

「やっぱツナが一番だよねぇ……そんなことは聞いておらぬ」


おお、この感じだ。いけるいける。


「ならば、アッシのツナをどうするおつもりで?」

「ンフフ。 ワラワに年貢として、献上するがよい」

「そんな! ご無体な!」

「……」

「…………」


まただ。またブンコが黙っちまった。なんか喋らなきゃ。


「あー、あの」

「……」

「イメチェンしたな」

「うん、イメチェンしたよ」

「ビックリした」

「……」


ヤバい。目がマジだ。これは怒ってるのか?何か間違った?前のブンコはコロコロ変わる表情が魅力だったと思うけど、今日のこいつは無表情が多い。


「あー、目、コンタクト」

「うん」

「乾かない?」


これは、分かる。大失敗だ。オールドタイプの俺にも殺気が解るぞ。


「……それだけでゴザルか?」


これも。分かる。あと一回は発言させて貰える。ただし、次ミスったら、死刑も覚悟だな。


「大きいよな、目」

「……」

「知ってだけど」

「……」

「あー、眼鏡はー、そのー」

「……」


そんなに見ないでくれよ~……


「眼鏡、無し、似合うな」

「似合ってる?」


俺はなんとか絞り出すように告げた。


「あー、うん……かわいい……んじゃないかと……思う人が多い、と思う」

「二点」


ブンコが無表情のまま、俺に告げてきた。


「一億万点中の二点」


捨て台詞を残すと、俺の机からツナおにぎりを勝手に奪って歩き去って行った。

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